アニメ『ベルサイユのばら』 最終回1話前での「つづく」に絶望した思い出
マグミクス / 2020年10月10日 8時10分
■『ベルサイユのばら』男装の麗人オスカルとフランス革命
1979年10月10日は、TVアニメ『ベルサイユのばら』の放送が開始された日です。フランス・ブルボン王朝の末期を舞台に男装の麗人オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェと悲劇の王妃マリー・アントワネット、そして哀しき愛に身を焦がしたアンドレ・グランディエとハンス・アクセル・フォン・フェルゼンら、揺れ動く時代に翻弄されながらも懸命に自分の人生を生きようとしたキャラクターたちが繰り広げた骨太のストーリーは、多くの人の心を震わせました。小学生から中学生の頃に再放送で何度も『ベルサイユのばら』を見続けたおかげでフランス革命史に詳しくなれたライターの早川清一朗さんが当時を回想します。
* * *
TVアニメ『ベルサイユのばら』は池田理代子先生の同名の原作をアニメ化した作品です。全40話。本放送直後から爆発的な人気を獲得し、何度も何度も再放送が行われた不朽の名作です。
筆者が『ベルサイユのばら』を見始めたのがいつなのかは記憶がありません。しかし物心ついた頃にはしょっちゅう再放送が行われており、姉と一緒に見ていました。
まだ一桁の年齢では難しいことは分かりませんでしたが、それでも何度も見ていくうちにいつも剣を手に格好良く戦っているオスカルが、フェルゼンへの叶わぬ愛に苦しむひとりの女性であることや、フランス革命という実際に起こった出来事をベースにしていることが理解できるようになっていったのです。
男装の麗人として生きるオスカルの葛藤、オスカルへの身分違いの愛に苦しむアンドレ、慣れないフランス宮廷暮らしに苦悩するマリー・アントワネット、アントワネットへの許されぬ愛に身を焦がすフェルゼン。作中に登場するキャラクター一人一人がそれぞれ苦悩を抱えながらも、せいいっぱい生き抜こうとする姿は、まるで本当の人間が画面の中にいるかのようなリアリティがあったのです。
ほかにも魅力的なキャラクターは大勢いますが、なかでも筆者にとって印象深いのが、衛兵隊のアランです。女隊長であるオスカルに反発しながらもやがて恋心を抱き、頼りになる部下として活躍するのですが、妹が婚約者の裏切りで自殺してしまい、腐りゆく遺体のそばでじっと過ごしていたシーンは、今も忘れられません。
■総監督の交代を乗り越えて
さて、『ベルサイユのばら』は当初『超電磁マシーン ボルテスV』などで知られる長浜忠夫氏が総監督を務めていました。これは『ボルテスV』が身分制度や社会的抑圧からの解放を描いた作品であり、フランス革命を舞台とした作品に適していると考えられたためだと言われています。
しかし長浜総監督は、オスカル役の声優である田島令子氏と演技面をめぐる対立があり12話で降板してしまいます。近年のインタビューで田島氏はこのときのことを「オーバーアクションを要求されたりして、少し困ったこともありましたね」と語っており、長浜総監督の求める演技と田島氏が目指した演技に相違があったことを認めています。とはいえ長浜氏もエネルギッシュなキャラクター演出に定評のある超一流のクリエイターです。良い悪いではなく、作品を作り上げていくなかで互いにどうしても譲れない一線が交錯してしまった、やむを得ない降板劇だったのでしょう。
その後しばらく総監督のいない時期が続きますが、19話「さらば妹よ!」から『エースをねらえ!』『宝島』『ガンバの大冒険』など数々の名作を手掛けた出崎統氏が就任し、ガラリと作風が変化します。出崎氏はキャラクターのアップを3回繰り返す「3パン」や、キャラクターや展開を印象的に見せるための「止め絵」など、さまざまな特徴的な演出手法を駆使する方なのですが、これが『ベルサイユのばら』のキャラクターやストーリーと実によくマッチしていたのです。特に39話のラストでオスカルが銃撃され崩れ落ちるシーンの止め絵は、「つづく」と書かれていることもあり、何度も見て展開を知っているにも関わらず、「ここからどうやって続くんだよ……」という絶望と共に、強烈な印象を残しています。
この記事を書くために久々に本編を見返してみましたが、数十年ぶりにも関わらず、オープニングテーマを聞いた瞬間、すべての記憶が蘇ってきました。バラのとげに身を包まれたオスカルの姿も、今改めて見れば、「このオスカルの姿は、因習や軋轢に縛られ苦しんでいることを示しているのだろうか」など、さまざまな解釈が湧いてきます。子供の頃とは全く異なる視点や知識で往年の名作を見るのは思いのほか楽しいものだと、『ベルサイユのばら』で実感できました。
(早川清一朗)
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