『鬼滅の刃』那田蜘蛛山編で「神回」放映 伊之助の能力はオランウータン並み！？

■『鬼滅の刃』、「神回」と呼ばれた第19話も全国放映

「猪突猛進！」

　吾峠呼世晴氏の伝奇アクションコミック『鬼滅の刃』は2020年5月に4年間にわたる連載を終えましたが、2019年にTOKYO MXなどで放映されたTVアニメシリーズによって人気が加速し、現在22巻まで発売された単行本は累計1億部を突破、とその勢いは止まりそうにありません。

　2020年10月16日（金）からは『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の公開がスタート。さらに「土曜プレミアム」（フジテレビ系）では、10月17日（土）にTVシリーズ『鬼滅の刃』の人気エピソード〈那田蜘蛛山〉編が一挙放映されます。

　先週の「土曜プレミアム」でオンエアされた〈兄妹の絆〉編に続く、〈那田蜘蛛山〉編はTVシリーズの第15話～21話にあたり、TVシリーズ上のクライマックスとなる盛り上がりを見せます。なかでも第19話「ヒノカミ」は、ファンの間では「神回」と呼ばれています。

　メインキャラクターが出そろい、名シーンが続出した〈那田蜘蛛山〉編の見どころをおさらいします。

■伊之助が見せた特殊能力

　最終選抜に生き残った竈門炭治郎（CV：花江夏樹）は、晴れて「鬼殺隊」に入ることができました。鬼になった妹の禰豆子（CV：鬼頭明里）を人間に戻すための方法を探るため、炭治郎は情報収集に余念がありません。そんな炭治郎は「鬼殺隊」に同期入隊した我妻善逸（CV：下野紘）、嘴平伊之助（CV：松岡禎丞）とともに、恐ろしい鬼が潜む那田蜘蛛山へ向かいます。炭治郎が背負っている木箱の中では、禰豆子が眠っています。

　那田蜘蛛山は、妖しい術・血鬼術を使う「十二鬼月」のひとりである累（CV：内山昂輝）とその家族の根城でした。鬼がめぐらした蜘蛛の系によって、すでに山に入っていた「鬼殺隊」の隊士たちは操られ、炭治郎たちに襲いかかります。これまで「猪突猛進！」とガムシャラに突っ込む印象しかなかった伊之助が、ここで特殊能力を発揮します。獣の呼吸を使い、山に潜む鬼の居場所を察知してみせるのです。

　伊之助が見せた空間認識力は、自然界ではオランウータンが持っていると言われています。うっそうとした森で暮らすオランウータンは、森の全体像を立体的に認識し、どこに熟した果実が実っているかも分かり、最短距離で果実に向かうことができるそうです。オランウータン並みの能力を持つとは、伊之助おそるべしです。

■相手の感情さえ嗅ぎ分ける炭治郎の嗅覚

　炭治郎の能力もユニークです。炭治郎は嗅覚に優れています。炭治郎の研ぎ澄まされた嗅覚は、鬼の気配だけでなく、鬼が抱く感情の匂いまで嗅ぎ分けることが可能です。普段の私たちの生活は、視覚や聴覚に頼ることが多いだけに、炭治郎の常人離れした嗅覚センサーはとても新鮮に感じられます。

　鬼たちとの戦いのなかで、炭治郎は鬼が瞬間的に見せる「隙」の匂いすらキャッチするようになっていきます。炭治郎は「隙」の匂いを視覚化して捉え、「隙の糸」と呼びます。「隙の糸」が見えれば、あとは糸に沿って日輪刀を振り込むだけです。

　一流アスリートがプレーに集中している状態のことを、「ゾーン」に入っていると言います。「ゾーン」に入っているサッカー選手にボールが回ると非常に高い確率でゴールシュートを決め、ラグビー選手はトライをゲットします。「ゾーン」に入っている選手は、ゴールを決める弾道やトライを挙げることのできるコースをはっきりとイメージすることができるそうです。

　剣術の心得はなくとも、多少なりともスポーツを経験した人なら、炭治郎の「隙の糸」という例えは理解しやすいのではないでしょうか。原作者・吾峠氏のセンスのよさ、原作マンガをうまくアニメーション化した外崎春雄監督らの演出力がお見事です。

■生き延びるために見る「走馬灯」

　知力、体力のすべてを使って戦う炭治郎ですが、それでも「十二鬼月」の累を倒すことはできません。炭治郎は背中に負っていた禰豆子を累に奪われ、日輪刀も折れ、絶体絶命のピンチに陥ります。死が迫りくる炭治郎の脳裏に、亡くなった父親が「ヒノカミ神楽」をかつて舞ってみせた姿が浮かびます。蜘蛛の毒にむしばまれつつあった善逸と同じように、死を予感した人が見る「走馬灯」を炭治郎も体験します。この「走馬灯」は、「パノラマ記憶」とも呼ばれ、死の危険を察知した脳が引き起こす現象だと考えられています。

『鬼滅の刃』の面白いところは、「走馬灯」は死亡フラグではなく、生き延びるための方法をこれまでの記憶のなかから脳が無意識に探している行為だとポジティブに解釈してみせるところです。炭治郎は最後の最後まで諦めません。「走馬灯」の1シーンとして蘇った父親に励まされるようにして、炭治郎は最後の気力を振り絞ります。

　愛するものを守るために戦い、そして愛するものたちに支えられることで、炭治郎は生と死のギリギリの狭間を生き抜くことになります。那田蜘蛛山では激しい死闘が繰り広げられますが、劇場版『無限列車編』、さらに原作マンガの9巻以降、ますます熾烈な戦いが待っています。炭治郎と禰豆子は、はたしてサバイバルできるのでしょうか。

（長野辰次）