「製作委員会」のメリット・デメリット 『エヴァ』や『鬼滅』が目指す新たな形とは
マグミクス / 2020年12月22日 7時10分
■製作委員会のメリットとは?
アニメや映画を見ているとよく目にするのが「XX委員会」というクレジットです。これは製作委員会という、その作品を作るために出資したスポンサー企業や関連企業のグループ名を指します。作品によっては、例えばTVアニメ『けいおん!』では「桜高軽音部」という名前になっており、必ずしも「委員会」という文字が付くわけではありません。
映画では1980年代には見られた方式であり、90年代にはアニメでも徐々に見られるようなっていたのですが、1995年に放送されたTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(以下、エヴァ)のヒットにより大きな注目を集め、その後に製作されたアニメでは多くの作品が製作委員会方式を採用するようになりました。
製作委員会方式のメリットはまず、多くの企業が参加し資金を出し合うため、負荷の分散を行える点です。90年代以前のTVアニメや特撮番組は主にTV局、広告代理店、スポンサーと制作会社での共同企画で作られていましたが、大口のスポンサーの撤退や倒産により番組が打ち切りになることがしばしばありました。
TVアニメで言えば『蒼き流星SPTレイズナー』は三洋電機の撤退が打ち切りの大きな決め手になっていますし、特撮であれば『小さなスーパーマン ガンバロン』はブルマァクの倒産により資金難に陥って子役中心の構成となり、最終的には打ち切られています。近年、突然の打ち切りがほぼ見られなくなったのは、製作委員会方式が大きく寄与していると言えるでしょう。
第二に、製作委員会に多種多様な企業が参加することにより、メディアミックスや広告宣伝がやりやすくなります。出版社が参加していれば小説やマンガでの展開、レコード会社が参加していればキャラクターソングやライブ、ゲーム会社が参加していれば当然ゲームを製作販売するなど、多種多様な収益源を作り上げることができるのです。どこかがダメでもどれかでカバーできればプロジェクト全体としては成功に持ち込める可能性があがるため、アニメの企画を通しやすくなっており、製作本数の増加につながっています。
■では、製作委員会の何が問題なのか?
しかし最近では、製作委員会の問題点がしばしば指摘されるようになっています。
まず大きな問題としては、作品の内容にさまざまな会社が口を出すため、個性的な作品が作りづらい点があります。実際2018年に放送され、毎週主人公の声優を2組起用するなど個性的な作風と演出で話題となった大川ぶくぶ先生原作のTVアニメ『ポプテピピック』では、キングレコードが単独で出資しています。
また、製作委員会方式では出資者として出版社が名前を連ねることも多く、当然のことながら原作付きアニメの企画が増加することになりました。この25年ほどで数多くのライトノベルやコミックスを原作としたアニメが放送されましたが、アニメの原作消費量は原作の執筆・出版速度よりも格段に多いため、近年では原作の枯渇が絶えず叫ばれる状況となっています。さらにオリジナル企画が通りにくいという弊害も生まれていましたが、近年では原作の不足もあり、徐々に改善されているようです。
そして何より大きな問題が、制作現場の待遇悪化です。仮にアニメがヒットした場合、製作委員会に名を連ねている企業に出資比率に応じて利益が配分されますが、アニメの制作会社が製作委員会に名を連ねていない場合、金銭的なリターンはありません。オリジナル企画を立ち上げたくても資力がなく、ギリギリの水準で仕事を請けなければいけないので結果現場へのリターンが極めて少なくなってしまい、人が離れるという悪循環に陥っています。
現在、このジリ貧の状況を改善すべく、多くの企業や人が動き始めています。先述した『ポプテピピック』以外にも、TVアニメ『けものフレンズ』を制作した「ヤオヨロズ」の福原慶匡プロデューサーはアニメスタジオが権利を持ち、グッズの制作販売や配信などを行いたい企業から使用料を取る、もしくは売却するという「パートナーシップ方式」を提唱しています。
日本で製作委員会が普及するきっかけとなった『エヴァ』でも、新劇場版は庵野秀明氏が代表取締役を務める「株式会社カラー」が単独で製作しています。これはTVアニメヒット時に、現場には何の還元もなかったことが影響しているそうです。
アニメ『鬼滅の刃』では制作会社であるUfotableが出資を行い、配分を受け取る権利を得るなど、現場への還元を生み出す動きが加速しています。
また配信サービス「Netflix」はアニメ制作スタジオと提携し、直接資金を提供することでスピーディーに多くの作品を世に送り出しています。
果たしてこれからどのような形がアニメ制作における主流になるのかは予断を許しません。今はまさに、過渡期と言える状況なのでしょう。
(ライター 早川清一朗)
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