「スーファミ」発売の1990年、玩具屋が年末年始に行った「なるほど!」な戦略とは
マグミクス / 2020年12月19日 7時10分
![「スーファミ」発売の1990年、玩具屋が年末年始に行った「なるほど!」な戦略とは](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_42237_0-small.jpg)
■クリスマスの目玉商品だった「スーパーファミコン」
年末年始はどんな職業の方でもお忙しいと思います。そのなかでも玩具屋という職業は、他のシーズンに比べて特に慌ただしかったと、実際に玩具屋で働いたことのある筆者は思っておりました。
そこで筆者の体験談から、玩具屋の年末年始をご紹介したいと思います。時間は今からちょうど30年前、1990年の年末から1991年の年始にかけて体験したことをお届けいたしましょう。
あの時期、玩具屋で何が一番売れたかというと、間違いなく「スーパーファミコン」です。スーパーファミコンはクリスマス商戦を狙ったのか、1990年11月21日に発売を開始しました。正式発表は2年前の1988年秋でしたが、半導体不足などの理由で発売は遅れてしまいます。
「ドラクエ」ブームほどの混乱はなかったのですが、「スーパーファミコンありませんか?」という問い合わせは、毎日何度もありました。しかし、本当に入荷数は少なく、いくら問屋に頼んでも週に数個単位しか入ってきません。
そこで、筆者のいた玩具屋では、あえて小出しにして店頭には出さず、ひたすら倉庫にため込み、クリスマスイブ前日の日曜日に店頭に積み上げました。
これにはどんな意味があるかというと、目立つ時期に人気商品を大量に置くことで「この店は品ぞろえがいい」と思わせる効果があるということです。
今のようにネットで情報が拡散するという時代ではありませんでしたが、お客さんの口コミが広がり、その日のうちにすべて売れてしまいました。この口コミを聞いたお客さんが来店して「まだある」という状況を作るためにも、商品が大量に要るわけです。
ファミコンブーム以降、玩具屋の高額商品の中心はゲーム機とゲームソフトでしたから、このような戦略で予約数を増やす店舗も多かったことでしょう。
ちなみこの時、「スーパーファミコン」を買えなかった人が、代わりに「ゲームボーイ」と『テトリス』を買っていくという風景がよくありました。まだ前年に発売したばかりのゲームボーイはそれほど普及率が高くなく、スーパーファミコンの代わりに買うという人は少なくなかったのです。
もちろん、普通のオモチャにも人気商品がありました。1990年の人気商品といえば、間違いなく「元祖SDガンダム」でしょう。しかし、筆者のいた玩具屋は、クリスマス時期にはあまりメインには置かず、どちらかというと数を絞って置いてありました。
それには、年始を見越した「戦略」があったのです。
■クリスマスとお正月でラインナップを大幅入れ替え。その理由は…
30年前、子供たちに人気の商品のひとつだった「元祖SDガンダム」。画像は『元祖SDガンダム パーフェクトカタログ』 (講談社)
クリスマスイブ前後は、カードダスやガシャポンなどは店頭から撤去していました。その理由は、忙しい時期に両替やマシントラブルに人員をさかないようにするためです。
さらにもうひとつ大きな理由がありました。それは、クリスマスプレゼントを買いに来た子供が、カードダスやガチャを衝動的に欲しくなり、親御さんがそれをクリスマスプレゼントとしてしまうことを避けたからです。
玩具屋の考えとしては、クリスマスのメインターゲットは親御さんで、それが正月にはお年玉をもらった子供に変わるからでした。そのため「元祖SDガンダム」、プラモデルの「BB戦士」や「ミニ四駆」など、お小遣いで買えるものは、お正月用に確保していたわけです。
店舗によって差があるかもしれませんが、この年末年始は筆者のいた玩具屋では1年の収益の8割近くを占めていた、一大イベントだったのです。
もちろん、景気のいい話ばかりではありません。キャラクター玩具の売れ残りが多いのもこの時期です。
この年、最大の問題だったのは『地球戦隊ファイブマン』の「マックスマグマ」という巨大ロボでした。前年の『高速戦隊ターボレンジャー』のターボビルダーという同系列の商品が予想以上のヒット商品となり、期待されてかなりの数が入荷されたのですが、まったく売れなかったことを憶えています。
しかも、この「マックスマグマ」の困った点はその大きさにありました。置いてあるだけで売り場面積を圧迫して、他の商品が置けなくなるのです。とはいえ、逆に「目立つ」というメリットもありました。そこで「8割引」というポップを付けたところ、急に飛ぶように売れます。数日で在庫は一掃しました。
これに関しては完全に赤字ですが、玩具屋としては「特売をする店」と思われて、普段の買い物でも来てもらえるという効果が期待できるわけです。……とはいえ、これはうまくいった例で、何年も在庫が残るというケースも当たり前のようにありました。この当時、店の片隅に数年前のヒット商品『聖闘士星矢』の聖闘士聖衣大系のフィギュアがいまだに残っていたことが、それを物語っています。
この翌年、大規模店舗の「トイザらス」が日本に上陸。ゲームソフトの売れ行きの好調さと相まって、玩具屋のあり方はだいぶ変わりました。
あのころとだいぶ変わってしまいましたが、今でも玩具屋さんたちはこの時期をけん命に働いているんだなぁ……と、筆者はつい懐かしく思います。
(加々美利治)
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