『バトルアスリーテス 大運動会』の復活が話題になった理由 美少女になりたい願望?
マグミクス / 2020年9月13日 15時10分
■美少女になって輝きたいという願望
VTuber(バーチャルYouTuber)の活躍が、とどまるところを知りません。ホロライブプロダクションの所属生を中心とした有名キャラクターともなると、投稿した新作動画が必ずと言っていいほどSNSのトレンドに上がり、なかにはいわゆる「投げ銭」で、瞬時に巨額の売上を稼ぎ出す人もいます。
もちろん、男性をかたどったVTuberも多いですが、第一線級に女性VTuberが目立つのは、「バ美肉」という言葉の持つ真実性を、はからずも証明しているのかもしれません。「バ美肉」というのは「バーチャル美少女受肉」の略で、バーチャルの世界で美少女として受肉し、その姿でチヤホヤされ、何かをしてみたいという願望のこと。そんな想いを心に秘めてリアルの世界を生きる人は、案外、少なくないのです。
美少女アイドルを熱烈に「推す」気持ちの本質も、男の性欲とはむしろ相反する、「美少女に感情移入して、美少女と同じ物語を共に生きたい」という気持ちだといいます。確かに、美少女アイドルを推すファンには、男性だけでなく女性も多く見られます。
「僕(私)も彼女のように、どこまでも純粋な気持ちで、夢に向かってひたむきに頑張りたい!」「彼女のように、キラキラと輝く美少女に自分もなりたい!」そんな気持ちが熱狂の本質なのだとしたら、美少女を主役にしたアイドル物だけでなく、スポーツ物のアニメが人気を呼ぶ理由も分かる気がします。『ガールズ&パンツァー』の戦車(タンク)バトルは、作中では戦車道という武道スポーツとして描かれていますし、純粋に実在するスポーツとして野球を描いた『八月のシンデレラナイン』のような作品もあります。アイドル物の金字塔「ラブライブ!」シリーズも、特にTVアニメのファーストシリーズは、内容的にはスポ根物にかなり近いものがあります。
2020年8月31日、TVアニメ『バトルアスリーテス 大運動会ReSTART!』の製作と放映が発表され、SNSを中心に大きな話題になりました。
1997年から1998年にかけてTVアニメとOVAを中心にメディアミックス展開が行われた 『バトルアスリーテス 大運動会』は、未来の宇宙に暮らす女の子達が、宇宙一の座をかけてさまざまなスポーツで真剣に競い合うという、まさに美少女スポ根物の典型。メディアミックス展開が行われていた当時、夢中になっていたファンは、戦う少女達を応援するのと同時に、できるものなら彼女達になり替わりたいと、心の底では願っていたのかもしれません。
■敗れ去った者への敬意と喝采
およそ23年ぶりの復活作となる『バトルアスリーテス 大運動会ReSTART!』が、どのような内容になるのか、ティザービジュアルに描かれた主役らしき少女は旧作に登場した神崎あかりなのか、詳細は今のところ続報を待つしかないようです。
シリーズ復活がSNSで大きな話題になった理由は、端的に言えば、ことぶきつかさ氏や水島精二氏などメディアミックス当時の空気を知る有名クリエイターが、こぞって反応したのが大きいでしょう。それでもやはり、「自分も美少女になって、どこまでも純粋な気持ちで、夢に向かって頑張りたい!」という潜在的な願望が、今も根底にあることが理由のように思えてなりません。
『バトルアスリーテス 大運動会』の作品内容では、もうひとつ、語っておきたいことがあります。勝利をつかんだ者だけでなく、全力で戦った末に敗れ去っていった者にも、等しく敬意と喝采が送られていることです。
主人公の神崎あかりは、最初は弱虫の落ちこぼれだったけれども、宇宙撫子(コスモビューティー)と呼ばれる宇宙一の座を真剣に目指すうちに、めざましい成長を遂げていきます。他のヒロインたちも、あかりの単なる踏み台として登場するのではありません。夢をつかもうとする理由がそれぞれにあり、全力で戦い敗れ去るまでの苦悩と葛藤を経て、自分を負かし乗り越えていった勝者の背中にエールを送るようになります。だからこそ、見ている者は心から共感し、没入することができるのです。
脚本を手がけたのは、黒田洋介氏と倉田英之氏という、物語の面から日本のアニメ界を盛り上げてきた名脚本家のふたり。最初は情けなかったあかりを守り、何かと世話を焼き、そのあかりに追い抜かれていく柳田一乃の葛藤。デトロイトのスラム街から身を起こしたジェシー・ガートランドと、恩人であるボブソン・ハワード神父との物語。TV放映版で描かれた鮮烈なエピソードは、並のライターでは、おそらく書けないものでしょう。
『バトルアスリーテス 大運動会ReSTART!』は、本来であれば、2020年に開催予定だった東京五輪に合わせた企画だったのかもしれません。その五輪も、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて開催自体が不透明になってしまいましたが、スポーツの熱気自体は、世界から消えてしまうものではありません。およそ23年ぶりの復活作が、少なくとも旧作の作風や魅力は引き継ぎつつ、熱気をよみがえらせてくれるに違いないでしょう。
(もこ平)
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