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『Q』公開で困惑した観客 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は期待に応えられるか

マグミクス / 2020年12月15日 7時10分

『Q』公開で困惑した観客 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は期待に応えられるか

■『エヴァQ』公開で呆然…殺到した問い合わせ

「自分は、今、何を観たのだろうか」

『エヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(以下、Q)を見終えたとき、筆者はしばらく座席から立ち上がれませんでした。それほど強烈なショックを受けたのです。第一作『序』はTVシリーズをブラッシュアップした文字通り新世紀の『エヴァンゲリオン』(以下、エヴァ)を、第二作『破』はエンターテイメントを追求した娯楽としての『エヴァ』を見せてくれていました。『破』でエヴァ3号機に呑まれたアスカも予告編では登場していたし安心だ。さあ次はどんなものを見せてくれるのだろう……。

 その期待は、裏切られました。

 確かに『破』を見返してみれば、サードインパクトにつながる内容ではありました。しかし2006年に庵野秀明総監督(以下、庵野監督)が新劇場版の制作にあたり出した所信表明には、「『エヴァンゲリオン』を知らない人たちが触れやすいよう、劇場用映画として面白さを凝縮し、世界観を再構築し、誰もが楽しめるエンターテインメント映像を目指します」とあります。『Q』では、冒頭の戦闘シーンは素晴らしかったものの、その後は陰惨な描写が続きます。

『破』でシンジが綾波を呼んだ魂の叫びは何の意味も持たないどころか最悪の事態を引き起こし、画面は赤と黒に染め上げられ、床には巨大な頭蓋骨が一面に敷き詰められていたのです。これは誰もが楽しめるエンターテインメントなのだろうか? という疑問は、今も払しょくされてはいません。

 それからしばらく、アニメ系ライターとして活動していた筆者の携帯には友人からの問い合わせが殺到しました。みんな答えを求めていましたが、筆者自身、何も答える術を持っていなかったのです。

 後に庵野監督は『Q』の制作後、ひどいうつ病を患い、自身が設立したアニメ制作スタジオ「カラー」に近寄ることすらできなくなったことを明かしています。確証はありませんが、庵野監督は制作後ではなく、制作中からうつ状態になっており、当時の心理状態が『Q』に投影されてしまった可能性もあります。

■庵野監督を消耗させたであろう、さまざまな事情

『序』『破』の成功は、そのまま興行側の期待にもつながります。『Q』が上映された際はTVのニュースでも大々的に報じられており、庵野監督にかかっていたプレッシャーは有形無形のものも含めて、膨大な物だったのは容易に推測できます。ただでさえ0から1を生み出すのはとてつもないエネルギーを必要とする作業です。常人とは比較にならないほどのエネルギーを持つ庵野監督でも壊れてしまう、それが『エヴァ』という作品なのでしょう。

 また、GAINAX主体で制作されていたTV版『エヴァ』と、カラーで制作されている新劇場版は作品自体を取り巻く状況もまるで異なります。

『エヴァ』に関してはすでにすべての権利をカラーが保有しており、GAINAXは何の関係もありません。このような状況に至るまでの紆余曲折は庵野監督自身が2019年に特別寄稿という形で公開していますが、『エヴァ』のヒットによりGAINAX経営陣が乱脈経営を行い会社が傾いたこと、利益はクリエイターには還元されなかったこと、庵野監督が意見を出してもまったく採用されなかったことなど、お金がすべてを狂わせたことが述べられています。当時のGAINAX経営陣は庵野監督の学生時代の友人たちであり、多くの苦労を共に重ねてきました。庵野監督も昔のような関係に戻れないことを、非常に残念がっています。このような状況も、消耗につながっていたのではないでしょうか。

 今の庵野監督の体調がどうなっているのかは分かりませんが、妻の漫画家・安野モヨコ氏や師匠筋の宮崎駿氏など、多くの人が支えとなってくれています。間もなく公開される新劇場版第四作、完結編となるはずの『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では、きっとまた新しく、素晴らしい何かを見せてくれるでしょう。庵野監督は、何度も何度もファンの期待に応えるどころかそれ以上のことをやってくださった方です。何度裏切られようとも、何度も信じられる。庵野監督の持つエネルギーには、それだけの魅力があると筆者は考えています。

(ライター 早川清一朗)

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