1話に朽ちた主人公機の衝撃『太陽の牙ダグラム』 メカと政治を描いた、勝者なき長編
マグミクス / 2020年10月23日 17時10分
■衝撃の「クラッシュ・ダグラム」
1981年10月23日は、TVアニメ『太陽の牙ダグラム』(以下、ダグラム)の放送が開始された日です。後に『装甲騎兵ボトムズ』など多数の作品を発表した高橋良輔監督が初めて手掛けたロボット物であり、主人公がテロリスト、敵は議会制民主制を敷いた地球連邦という、単純な勧善懲悪を否定する物語となっていました。作中では夢や希望に向かって突き進む若者たちや、野心と欲望を満たすために暗躍する大人たちなど、大きな歴史の流れのなかを必死に生きる人間模様を中心とした、見ごたえのあるドラマが展開されていました。1話冒頭で主人公機であるはずのダグラムが朽ち果てているシーンを見て、度肝を抜かれた記憶を持つ、ライターの早川清一朗さんが当時を回想します。
* * *
「鉄の腕は萎え、鉄の脚は力を失い 埋もれた砲は二度と火を噴くことはない 鉄の戦士は死んだのだ。狼も死んだ、獅子も死んだ 心に牙を持つ者は、全て逝ってしまった」
『ダグラム』1話の冒頭、砂漠で朽ち果てているダグラムを背景に流れたナレーションは、主人公たちの敗北を意味するものでした。まだ小学校低学年だった筆者には難しい言葉だらけでしたが、それでもなんとなく理解はできたのです。それまで何本ものロボットアニメを見ていましたが、いきなり主人公機が打ち捨てられていた作品は初めてで、そのインパクトはあまりにも絶大だったのです。
実はこの1話は当初の予定では放送する予定がなく、2話が本来の1話として放送される予定でした。しかし2話はダグラムが登場せず、地味すぎると不安を感じた高橋監督が、予告編的な話を最初に入れようと判断し、クラッシュ・ダグラムから始まる1話が製作されたのです。ただ、絵コンテが間に合わず、アニメーターさんたちとけんかになりかけたところを共同監督だった故・神田武幸氏がとりなしてくれたと、後に高橋監督はインタビューで語っています。
■政治家の父を持つ主人公が身を投じたゲリラ部隊「太陽の牙」
さて、『ダグラム』の世界では、地球からの搾取に苦しむ惑星デロイアの人々による独立運動が展開され、さまざまなキャラクターがそれぞれの理由で戦い、そして暗躍します。
この時代、地球は食料や資源の40%をデロイアに依存する状況となっていました。しかしデロイア人に対する差別と搾取は強烈なものがあり、高まる地球への不満は独立運動へと発展したのです。
主人公のクリン・カシムは父親である地球側の高官ドナン・カシムがめぐらせた独立運動潰しの陰謀に巻き込まれるなか、デロイア人たちの苦しみを肌で知り、独立運動へと身を投じます。正規の訓練を受けたパイロットとして、そしてデロイアの未来を憂う若者としてデロイア製のコンバットアーマー(以下、CB)「ダグラム」を託されたクリンは、ロッキーやキャナリーといった仲間たちと共にゲリラ部隊「太陽の牙」を結成、貴重な機甲戦力として戦場を駆け巡ります。
このときデロイア星は特殊な磁気を帯びたガス星雲「Xネブラ」に覆われており、コンピュータの性能が極端に低下してしまう事態に見舞われています。しかしダグラムにはXネブラへの対抗処置が施されており、地球側のCBに対して圧倒的なアドバンテージを持っていたのです。地球側もダグラムに対抗するために装甲を外し布で機体を覆った「パジャマソルティック」などで対抗しますが、ダグラムも外付け動力装置「ターボザック」を装備し強化を図るなど、戦いは熾烈を極めていきました。
しかし胸に情熱を燃やす若者たちとは裏腹に、混乱に乗じて己の野心を満たそうとするものが現れます。ドナン・カシムの補佐官ヘルムート・J・ラコックが、自らがデロイアの支配者になろうと策謀を巡らせるのです。
また、当初はゲリラのリーダー格として理想に燃えていたコール・デスタンは、実戦を経験していくにつれ徐々に落ちぶれ、自身を慕ってくれていた踊り子のリタを勘違いから殺害したことをきっかけに仲間を裏切り、ラコックの情報屋へと落ちぶれます。最後はラコックに切り捨てられ「寄生虫」呼ばわりされて逆上し、彼を背後から射殺してしまいますが、結果的にはラコックによるデロイア支配を防いだ形となりました。数発の銃弾が、クリンたちの繰り広げた数々の死闘よりもはるかに大きな成果をあげてしまったのは、皮肉というものでしょうか。
メインキャラもサブキャラクターもそれぞれの重厚なドラマが展開されつづけたこの作品は、玩具の売れ行きが良かったこともあり、当時としても長い75話で完結します。クリンたち太陽の牙は敗れて武装解除、ドナンもラコックも死に、デスタンは行方知れず。ダグラムも二度と立ち上がることはなく、砂漠に朽ち果てた姿を晒すのみ。それでも生き延びたものは、明日へと向かわなければなりません。1年半の物語の最後を飾ったのは、他ならぬダグラム自身の言葉でした。
「だが砂漠の太陽に照らされながら巨人は確信していた
若者は今日も生き 若者は今日も走っていると
巨人は若者の声を聞いた
吹き渡る砂漠の風の中に確かに聞いた」
(ライター 早川清一朗)
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