声優・松来未祐氏の命日 38歳の若さで…症例が少ない難病で急逝
マグミクス / 2020年10月27日 8時30分
■松来未祐氏を襲ったのは「慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)」
10月27日は、2015年に38歳の若さで亡くなられた松来未祐(まつき・みゆ)氏の命日です。『ひだまりスケッチ』の吉野屋先生や『蒼穹のファフナー』の羽佐間翔子など多彩な役を演じる一方、クー子役として出演した『這いよれ! ニャル子さん』では「後ろから這いより隊」の一員としてオープニングテーマの「太陽曰く燃えよカオス」を担当するなど、幅広く活動していた中で難病に倒れるという悲劇に見舞われました。
慢性活動性EBウイルス感染症(以下、CAEBV)。これが、松来氏の命を奪った病気の名前です。
EBウイルスことエプスタイン・バール・ウイルスは、日本では成人の90%以上が感染しており、多くの場合は抗体が産生されて制御されているごくありふれたものです。しかしごくまれに、なんらかのきっかけでウイルスが再活性化し、免疫制御が不可能になると、慢性的にウイルスが増殖して重症化し、最終的には多臓器不全や悪性リンパ腫を発症して死に至ります。松来氏も最終的な死因は悪性リンパ腫だったことが明かされています。
この病気の恐ろしいところは発熱を始めとしてさまざまな症状が発生するため、「ここがおかしい、あそこがおかしい」と思い病院を受診しても、CAEBVと診断されるまでに時間がかかってしまうのです。松来氏も首のリンパ節が腫れるなど体調不良を訴え、複数回病院を受診してもなかなか原因がつかめず、CAEBVの疑いが浮上したのは亡くなる5か月ほど前のこととなりました。
多い時には4つの番組でラジオパーソナリティを務め、アニメのレギュラー作品も多数、イベントに歌にと引っ張りだこだった松来氏でしたが、体調の悪化によって仕事を失うことを恐れ、親しい方には「私の具合が悪いことは言わないでください」と口止めをしていたそうです。
以前、ある実力派声優の方が「声優は、自分で仕事を作れない」特殊な生き方であると書いた記事を拝見しました。「誰かが作ったなにかに命を吹き込む」のが声優の仕事である以上、誰かに選ばれなくなれば、病気で退場してしまえば、もう復帰するチャンスはないかもしれないのです。次から次へとものすごい才能を持つ新人が現れる世界で、自分が紡ぎあげてきたキャリアを失うのはとてつもなく恐ろしいことでしょう。それでも、声優の方々には体調が悪ければ早めに療養に入って欲しいと切に願います。心の中に声が刻まれている方々の誰も、亡くなってほしくはないのです。
■松来未祐氏が演じた吉野家先生とクー子
『ひだまりスケッチ』キャラクターソング「プリンセス・ティーチャー!」(Lantis)
さて、多くの役を演じておられた松来氏ですが、筆者にとって特に印象深いのが、『ひだまりスケッチ』の吉野家先生と、『這いよれ! ニャル子さん』のクー子です。
吉野家先生は、いい歳の大人にも関わらず主人公たち4人を振り回すキャラクターで、ゆったりのんびりとした世界の中で、この人が出てくると何かが起きるという役割を担っていました。キャラクターソング「プリンセス・ティーチャー!」はもちろん松来さんが担当しており、破天荒な歌詞を楽し気に歌い上げています。当初は年齢不詳のキャラクターだったのですが、原作者である蒼樹うめ先生も「吉野家先生の年齢は松来さんと同い年にしましょう」と決めるほどにキャラクターのイメージにぴったりと合った演技を披露してくれていました。松来氏の逝去と共に、吉野家先生の年齢も38で止まってしまったのも寂しい話です。
そして松来氏の代表的な役としてしばしば名前が挙がるのがクー子です。「クトゥルフ神話」に登場する架空の神「クトゥグア」を擬人化したキャラクターで、当初はニャル子と敵対していたものの、本気を出して超絶かっこいい変身? を遂げたニャル子にしばき倒されてしまいます。実はニャル子に対し極めて強い愛情を抱いており、気を引くためにけんかしていただけで、後に「ニャル子の妻」を宣言するほど際どい性癖のキャラクターを、見事に演じ切ってくださいました。
また、同作品ではオープニングテーマ「太陽曰く燃えよカオス」をニャル子役の阿澄佳奈氏、暮井珠緒役の大坪由佳氏と共に「後ろから這いより隊G」の一員として歌い上げ、「第7回声優アワード」歌唱賞を受賞しています。初めてあの歌詞を見たときの感想を一度伺ってみたいと思っていましたが、その機会は永遠に失われてしまったことが残念です。
いま、改めて思い返しても、松来氏が亡くなられたという知らせはあまりにも唐突で、現実感がないものでした。亡くなられた2015年にも、『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』のアンナ・錦ノ宮や『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』のマジカルサファイアなどさまざまなキャラクターを演じていたからです。しかし『プリズマ☆イリヤ』3期の収録時には既に体調不良は限界を超えており、8話までの収録は終わっていたものの9話以降は台詞の変更とライブラリー音源の編集で対応していたことが明かされています。本当にギリギリまで役者として生き抜いた、松来氏のご冥福を祈らせていただきます。
もっとあなたの演技と歌声を聴きたかった。
(ライター 早川清一朗)
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