『Dr.スランプ』がなければ「ジャンプ」の躍進はなかった? アニメ黄金期を作った転換点
マグミクス / 2020年11月22日 8時10分
■少年ジャンプがアニメ化に消極的だった理由
誕生から40年以上が経つ『Dr.スランプ』が、その後の歴史に大きな影響を与えていたことを知る人は意外と少ないかもしれません。『Dr.スランプ』が「週刊少年ジャンプ」(以下ジャンプ)で連載を開始したのは1980年5・6合併号からでした。いきなりの1、2話同時連載で、「ずいぶん力を入れているなぁ」と、当時の筆者は感じたことを憶えています。
そして、連載から数週間ほどで『Dr.スランプ』は「ジャンプ」の人気マンガのひとつとなりました。その人気は急上昇、コミックスも発売され、半年ほどでジャンプ読者以外からも注目されるヒット作品となります。もちろん作者である鳥山明さんは一躍、人気漫画家の仲間入りをしました。
ちょうどこの頃、アニメ化の企画が動いていました。それは長年放送されていたアニメ『一休さん』(1975年~)の後番組として、東映動画(現在の東映アニメーション)がテレビ朝日と企画していたものです。
しかし、この企画は途中でとん挫しました。それは、ジャンプ編集部からOKが出なかったからです。
ジャンプ編集部にはそれ以前からアニメ化に対して不信感があったため、OKが出なかったのです。それはアニメ化前提で連載開始した『マジンガーZ』(1972年~)が原因でした。
『マジンガーZ』はアニメ前提企画だったため、講談社の児童誌「テレビマガジン」にもアニメ放送から少し遅れて連載を始めることになります。当時、専属契約制度を導入しつつあったジャンプ編集部はこのことを問題視して、人気絶頂だったにも関わらず『マジンガーZ』の連載を打ちきりました。
このことがきっかけで、当時企画がすでに進行していた『侍ジャイアンツ』(1973年)を最後に、『サーキットの狼』、『リングにかけろ』など世間的に大ヒットと呼ばれていた作品があったにも関わらず、ジャンプ作品はアニメ化には至らなかったわけです。もちろん、他にもいくつか理由があったとも言われていました。
こうして一度はアニメ化が見送られた『Dr.スランプ』でしたが、その企画を惜しいと考えた東映動画は、フジテレビとの企画として再始動します。
この時、フジテレビが積極的に動いたことで、ジャンプ編集部もアニメ化を承諾する方向に動きました。ただ、あくまでもジャンプ編集部が主導権を握るようにシステムを構築します。これが後に、ジャンプアニメ黄金期を築く基礎になったわけです。
■未曾有の大ヒットが「ジャンプ」を一変させた
『Dr.スランプ』はアニメ作品の玩具展開にも影響を与えた。画像は「フィギュアライズメカニクス Dr.スランプ アラレちゃん 色分け済みプラモデル」(BANDAI SPIRITS)
こうして1981年4月8日からマンガ『Dr.スランプ』は、アニメ『Dr.スランプ アラレちゃん』として放送を開始しました。
アニメは最初から好調、第34話「地獄の使者チビルくん」では、最高視聴率の36.9%を記録。『ちびまる子ちゃん』『サザエさん』に次ぐアニメ歴代最高視聴率3位となりました。
この爆発的なヒットは、少年誌をあまり読まない女子中高生が注目したことが要因だと言われています。ぬいぐるみや文房具などのキャラクター商品が飛ぶように売れ、主人公の則巻アラレの真似をして、おしゃれとしてメガネをかける女の子も増えました。
また、「んちゃ!」「ばいちゃ!」「ほよよ」というアラレ語も流行語となり、社会現象になります。
これにはアラレ役だった声優の小山茉美さんの演技力も多大に貢献しており、これにより小山さんはアニメファンだけでなく一般の方にも広く知られる声優のひとりとなりました。
スポンサーの玩具会社バンダイではプラモデルを販売していたのですが、マンガの扉絵をそのままプラモ化するという、それまでにない商品展開をしていました。
当時は多色成型などない時代ですから塗装しないといけないのですが、それでも作品の人気の高さからシリーズが維持できる程度のヒット商品になります。もちろん、これには前年から発売されていたガンプラのヒットで、プラモ用塗料が一般的になったからという背景もあります。これは、現在では当たり前のようにあるアニメフィギュアの先駆けとも言える商品でした。
このような多方面に影響を与えた『Dr.スランプ』の大ヒット。しかし、一番影響が大きかったのは当の「少年ジャンプ」でした。このヒットによりジャンプ編集部の方針は180度転換、アニメ化に対して積極的になったことは歴史が証明しています。
特にジャンプ、東映動画、バンダイの結びつきは固く、その後も現代に至るまで次々とヒット作品を産み続けています。
よく「少年ジャンプ」のキャッチフレーズは「友情」「努力」「勝利」と言われていますが、先駆けとなった『Dr.スランプ』には当てはまらないのが面白い話ですね。
(加々美利治)
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