『相棒』水谷豊さんのデビュー作、特撮『バンパイヤ』 変身シーンが話題を呼んだ
マグミクス / 2020年10月14日 17時10分
■実は特撮出身だった水谷豊さん
水谷豊さん主演の刑事ドラマ『相棒』(テレビ朝日系)の新シリーズが、2020年10月14日(水)21時からスタートします。水谷さん演じる変わり者の刑事・杉下右京が、4代目相棒となる法務庁出身の異色刑事・冠城亘(反町隆史)と難事件に挑みます。
2000年に単発2時間ドラマとしてスタートした『相棒』は、今回で第19シーズン、20周年を迎えています。近年は映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』(2019年)などの監督としても活躍する水谷さんですが、俳優としてのデビューは16歳のときでした。
水谷さんの俳優としてのデビュー作にして、初主演作となったのが、1968年放送のTVドラマ『バンパイヤ』(フジテレビ系)です。手塚治虫氏の同名マンガを原作にした、かなりユニークな特撮ドラマでした。
■手塚治虫原作、実写とアニメを合成した映像
水谷さんが『バンパイヤ』で演じたのは、謎めいた少年・トッペイでした。田舎から上京してきたトッペイ少年は、アニメーションスタジオ「虫プロダクション」で働き始めます。真面目に働いていたトッペイですが、満月の夜になると様子がおかしくなります。実はトッペイは満月を見るとオオカミに変身してしまう、オオカミ人間だったのです。
トッペイの変身シーンは、ドラマの大きな見どころとなっていました。満月を見て悶え苦しむトッペイの体が徐々に長い毛に覆われて、オオカミに変身する過程が、実写とアニメーションとの合成によって描かれていました。まだCGのない、フィルムの時代です。フィルムとセル画を重ね合わせることで、合成画像を作ったそうです。
アニメーションパートは、当時「虫プロ」に所属し、のちに劇場アニメ『銀河鉄道の夜』(1985年)などの名作を生み出す杉井ギサブロー監督らが手掛けていました。トッペイが勤める「虫プロ」は、原作と同じように東京都練馬区富士見台にあった「虫プロ」のスタジオがそのまま撮影に使われていました。かつての「虫プロ」の雰囲気を知ることができます。
■未完で終わってしまった原作マンガ
原作マンガ『バンパイヤ』手塚治虫文庫全集(講談社)
“マンガの神さま”手塚治虫氏の原作マンガだけに、『バンパイヤ』はスケールの大きな物語でした。「虫プロ」で雑用係をしていたトッペイですが、オオカミに変身するという秘密を間久部緑郎ことロックに知られてしまいます。手塚マンガではおなじみ、サングラス姿のロックが登場することで、ストーリーは大きく動き始めます。
動物に変身するのは、トッペイや弟のチッペイだけではありませんでした。バンパイヤ族と呼ばれる変身人間たちが、世界中に存在したのです。人間から虐げられていたバンパイヤ族の過激派グループが企んでいた「バンパイヤ革命」をロックは利用し、世界征服を画策します。トッペイはバンパイヤ族と人間との板挟みとなり、苦悩するのでした。
やがてバンパイヤ族と人間との間に、熾烈な戦いが勃発します。両者の存亡を賭けた戦争は、1972年から連載がスタートした永井豪氏の傑作マンガ『デビルマン』につながるものを感じさせます。原作マンガは第二部の途中で終わってしまったことが残念ですが、米国では公民権運動が盛り上がっていた当時の国際情勢を反映し、また手塚氏ならではの「変身願望」をモチーフにした興味深い作品です。
■特撮はやはり登竜門。怪人役でデビューしたイケメン俳優も
デビュー作からオオカミ人間という難しい役を演じてみせた水谷さんは、1974年~75年に放映された萩原健一さんとの共演ドラマ『傷だらけの天使』(日本テレビ系)や長谷川和彦監督のデビュー作『青春の殺人者』(1976年)などでも名演技を披露し、人気俳優となっていきました。
特撮ドラマ出身者を振り返ると、『仮面ライダークウガ』に主演したオダギリジョーさん、『仮面ライダー電王』に主演した佐藤健さん、『侍戦隊シンケンジャー』に主演した松坂桃李さん、『天装戦隊ゴセイジャー』に主演した千葉雄大さん、『仮面ライダーW』に主演した菅田将暉さん、『仮面ライダーフォーゼ』の福士蒼汰さん、吉沢亮さんなどの人気俳優が多数います。
変わったケースとしては、綾野剛さんと唐沢寿明さんを挙げることができます。綾野さんは『仮面ライダー555』の怪人スパイダーオルフェノク役で、俳優デビューを果たしています。唐沢さんは若い頃は「東映アクションクラブ」に所属し、1984年に放映された特番『10号誕生! 仮面ライダー全員集合!!』では、ライダーマンのスーツアクターを務めたそうです。
特撮ドラマの多くは半年や1年にわたって放送される作品が多く、若手俳優たちにとっては演技やアクション、スタッフとの接し方などをじっくりと学ぶことができる大切な場所となっています。
これからも特撮ドラマからは、若手俳優たちが次々と羽ばたいていくことでしょう。水谷豊さんは、そんな特撮ドラマ出身俳優の先駆者だといえそうです。
(長野辰次)
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