劇場版『はいからさん』がBS放映。女性が輝き始めた「大正」時代、『鬼滅』との共通点も
マグミクス / 2020年11月6日 19時20分
■TVアニメでは描かれなかった結末
時は大正、袴姿でさっそうと自転車を漕ぐ少女の名前は、花村紅緒。女学校に通うじゃじゃ馬娘・紅緒とハンサムな青年将校・伊集院忍とのラブロマンスを描いた『はいからさんが通る』は、1975年~1977年に「週刊少女フレンド」で連載された人気マンガです。1978年に日本アニメーションでTVアニメ化され、大変な人気を集めました。
TVアニメシリーズは、モスクワ五輪の特別編成というTV局側の事情のため、原作マンガの結末が描かれないまま終わってしまいました。そんな気になる紅緒と忍との恋の行方をきっちりと描いたのが、劇場アニメ『はいからさんが通る 前編 紅緒、花の17歳』(2017年)と『はいからさんが通る 後編 花の東京大ロマン』(2018年)です。日本アニメーションがほぼ40年ごしに、物語を完結させたことで話題となりました。
BS12トゥエルビでは、2020年10月から毎週日曜の夜19:00~に「日曜アニメ劇場」をスタートさせています。11月8日(日)は『はいからさんが通る 前編』、11月15日(日)は『はいからさんが通る 後編』を2週連続でオンエアします。
■原作とキャラクターデザインが異なる理由
劇場アニメ『はいからさんが通る』の前編では、花村紅緒(CV:早見沙織)が祖父母たちが決めた許婚・伊集院忍(CV:宮野真守)と出会い、伊集院邸で花嫁修行を積みながら心を通い合わせていく様子を、後編ではシベリア出兵で行方不明となった忍とすれ違い、職場の上司である青江冬星(CV:櫻井孝宏)に心を惹かれる紅緒のゆれる姿が描かれます。
テンポよく物語が進む『はいからさんが通る』前後編ですが、原作やかつてのTVアニメシリーズを観ていたファンはキャラクターデザインが大きく変わっていることに驚くのではないでしょうか。原作者である大和和紀さんは、このように語っています。
「今回のアニメ化では、原作と絵柄が違います。マンガの絵とアニメの絵は作画作家が違うのだから全く同じにはならない。それならば現代的な絵柄のほうが原作を知らない世代にもいいんじゃないかと思いました」(『AERA』2017年11月27日号)
キャラクターデザインは変わりましたが、紅緒の天真爛漫さ、酒癖の悪さ、自分の信じた道をまっすぐに突き進む一本気な性格は、変わることなく受け継がれています。
■恋も仕事もどちらも大事、紅緒のまっすぐな生き方
原作マンガ『はいからさんが通る』新装版第1巻(講談社)
「元始、女性は太陽であった」
明治末期から婦人運動を進めた平塚らいてうの言葉です。『はいからさんが通る』の時代設定となっている「大正」は、大正デモクラシーと呼ばれる大衆運動が広まり、女性解放運動も高まった時代でした。平塚らいてうの言葉そのままに、紅緒は太陽のように明るく輝き、古い伝統やしきたりに囚われていた伊集院家の閉鎖的なムードを一掃していきます。
忍がシベリア出兵で伊集院邸を空けている間、紅緒は「職業婦人」となり、出版社で働き始めます。家運が傾きかけている伊集院家を、紅緒は自分が働くことで経済的に支えようと考えたのです。紅緒の記者としての初仕事は、米騒動の取材でした。米騒動は、お米を買い占めて暴利を貪っている悪徳商人たちに、ごく普通の主婦たちが中心となって怒りを爆発させた抗議活動でした。社会全体に、女性ムーブメントが広がっていた時代だったのです。
初恋の相手である忍とのロマンスを、紅緒は成就させることができるのか? そんな少女マンガの王道ストーリーを描きつつ、『はいからさんが通る』は日本でジェンダー思想が高まっていた時代の雰囲気をうまく取り入れています。後編ではシベリア出兵から帰ってこない忍の手がかりを得るために、紅緒は満洲で暴れ回る馬賊を取材に行くという大胆な行動力も見せることになります。
恋も大事、仕事も大事、そして何よりも紅緒は、自分らしくまっすぐに生きようとします。大正時代を生きた紅緒ですが、現代に生きる私たちもシンパシーを感じる魅力的なキャラクターとなっています。
■紅緒は、禰豆子と同世代?
令和を代表する社会現象となっている『鬼滅の刃』も、大正という時代設定の物語です。『はいからさんが通る』は大正七年(1918年)から始まり、大正十二年(1923年)に起きた関東大震災がクライマックスとなります。『鬼滅の刃』は明治から大正に元号が変わってしばらく経った頃の物語です。大正七年に17歳だった紅緒は、『鬼滅の刃』の竈門炭治郎の妹・禰豆子とほぼ同世代だと言えそうです。
もちろん、伝奇ファンタジーである『鬼滅の刃』と恋愛コメディ『はいからさんが通る』はまったくスタイルの異なる作品ですが、女性たちがとても強いことで共通しています。普段は兄・炭治郎の背負う木箱のなかで眠っている禰豆子は、炭治郎に危機が迫ると眠れるパワーを発揮します。また、炭治郎が入隊している「鬼殺隊」は実力重視の合理的な組織であり、「蟲柱」胡蝶しのぶ、「恋柱」甘露寺蜜璃ら女性隊士が大いに活躍します。
女性たちが太陽のように、まぶしく輝き出した時代。それが「大正」という時代だったのではないでしょうか。
(長野辰次)
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