『機動戦士ガンダム』嫌われ者「マ・クベ」の意外な実像。「部下思いの上司」の側面も?
マグミクス / 2020年12月15日 8時20分
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■マ・クベは悪役? 理想的な上司?
今から41年前の1979年12月15日は、『機動戦士ガンダム』第37話「テキサスの攻防」が放映された日です。このエピソードで壮絶な最期を遂げたマ・クベは、その策謀家としての一面から、あまり人気はありません。マ・クベの初登場は第16話「セイラ出撃」。神経質そうなデザインと、担当声優の塩沢兼人さんのキザなセリフ回しで、一見して「嫌な奴」というイメージを視聴者に印象付けます。
そのイメージ通り、それからも陰険な策略家という面が強調されていきます。ランバ・ラルへの補給を握りつぶす、エルラン中将に裏切りをそそのかす、南極条約で禁止されている核兵器を使うなど、悪役らしい悪役という印象です。
『機動戦士ガンダム』では、それまでのロボットアニメと違って「勧善懲悪」に偏らず、敵のジオン公国にも彼らなりの正義があるというスタンスで作られていました。マ・クベ登場以前に戦ったシャアにしろ、ランバ・ラルにしろ、敵ではありますが悪人というイメージはありません。
そういう意味でマ・クベは、作中で初めて登場した「悪役」だったと言えるのかもしれません。
しかし、本当にただの悪役だったのでしょうか? 疑問に感じる場面があります。第18話「灼熱のアッザム・リーダー」で、機密保持のために基地を爆破するように命じたキシリアに、マ・クベは兵士がまだいると自爆を躊躇します。
第36話「恐怖!機動ビグ・ザム」では、ソロモンを脱出した兵士救出のため、キシリアから預かったグワジンからチベに乗り換えました。これらの行動を見ると、意外に悪人ではないのかもしれないという印象を受けます。
戦略を張り巡らせるということは、最低限の損失で最大限の効果を得るということ。そう考えると、マ・クベは部下思いのいい上司なのかもしれません。
前述のキシリアとの会話も、上役に逆らえない哀れな中間管理職だと考えると、むしろ弁護の余地のある構図かもしれません。
また、一度はソロモンからの脱出者を見捨てようとした件も、同行のバロム大佐にいさめられると、自分の発言を撤回してすぐ救助を許可する柔軟さを見せました。そのことを気にかけたからこそ、その後は自分の考えをあらためて脱出者の救助をしたとも考えられます。
つまり、自分の非を認め、他人の意見をくみ上げることをする。こう考えていくとマ・クベはただ陰険な悪役というよりも、理想的な上司像なのかもしれないと思いませんか?
■マ・クベのパイロットとしての腕前は?
マ・クベが搭乗した「アッザム」は、ガンダムと交戦して生き残った数少ないモビルアーマーだった。画像は「1/550 アッザム」(BANDAI SPIRITS)
次はマ・クベのパイロットとしての資質を考えてみましょう。
よくマ・クベがギャンでガンダムと互角に戦ったことの理由付けとして、ギャンが素人にも性能を出しやすいモビルスーツだったからと考証されています。シャアはマ・クベを付け焼刃と言っていましたが、本当にそうでしょうか?
マ・クベはその前に一度、ガンダムと戦っています。前述した採掘基地で試作型モビルアーマーのアッザムを操縦していました。しかも、このアッザムにはVIPであるキシリアも搭乗しています。普通ならVIPの護衛は一流の人間が務めるもの。そう、マ・クベはキシリアが安全だと信頼できるほどの操縦技術を持っていたと考えられます。そうでなければ慎重なキシリアのこと、別な人間に操縦を任せていると思いませんか?
そして、このアッザムはシャア専用ザクと同じく、ガンダムに撃墜されていない機体です。
これらのことを考えると、マ・クベのパイロットとしての資質は並みの兵士以上でしょう。テキサスコロニーでのガンダムとの戦いも、マ・クベの技量に追いつくためにアムロが徐々に覚醒していったと考えると納得感がありませんか?
マ・クベといえば「壺」。そういったネタ的な評価が先行して、我々は彼の本質的な部分を見誤っているのかもしれません。
ちなみにキャラクターデザインの安彦良和さんの描くマンガ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では、アニメ版と異なった印象のマ・クベが登場していました。そこではアニメとは逆に兵士たちを脱出させるため、ギャンに乗り込んでしんがりを務めるという漢気溢れる最期を迎えます。
『機動戦士Zガンダム』放送当時、作品は劇場版3作品からのストーリーの流れだと明言されていました。ということは、テレビ版では壮絶な最期を遂げたマ・クベは、宇宙世紀の正史の流れのなかでは死んでいないということです。とはいえ、これからマ・クベの活躍が見られる可能性は高くないでしょう。
外見と表面的な行動で、悪い印象が先行しているマ・クベを思うと、実社会でもこういう風に見た目で損をしている人っているよね……と、そんな風に感じて筆者は哀れに思うことがあります。
(加々美利治)
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