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『GODZILLA』から『ゴジラ』へ。日本とハリウッドが歩み寄った、半世紀あまりの歴史

マグミクス / 2020年11月2日 18時10分

『GODZILLA』から『ゴジラ』へ。日本とハリウッドが歩み寄った、半世紀あまりの歴史

■11月3日は「ゴジラの日」。初代『ゴジラ』が日本で公開

 11月3日は、怪獣王ゴジラの誕生日です。1954年11月3日に、シリーズ第1作となる本多猪四郎監督の映画『ゴジラ』が日本で公開されました。核実験によって目覚めた怪獣ゴジラの異形な姿、円谷英二氏による精密な特撮シーン、志村喬さんや平田昭彦さんらが織り成す重厚な人間ドラマは大変な話題を呼び、日本映画史に残る記録的な大ヒット作となりました。

 米国では『ゴジラ』を再編集した英語版『怪獣王ゴジラ』が1956年に公開され、興行的に大成功を収めます。ゴジラは世界中で愛される人気アイコンとなり、生誕50周年となる2004年には、スターの証であるハリウッド大通りの「ウォーク・オブ・フェイム」にその名を刻んでいます。

 2020年11月3日(火)は「ゴジラの日」を記念して、映画専門チャンネル「スターチャンネル」で特集プログラムが組まれています。ゴジラ、モスラ、ラドンに加え、キングギドラが初登場した『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)が17:00~、ハリウッドで製作されたモンスターバース第1弾『GODZILLA ゴジラ』(2014年)が18:45~、同じくモンスターバース第3弾『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)が21:00~と、日米人気作3本が一挙放映されます。2021年5月公開予定の『ゴジラVSコング』の前にチェックしておきたい作品ばかりです。

■ゴジラは単なる巨大生物ではない

 ゴジラの、とにかくデカくて圧倒的な破壊力は、日本人だけでなく、米国人も魅了しました。しかし、必ずしも日本人が愛したゴジラが、そのままハリウッドに輸出されたわけではありません。先述した『怪獣王ゴジラ』は、ゴジラによって東京が壊滅させられていく様子を米国人ジャーナリストが目撃するという構成に修正されています。ゴジラが暴れ回るシーンはそのまま使われていますが、山根博士(志村喬)が最後に語る「もし水爆実験が続けて行なわれるとすれば、あのゴジラの同類がまた世界のどこかに現れてくるかもしれない」という台詞はカットされています。

 やがてハリウッドは、自分たちの手でゴジラを作ることになります。ドイツ出身のローランド・エメリッヒ監督を起用した『GODZILLA』(1998年)です。『インデペンデンス・デイ』(1996年)を大ヒットさせたエメリッヒ監督だけに、ゴジラがNYを蹂躙するシーンは見応えがあったのですが、日本だけでなく米国のゴジラファンからもエメリッヒ版『GODZILLA』は酷評されてしまいます。

 エメリッヒ版『GODZILLA』がブーイングを浴びた理由は明白でした。ゴジラを巨大なイグアナのように描いたからです。ファンにとって、ゴジラは単なる巨大生物ではなく、「破壊神」なのです。人間が畏敬の念を抱く存在でなくてはならなかったのです。

 エメリッヒ監督は、この時の苦い体験を糧にして、かなり日本の文化と歴史を学び直したようです。実録戦争映画『ミッドウェイ』(2019年)は、米国と日本のどちらかに肩入れすることなく、太平洋戦争で亡くなったすべての人たちを敬う作品に仕上げていました。

■「荒ぶる神」として蘇った、新しいゴジラ

『GODZILLA ゴジラ(2014)』。渡辺謙さんが芹沢猪四郎博士役で出演

 エメリッヒ版『GODZILLA』の反省を踏まえ、ハリウッドはさらに新しいゴジラ計画を進めます。それが『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)の監督・坂野義光氏をエグゼクティブプロデューサーに迎えた、モンスターバース第1弾『GODZILLA ゴジラ』でした。渡辺謙さんを芹沢猪四郎博士役でキャスティング、特撮オタクの英国人ギャレス・エドワーズ監督が抜擢されます。

 エドワーズ監督は前作『モンスターズ/地球外生命体』(2010年)で見せたドキュメンタリータッチの手法が、高く評価されていました。『GODZILLA ゴジラ』でも、エドワーズ監督はその手法を活かします。2011年に起きた福島第一原発事故を彷彿させる原発事故シーンを物語序盤に盛り込み、フィクションの世界に緊張感をもたらしています。

 エドワーズ監督が新しいゴジラと戦わせたのは、放射性物質を餌とする新怪獣のムートーでした。ムートーはゴジラの天敵という設定です。次々と核施設を襲うムートーにゴジラが立ち向かうことで、凶暴なゴジラは人類にとっての「救世主」となります。ゴジラ=荒ぶる神、と改めて定義されたこともあり、エドワーズ版『ゴジラ』は日米のファンから受け入れられました。

 渡辺謙さんが、英語調の「ゴッジラ~」ではなく、日本語で「ゴジラ」と発音するこだわりを見せたことも好感ポイントでした。

■芹沢猪四郎博士が下した重大な決断

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)

 モンスターバース第3弾『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』には、米国人のマイケル・ドハティ監督が抜擢されます。子どもの頃から「ゴジラ」シリーズに親しんできたドハティ監督は、ゴジラの覚醒シーンには伊福部昭作曲の「ゴジラのテーマ」を、モスラ誕生シーンには古関裕而作曲の「モスラの歌」を流すなど、ファン心理のツボを押さえた演出で楽しませてくれます。また、ドハティ監督は母親がベトナム出身ということもあり、東洋的思想と西洋文化との融和をサブテーマにしていることも特徴です。

 初期ゴジラへのオマージュ感たっぷりなドハティ版『ゴジラ』ですが、賛否が大きく割れたシーンが後半に待っています。渡辺謙さんが前作に引き続き演じた芹沢博士の決断です。第1作『ゴジラ』を意識した、とても心を揺さぶるシークエンスです。でも感動的である反面、日本人の持つ自己犠牲を尊ぶ精神性を強調したものとなっています。個人的には、現代的にアップデートされた芹沢博士であってほしいなと感じました。

 渡辺謙さんはその後、実録パニック映画『Fukushima50』(2020年)でも責任感の強いキャラクターを演じています。日本人の精神性は、簡単に変わるものではないのかもしれません。

 終戦から75年を迎えた2020年は、核兵器禁止条約が批准された記念すべき年となりました。核兵器が地上から消える日まで、ゴジラの咆哮は止むことはなさそうです。

(C)東宝
(C) 2014 Warner Bros. Entertainment Inc., Legendary and Ratpac-Dune Entertainment LLC. All Rights Reserved.
(C) 2019 Legendary and Warner Bros. Pictures. All Rights Reserved.

(長野辰次)

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