『進撃の巨人』最終シリーズ目前! 巨人を描いた実写作品4選。作者に影響与えた作品も
マグミクス / 2020年12月1日 19時40分
■人間を捕食する巨人とは何者なのか
諌山創氏の人気マンガをTVアニメーション化した『進撃の巨人』の最終シリーズが、2020年12月7日(日)から始まります。巨人を倒すために立ち上がった主人公・エレンたちの戦いは、ついに終止符が打たれるのでしょうか。制作は劇場アニメ『この世界の片隅に』(2016年)を大ヒットさせた「MAPPA」が手掛け、NHK総合で毎週日曜の深夜12時10分~12時35分の放映となります。
諌山氏が2009年から連載を始めた原作は現在32巻まで発売され、累計発行部数1億部以上という大ベストセラーとなっています。高い壁に囲まれた街で暮らしている人類が、いつ巨人に襲われるか分からないという不安に怯えている様子は、さまざまな災害や危険が待ち受けている現代社会を連想させます。人間を捕食する巨人とは何者なのかという、深読みする面白さもあります。
注目のファイナルシリーズの放送を前に、“巨人”をモチーフにした特撮ドラマを振り返ります。
●『フランケンシュタイン対地底怪獣』
『フランケンシュタイン対地底怪獣』DVD(東宝)
最初に紹介するのは、円谷プロが制作した日米合作映画『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965年)です。第二次世界大戦末期、ナチスは軍事開発した「不死の心臓」を、同盟国である日本に密かに運び込みます。不死身の兵隊を生み出そうという計画でした。広島に届けられた「不死の心臓」ですが、米軍が投下した原子爆弾によってその計画は消滅してしまいます。
戦後しばらくして、広島で浮浪児が見つかります。その浮浪児は「不死の心臓」を持ち、放射能を浴びても生き延びていたのです。「国際放射線医学研究所」に勤める季子(水野久美)が愛情を注いで育てますが、浮浪児は体がどんどん巨大化し、研究所から逃げ出してしまいます。攻撃しない限りは人間を襲わない心優しい巨人でしたが、どこにも居場所を見つけることができないという哀しい宿命を背負っていました。
異形の巨人の物語が好評を博したことから、姉妹編『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966年)も公開されました。巨人の細胞が善と悪とに二分し、サンダとガイラという2体の巨人が生まれることになります。
悪い巨人・ガイラが羽田空港を襲うシーンは、強烈なインパクトがありました。ガイラは逃げ遅れた女性職員を巨大な手でつかみ、食べてしまうのです。諌山氏は子供の頃に『サンダ対ガイラ』を観て、トラウマ級の体験になったそうです。『進撃の巨人』誕生に大きな影響を与えた作品だと言えそうです。
■女性キャラの「巨大化」が与えるインパクト
●『ウルトラマン』の第33話「禁じられた言葉」
『ウルトラマン』33話に登場するメフィラス星人。画像は「大怪獣シリーズ メフィラス星人 ファイティングポーズ」(エクスプラス) (C)円谷プロ
1966年~1967年にTV放映された円谷プロ制作の『ウルトラマン』(TBS系)にも、忘れられない巨人が登場しました。第33話「禁じられた言葉」のメフィラス星人は自分の手を汚すことなく、地球を手に入れようとします。科学特捜隊の紅一点・フジアキコ隊員を巨大化させ、街で大暴れさせるのです。アキコ隊員が相手なだけに、科特隊は攻撃することができません。
アキコ隊員が巨大化したシーンは、子供たちに恐怖心と同時に不思議な感情も植え付けました。のちに劇場アニメ『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』(1985年)ではしずかちゃんが、人気少女マンガの実写化映画『笑う大天使』(2006年)では上野樹里さんが巨大化することになります。
漫画家とり・みき氏が1988年に発表した異色作『山の音』も、体が大きくなる女性をモチーフにしたSFミステリーでした。女性が巨大化することに、抑えがたい魅力を感じてしまう男性は少なからず存在するようです。
●『大日本人』
『大日本人』ブルーレイ(よしもとアール・アンド・シー)
巨人をめぐる非常にユニークな作品があります。松本人志初監督作『大日本人』(2007年)です。代々巨人の家系に生まれた大佐藤(松本人志)は、普段は目立たないように暮らしているのですが、巨大生物が街に現れると大日本人に変身し、パンツ姿で巨大生物と戦うのです。
日本を守るヒーローであるはずの大日本人ですが、戦闘によって街は被害をこうむることから、その立場はビミョーでした。大佐藤の苦悩の日々が、ドキュメンタリータッチで描かれます。大ヒットとはなりませんでしたが、“お笑い界の巨人“松本人志監督が巨人の孤独さを描いたシュールな作品として記憶されています。
●『巨神兵東京に現る』
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』EVANGELION:3.33 YOU CAN (NOT) REDO.通常版(キングレコード)。『巨神兵東京に現る』を収録
最後に取り上げるのは、樋口真嗣監督の『巨神兵東京に現る』(2012年)です。東京都現代美術館で開催された「館長 庵野秀明 特撮博物館ミニチュアで見る昭和平成の技」でイベント上映された9分3秒の短編映画です。短い尺ですが、見応えのある作品でした。
宮崎駿監督の劇場アニメ『風の谷のナウシカ』(1984年)に登場した巨神兵が現代の東京に出没し、瞬く間に東京を火の海にしてしまいます。巨神兵がミニチュアで精密に作られた街を破壊し尽くすシーンは、特撮ならではの迫力がありました。
庵野ワールドと宮崎駿作品を融合させた映像作品としても特筆されます。庵野監督の『新世紀エヴァンゲリオン』が実写化されたら、きっとこんな世界観になるんだろうな、と思わせるデジャブ感を感じさせました。この後、樋口監督は実写映画『進撃の巨人』二部作(2015年)に起用されることになります。
* * *
諌山氏が執筆した『進撃の巨人』の発想のベースのひとつに、北欧神話も入っているそうです。北欧神話によると昔々の大昔には世界には何もなく、そこに初めて生まれた生命が大巨人でした。その後、巨人族が生まれ、神々はさらにその後に生まれます。やがて神々は大巨人を倒し、巨人族も滅ぼします。大巨人の体はバラバラにされ、肉は大地に、血は川や海になったそうです。私たち人類は、大巨人の亡骸の上で暮らしていることになります。
諌山氏は『進撃の巨人』の結末に、どんな秘密を隠しているのでしょうか。巨人のことを考えるとき、人は目の前の現実から少しだけ視線をはずし、敬虔な気持ちになるのではないでしょうか。
(長野辰次)
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