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手塚治虫の意欲作『クレオパトラ』公開から50年。「アニメは子供のもの」の常識に挑む

マグミクス / 2020年9月15日 9時10分

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■大ヒットした『千夜一夜物語』 に続く、虫プロの劇場第2作

 かつてアニメーションは「テレビまんが」や「マンガ映画」と呼ばれ、子供向けに作られた作品がほとんどでした。子供たちは大きくなると、アニメーションから卒業していくものと考えられていたのです。そんなアニメ界の常識に疑問を呈したのが、「漫画の神様」手塚治虫氏でした。

 手塚治虫氏が国産アニメーションを生み出すために設立したスタジオ「虫プロダクション」では、1969年に大人向けの劇場アニメ『千夜一夜物語』を制作・公開し、これが大ヒット。気をよくした「虫プロ」が1970年に公開したのが『クレオパトラ』です。

 2020年9月15日(火)は、『千夜一夜物語』以上に大胆な恋愛描写を盛り込んだ『クレオパトラ』の劇場公開から50年となります。のちのアニメ界に与えた影響を振り返ります。

 日本初のTVアニメシリーズ『鉄腕アトム』(フジテレビ系)の放映が始まったのが1963年。その後も「虫プロ」は、『ジャングル大帝レオ』『リボンの騎士』『どろろ』(フジテレビ系)などの名作アニメを手掛けます。しかし、TVアニメは制作費が安いため、慢性的な赤字経営が続いていました。その打開策として企画されたのが、劇場公開を前提とした「アニメラマ」です。「アニメラマ」とは、アニメーションとドラマを合わせた造語です。大人向けの大衆娯楽作として制作されました。

「虫プロ」のベテランアニメーター・山本暎一氏が監督したアニメラマ第1弾『千夜一夜物語』は、配給興収2億9000万円の大ヒット。年間興収でも5位にランキングされるという、好成績を収めました。新宿ミラノ座、渋谷パンテオンなどの大劇場に若者たちが詰めかけ、「アニメは子供が見るもの」という既成概念を打ち砕いてみせたのです。

 続く『クレオパトラ』は、山本暎一氏と手塚治虫氏が共同監督することに。古代エジプトの女王・クレオパトラの数奇な運命が、アニメーションならではのシュールな演出も交えて描かれています。キャラクターデザインには、日本酒「黄桜」のマスコットキャラクターでも知られる漫画家・小島功氏が起用されていました。

■クレオパトラは美女ではなかった!?

1970年に刊行された、手塚治虫監修、坂口尚作によるコミカライズ版の復刻版、『クレオパトラ』完全版(復刊ドットコム)

 日本ヘラルドによって配給された『クレオパトラ』は、こんなストーリーです。実写とアニメを融合させたユニークな冒頭シーンから、物語は始まります。未来人のマリア(CV:吉村実子)ら3人の男女は、精神だけを過去へ送りこむことができる最新の科学技術によって、クレオパトラが生きていた時代に旅立ちます。マリアたちは歴史の意外な真実に立ち会うことになるのです。

 エジプトの王女・クレオパトラ(CV:中山千夏)は、世に言われるような絶世の美女ではありませんでした。軍事力で圧倒するローマ帝国の将軍・シーザー(CV:ハナ肇)からエジプトを守るため、クレオパトラはハニートラップを仕掛けるのでした。全身整形手術を受け、驚くほどの美女に大変身したクレオパトラは、シーザーをたちまち虜にしてしまいます。

 やがて、クレオパトラはシーザーの子供を身篭ります。シーザーを暗殺するチャンスがありながらも、クレオパトラは実行に移すことができません。ひとりの男を愛し、母性愛があふれるようになるクレオパトラの喜びと悲しみが、ひしひしと伝わってきます。

 その後のクレオパトラは、やはりエジプトを守るために、シーザーの後継者となるアントニウス(CV:なべおさみ)にも色仕掛けで近づきます。未来からやってきたマリアたちの運命も絡み合いながら、戦乱下の人間模様が紡がれていきます。歴史上の人物であるクレオパトラが、生身の女性として生々しく描かれていることが印象に残ります。

■「映倫」のチェックも入った恋愛シーン

 劇場公開から数年後にTV放映された際に、『クレオパトラ』を視聴したのですが、子供にはかなり刺激の強い内容でした。小さな布袋のなかから、生まれたままの姿のクレオパトラが現われるシーンには、とてもドキドキさせられました。クレオパトラとシーザーとの恋愛シーンは、「映倫」のチェックが入ったそうです。

 DVDで改めて見直すと、シーザーが暗殺されるシーンは、歌舞伎の人気演目『仮名手本忠臣蔵』の「松の廊下」の場面をモチーフに描かれるなど、アバンギャルドな演出に目を見張ります。公開から半世紀が経っていますが、今でも充分に大人の鑑賞に耐えうる娯楽性と芸術性を兼ねそろえた内容です。

 アニメラマ第2弾『クレオパトラ』は、年間興収ランキング10位に入るなど、前作『千夜一夜物語』ほどではありませんでしたが、まずまずの結果を残しました。ですが、「虫プロ」の赤字経営を立ち直らせるまでには至らず、1973年に「虫プロ」は倒産することになります。

「虫プロ」倒産後、山本暎一氏が企画・脚本・監修を担当したTVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(日本テレビ系)が1974年からスタート。前時代の戦艦が改造され、地球の危機を救うというSF作品『宇宙戦艦ヤマト』は1977年に劇場公開され、空前のアニメブームを巻き起こします。

 また、「虫プロ」で演出家としてのキャリアをスタートさせた富野由悠季氏は、1979年に放映が始まったサンライズ制作のTVアニメ『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)で大ブレイクを果たします。連邦軍の主力部隊ではなく、少年兵たちによって構成されたはぐれ部隊のサバイバルストーリーでした。『ヤマト』と『ガンダム』、山本暎一氏と富野由悠季氏の「虫プロ」における立ち位置を、どこか彷彿させるものがあります。

「アニメは子供が見るもの」。そんなイメージを「虫プロ」出身者たちが、大きく変えていきました。新しいジャンルにも果敢に挑戦しようという「虫プロ」が培った新進性が、のちのアニメ界に与えた影響は少なくないのではないでしょうか。

(長野辰次)

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