鶴ひろみさん追悼 鮎川まどか、ブルマ、ドキンちゃん…キャラの声が心に遺る
マグミクス / 2020年11月16日 7時0分
■鶴ひろみ氏、大動脈解離による突然の逝去
11月16日は、2017年に57歳で亡くなった声優、鶴ひろみ氏の命日です。車の運転中に大動脈解離を発症しての突然死でした。1978年のデビュー後から亡くなる直前まで、TVアニメ『きまぐれ☆オレンジロード』の鮎川まどかや『ドラゴンボール』のブルマ、『GS美神』の美神令子、『アンパンマン』のドキンちゃんなど幅広い役を担当した、かけがえのない人でした。
鶴ひろみ氏の訃報が流れたときの衝撃は、今も忘れることができません。「まだ亡くなるような歳じゃないはずだ」「この間もナレーションをやっていたはずだ」そう考えながらTwitterで情報を集めていた筆者が目にした記事には、鶴氏が自動車の運転中に大動脈解離という耳慣れない病気を発症し、還らぬ人となったと書かれていたのです。
鶴氏が見つかったのは首都高の中央分離帯で停止していた車の中でした。「ハザードランプを点灯させたまま停止している車がいる」との連絡を受けて駆け付けた警視庁がシートベルトを付けたまま意識不明の状態で座っている鶴氏を発見し、病院まで搬送したのですが、そこで死亡が確認されました。
大動脈解離は解離性大動脈瘤とも呼ばれており、外膜、中膜、内膜の3層構造となっている大動脈の内膜に何らかの原因で裂け目ができ、血液が中膜の中に入り込んで縦軸方向に大動脈が裂ける病気です。発症時には胸や背中に大変な痛みを伴うため、即座に意識を失うことすらありえるそうです。
おそらく、運転中に突然の激痛に襲われた鶴氏は、最後に残った意識と力を振り絞って車を停め、ハザードランプを点灯させたのでしょう。車が見つかったのは午後7時半ごろだったため視界は暗く、もしランプが点いていなければ後続車が気づかずに衝突していた可能性もありえます。死に至る最後の一瞬まで、事故を避けるという自らの責任を果たそうとした意志の強さを、ただ尊敬するしかありません。
■鶴ひろみ氏のドキンちゃんを聞きながら大人になった
『ペリーヌ物語』ペリーヌ・パンダボアヌ役 画像は「ペリーヌ物語 ファミリーセレクションDVDボックス」(バンダイビジュアル)
1978年にTVアニメ『ペリーヌ物語』の主役、ペリーヌのオーディションに合格して声優としてのデビューを果たした鶴氏はその後多くの作品に出演するようになります。
特に1986年から放送されたアニメ「ドラゴンボール」シリーズで演じたブルマは2015年の『ドラゴンボール超』でも引き続き担当し、足掛け30年以上にわたって見事な演技を聞かせてくれました。しかし放送中に逝去されてしまったため、128話までの出演となっているのが残念です。
その他にも『GS美神』の美神令子、『らんま1/2』の久遠寺右京など多くの役を演じてこられた鶴氏ですが、筆者にとって最も印象的だったのが、『きまぐれ☆オレンジロード』の鮎川まどかです。美人で大人びた良家のお嬢様でありながら周囲に恐れられている不良で、関わるのは幼なじみの檜山ひかるくらいの孤高の存在。しかし実は繊細な性格で心優しい恋する少女という思春期の際どい部分を凝縮した複雑で難しい役を、鶴氏はシーンごとに微妙に演技を変えて鮎川の心象を表現しながら演じ切っており、声優が持つ表現力の幅広さと凄みを見せてくれました。
鶴氏自身も鮎川にはかなり思い入れがあったようで、インタビューでは「まどかのおかげで役が広がった」とも語っています。つい先日、原作者のまつもと泉先生も亡くなられてしまい、かつて『きまぐれ☆オレンジロード』の世界に憧れた世代としては、寂しさは募るばかりです。
そして鶴ひろみ氏と言えば、アニメ『アンパンマン』のドキンちゃんを長く演じてきたことでも知られています。亡くなられた後も収録済みの音声が残されており、1988年12月から2018年1月までの約29年間、多くの子供たちを楽しませてくれました。『アンパンマン』を見て育った世代の人間は、もう大人になった人の中にも、まだ小さな子供の中にも同じように鶴ひろみ氏の声が宿っている、生き続けている。筆者にはそのように思えるのです。
(早川清一朗)
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