昭和女子が自分ごとのように感情移入した、『アタックNo.1』鮎原こずえの「強さと涙」
マグミクス / 2020年12月2日 18時20分
■努力と根性のかげで流す涙が少女たちに共感された
昭和の女の子たちが、まるで自分が主人公であるかように身を入れ、成長を見守ったアニメといえば、『アタックNO.1』でしょう。今から51年前の1969年12月に放送が始まった、バレーボールに青春をかけるスポ根少女アニメです。主題歌も大ヒットしたので、今でも歌える方は多いでしょう。
昭和女子なら、何か困ったことがあると心の中で「♪苦しくったって 悲しくったって…」と口ずさんでしまうのではないでしょうか? 歌詞のなかで特に印象深いのは「だけど涙がでちゃう、女の子だもん」のフレーズですが、これは主人公の一途な生き方があったからこそ、昭和女子たちの心に響いた言葉でした。
主人公の鮎原こずえは、転校した先の中学校で学力重視の校風に反発したため、不良グループのリーダーとされてしまいますが、彼らを率いてバレー部と対決し勝利をおさめたことで実力を認められます。ここからこずえは、日本一のアタッカーを目指してバレーボールの道を歩んでいくこととなるのですが…その道は平坦でないどころかイバラだらけ。これでもかというほどの苦難が降りかかるのです。
こずえをライバル視するチームメイトに陥れられて孤立したり、鬼コーチからは虐待といえるほどのしごきを受けたり、励まし合ってきたボーイフレンドが突然の事故で亡くなったり、みずからも病に倒れたり……。
けれどもこずえは、決して負けません。転校して早々に学校に反発したことでもわかる通り、正しいと思ったことは臆せず口にする一本気な性格で、襲いかかる試練に立ち向かいはねのけていきます。絶対的な権力であったはずの鬼コーチにも、おかしいと思ったら歯向かう強さも持っていました(そのために、さらなる窮地に追い込まれることもありましたが)。こずえは、それまでの従順さが美徳とされた女性像とは異なる、たくましいヒロインだったのです。
ただし、こずえの魅力は強さだけではありません。厳しいしごきや襲い来る苦難に耐えるかげで……そう、「だけど涙がでちゃう、女の子だもん」と涙を流すのです。こずえの涙はテレビの前の少女たちに、苦しいときには泣いてもいいこと、でもその涙が、再び闘うための糧になることを教えてくれました。
このアニメで人生に大きな影響を受けた昭和女子たちは少なくありませんが、元バレーボール日本代表の大林素子さんもそのひとりです。
■大林素子さんの人生を変えた『アタックNO.1』
『アタックNO.1』はイタリアでも大ヒットし、何度も再放送されている。画像はイタリア版の全104話収録DVD-BOX
バレーボール日本代表として三度のオリンピックに出場し、現在はマルチなタレントとして活躍する大林素子さんですが、その大林さんのバレーとの出会いも『アタックNO.1』でした。
小学生になった頃からどんどんと背が伸び、小学6年生で170㎝あった大林さんは、女のくせに背が高いといじめを受けていたそうです。歩くだけで「地震だっ!」と言われたこともあったとか。女優やアイドルになりたいという夢も、大きな女がなれるわけがないとバカにされ、傷ついて、住んでいた団地の上から飛び降りたいと思ったことさえあったそうです。
そんな大林さんが『アタックNO.1』のアニメと出会ったことで、人生が大きく変わります。鮎原こずえの不屈魂を見て、いじめに負けていてはいけないことを、そして、高身長はむしろ武器になることを知ったのです。
中学でバレー部に入部すると、やがて日本代表にまで上り詰め、バレーボール最高の舞台と憧れていたオリンピック出場も果たします。おそらく、そこまでの道のりでは、たくさんの涙を流してきたことでしょう。だって、女の子なんですから。
でも、どんなにつらくても『アタックNO.1』のこずえの姿に教わったように、あきらめずに闘い続けることで、栄光をつかむことができたのです。ちなみに、現役時代の大林さんは、ポニーテールにリボンがトレードマークでしたが、これは、コートの中で鮎原こずえを演じるためだったそうです。
つらかったら我慢せずに泣いてもいい、でも、そこからもう一度がんばろう。
『アタックNO.1』が教えてくれたスポ根精神は、大林さんだけでなく、今もたくさんの昭和女子たちの心に根づいていることでしょう。
(古屋啓子)
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