『シャーマンキング』20周年企画のキーマンが語り合う、作品「誕生前夜」の話
マグミクス / 2020年11月15日 18時40分
■武井先生と担当編集・Y田さんの出会い
『シャーマンキング』20周年記念の一環として始まった本連載も開始から半年が経ちました。そこで、本連載の筆者・タシロハヤトさんと、講談社「少年マガジンエッジ」編集部で作者・武井宏之先生を担当するY田さんとの対談を前後編に分けてお送りします。
対談は武井先生の事務所にて、しかも先生自身が仕事をしながら聞いているという状況で行われました。それぞれの武井先生との出会いや『シャーマンキング』誕生の裏話などをはじめ、今回始めて明らかになるお話もあるので、お楽しみください。
* * *
タシロハヤト(以下、タシロ) まずは我々と武井先生君との出会いを紹介しつつ、これまで触れていない話を掘り下げてきたいです。Y田さんからお願いできますか?
編集部Y田さん(以下、Y田) わかりました。私と先生の出会いは「少年マガジンエッジ」の創刊(2015年)前です。当時連載を担当していた漫画家先生が、食事の席でこれから知り合いを呼びたいとおっしゃり、それが武井先生だったと。あまりに意外な大先生との出会いでした(笑)。
タシロ マガジンエッジで『猫ヶ原』の連載が始まりましたよね? その準備などもずっと一緒に?
Y田 はい。私は編集者ですから雑誌をどうやって盛り上げて行くかを考える立場ですが、先生にもこれからの目標があるので、そのあたりを協議した結果が、新創刊したマガジンエッジでの連載でした。
当時は先生が、人を描くのに少し疲れたとおっしゃっていたので、作品が猫を主人公とした『猫ヶ原』になった経緯はあるものの、ゆくゆくは『シャーマンキング』をどうにかしたいともお考えだったので、私は最初からそこを見据えて取り組んでいたつもりです。
* * *
■デビューのきっかけとなった『ITAKOのANNA』誕生まで
かつて、筆者・タシロハヤトさんと武井先生がものづくりを語り合った日々は、手塚賞佳作を受賞し、武井先生のデビューにつながった作品『ITAKOのANNA』に結実します。『ITAKOのANNA』は、イタコの主人公・恐山アンナが「イタコの口寄せ」で侍の霊を身体に降ろして「変身」ならぬ「変心」をし、本人の動きをトレースして悪党を退治する物語です(「SHAMAN KING 完結版」27巻収録)。
* * *
Y田 では次はタシロさんのお話を。以前の連載記事(第5回)で、武井先生とは高校時代からのご友人で、上京後も一度先生のところに遊びに行ったら1週間は帰らない生活をしていて(笑)、その間に「作品を作る」というテーマで語り合っていたことなどが書かれています。それは先生がデビューするきっかけとなった「ITAKOのANNA」の投稿前ですよね?
タシロ そうですね……僕らには指針になっていた本があって。『サルでも描けるまんが教室』っていう、相原コージ・竹熊健太郎両先生の執筆したマンガです。当時の僕らはその内容に沿ってアイディアを出しては分析していました。
最初は単に議論をしていただけですが、やがて実際に作る時期が来て、初期には僕がネーム、武井君が作画という合作もありました。それは某ゲーム誌に応募するためのものでしたが、当時彼が師事していた漫画家先生から「君が連載したいのはこの雑誌じゃないでしょ?(意訳)」と諭され、雑誌の規格が特殊だったため、原稿の流用ができずお蔵入りになりました。
Y田 あ、その話は読みました。そういうつながりですね。ではそれ以来、先生は受賞に向けて……?
■「イケる!」と直感した、作品のアイデア
武井先生が編集部・Y田さんとともに「マガジンエッジ」で最初に取り組んだ連載作品『猫ヶ原』
タシロ いえ、もうひとつ寄り道があります。それが過去の連載記事(第5回)に書いているゲーム会社の話です。当時は受賞前で生活も楽じゃないですから、少しでも収入の足しになるかもと思い、僕が務めていた会社にグラフィッカーで応募することを提案したんです。
Y田 でも先生はそこで社長さんから「ブレずに夢を追え」と諭されたんですよね? つまりそのふたつの出来事があって先生の腹が決まったということですか。
タシロ 人生ってどこにポイントがあるかわからないものですよね……。
Y田 本当ですね……。
Y田 タシロさんにとっても『ITAKOのANNA』は思い入れが深い作品だと思うんですが、当時どんな想いがありましたか?
タシロ 初めてアイデアを聞いたときは率直に「イケる!」と思いました。それまでの反省を全て内包した集大成だと。特に「変身」ではなく「変心」という点に惹かれました。
Y田 あ、もしかしてそれは第5回で濁して書いた「先生の決定的な気づき」の部分ですか? せっかくなので教えてもらえれば……大丈夫ですよ、向こうで先生、普通に仕事してて止める気配もないですし(笑)。
タシロ そうですね(笑)。では――実はそれ以前に武井君がロボットもの(未発表)を執筆したとき、主人公(主体)がパイロットとロボットに分散してしまい、ページ制約のある読み切りでは魅力的に描き辛い……という反省があったんです。そのアンサーだと感じました。
また、架空の世界観は説明が必要なので、やはりページの制約から読み切りに向かないという反省もありつつ、「単なる現代劇は嫌だ」という思いもあったなか、主人公がイタコなら現代劇でもオリジナリティがあり「変心」の設定も合理的。故郷の青森も含まれていて作家の独自性もある。「これでダメなら何が良いんだ?」とすら思いました(笑)。
ですから、受賞したときは我が事のように嬉しかったですよ。あ、今お話したことはもちろん当時の発想ですよ(笑)。
Y田 なるほど。そう考えると『ITAKOのANNA』は先生の原点にして当時の到達点なんですね。先生はロボットものがお好きですが、それは例えばX-LAWSの天使に発揮されているだけではなくて、形を変えてもっと深いところに生かされていたんですね。さらに『シャーマンキング』では連載だからできることが加わって洗練されていると思います。
■「仏像が活躍する話」の発想に驚かされた
『仏ゾーン』
タシロ その経緯に「シャーマンキング」の前作『仏ゾーン』も外せないと思います。あれも当時話を聞いて驚きました(笑)。
「今度は仏像が活躍する話を考えた」
「千手観音の腕って『聖闘士星矢』の聖衣みたいじゃない? あれがアーマーなのよ」
「仏像ってたくさんいるから、いろんなバリエーション出せていいと思うんだ」
って言うんですよ。仏像をそういう目で見たことあります?(笑)
Y田 ないです(笑)確か第1話のタイトルは「仏像を見たらヒーローと思え!!」ですよね。
タシロ そうです! もっとも、どんな影響を及ぼしたかというと、武井君本人を前に言うのもなんですが、僕が思うに特定の何かではなく思想的なもの……ひとつはイタコをヒーローに、仏像もヒーローに……という発想の転換術というか彼のセンスの部分ではないかと思うんです。単にヒーローがたくさん出てくる要素なら、他にも昔から作品がありますしね。
Y田 独特のセンスが作品を経るごとに磨かれたということですね。
タシロ 『シャーマンキング』の時も「今度は世界中のシャーマンが出てくる話」と言われ、仏像すら内包してスケールアップしてる……って思いましたし(笑)。
Y田 確かにいろいろと符合しますね。しかも、さっきから向こうで仕事をしている武井先生が全然突っ込まないので、間違いではない……?
タシロ あまり正解にこだわっていないからスルーしているという可能性もありますが……。
* * *
武井先生が『シャーマンキング』の連載に力を入れていく一方、タシロハヤトさんはゲーム業界で独自のキャリアを築いていきます。そんなふたりが再び一緒に取り組むこととなったのが、「シャーマンキング20周年」の企画でした。対談の<後編>では、そこに至る経緯や「20周年」企画の今、そして今後の展望について語り合ってもらいます。
<後編に続く>
(タシロハヤト)
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