【シャーマンキング30周年への情熱(20)】神回「恐山ル・ヴォワール」の舞台・青森を訪ねる(上)
マグミクス / 2020年12月31日 14時50分
■第1章「青森駅」 寒さのなか、人と荷物と列車が行き交う
『シャーマンキング 完全版』(講談社・電子書籍)19巻・20巻に収録の「恐山ル・ヴォワール」編は、幼少期の主人公・麻倉葉が、ヒロイン・恐山アンナとの初対面を果たす物語として、ファンの間では根強い人気があります。物語の舞台は青森県むつ市街と霊場・恐山です。
劇中の舞台は1995年で、執筆されたのは2002年です。本連載ではこれより3回に分けて、劇中で描かれた場所の現在の様子と劇中の描写を比較しながら紹介します。取材は2020年11月に、新型コロナウイルスへの感染対策をしっかりとった上で実施。単行本を片手に、現地訪問したような気分で楽しんでいただけるよう、エリアごとにまとめてレポートします。
●青函連絡船 八甲田丸
出雲を発った葉は「乙斗星(おつとせい)」で青森駅に入ります。その様子を描いた1コマに「HAKKODA-MARU」と書かれた不思議な絵がありますが、実はこれ「青函(せいかん)連絡船 八甲田丸」の船尾です。
1枚目の写真をご覧下さい。船尾とゲートが写っていますね。しっかりと現存しています。その昔、1988年に青函トンネルが開通するまで、青森~函館間は青函連絡船で往来していました。貨物列車などもそのまま積み込みます。フェリーの列車版ですね。船尾のハッチが開くとそのままレールが延びていて、列車が中に入る仕組みでした。それを管理するために、船の手前にゴツイ鉄骨のゲートがあります。
青函連絡船が廃止されたのは武井先生が中学校の頃です。その後八甲田丸は博物館的な存在として生まれ変わり、当時の発着場所に接岸されています。
●青森駅のホーム
「乙斗星」が停車している青森駅。乙斗星の背後に描かれている渡り廊下は健在
青函連絡船の廃止前は、電車を降りてホームを海側の端まで歩くと連絡線乗り場、逆の端には駅の出口がありました。こうした構造であったことや、当時は北海道と本州を結ぶ玄関口で人や貨物を詰め込んだ長い列車がひっきりなしにやって来たことから、ホームの全長は約360mもあり、戦後に新幹線が誕生するまでは日本一の長さだったそうです。
しかし、ホームの上は当然吹きさらしで、待合室もなく、冬……特に吹雪の時などは寒くて凍りそうな思いをしたものです。武井先生は高校に通うため毎日のように駅を利用していたので、そうした経験は身に染みているかもしれませんね。
マタムネが上った階段の先は、乙斗星の背後に描かれている渡り廊下につながっています。
ホームから柵の向こうを眺めると、駅前のロータリーを囲むように様々なビルや飲食店などが並んでいました。ここで注目したいのは「ねぶた漬」の看板です。青森と言えば「ねぶた祭り」。その名を冠した食品です。松前漬けに似た食べ物で青森では超! 有名です。ぜひ機会があったら御賞味下さい。また、青森駅の外観にも触れておきましょう。現在では、東北新幹線の開通に伴い、新青森駅にターミナルとしての機能を譲ったためかシンプルになりました。
(「ねぶた漬」の看板と青森駅の外観は、画像ギャラリー参照)
■第2章「むつ市」 下北半島の海沿いの街へ
むつ市に向かう葉たちが乗った1両編成の電車
さて、葉とマタムネは青森駅で列車を乗り換え、下北半島にあるむつ市に向かいます。劇中では「スーパーはつかり盛岡行き」に乗ろうとしていたようですが、葉たちはこれに乗って野辺地(のへじ)駅に着いた後、更に大湊(おおみなと)線に乗り換えます。それが劇中で描かれている1両編成の電車です。
青森からむつ市に向かった葉たちの移動ルート(国土地理院の地図をもとに編集部にて作成)
大湊線はこの絵の通り海岸に沿って走ります。終点は、海上自衛隊の基地でも有名な大湊駅ですが、葉たちはそのひとつ手前・下北駅で降りることになります。
作中で描かれた、下北駅構内の木製モニュメントと、実際のモニュメント。写真は2002年4月撮影(提供:光鉄企画)
電車を降りると……さて、どうでしょう、扉絵にもなったモニュメントそのままですよね? ここはまだ駅の中、改札内です。植え込みの陰に扉が見えますが、そこが改札です。ただ残念ながらこのモニュメント、今はもうありません。下北駅は2009年に駅舎ごと建て替えられ、駅前の敷地もしっかり整備されました。
葉が訪れた当時の下北駅の場面と、実際の写真を見比べてみると、自動販売機やポストなどはそのままですね! 現在の下北駅は、木製のモニュメントが新しく作り替えられ、駅舎の外に設置されています。ここから恐山行きのバスも出ているようです。
■第3章「むつ市街」 アンナに困惑した葉は橋を渡って…
作中の場面に相当する、むつ市中心部(国土地理院地図をもとに編集部にて作成)。(1)葉が鬼に追われる場所(2)元陸軍大将ぐーちゃんの店・土産のぐまくら (3) 「それじゃ全然わかんねえ!」の場面 (4) アンナが歩くスナック街
●アンナに困惑した葉が、鬼に追われる場所
いよいよむつ市街へと移りましょう。劇中で描かれている場所はむつ市の中心部一帯で、横迎町(よこむかいちょう)、柳町(やなぎまち)と呼ばれる地域です。アンナが歩いていたスナック街(画像ギャラリー参照)は、現在でも雰囲気はそのままです。葉がアンナとの出会いに困惑しながら渡った橋は「大橋(おおはし)」といい、田名部川(たなぶがわ)にかかる橋のひとつです。
田名部川にかかる「大橋」。作中では困惑する葉と橋をシルエットで印象的に表現している
その次のシーンで鬼が上がってくるのですが、その場所は田名部川から道路に上がる階段です。そして葉はこの鬼に追いかけられるのです。
これらの場所は作劇の都合上、多少位置関係が調整されているものの、徒歩数分圏内に集中しています。現在では建物がなく駐車場になっていたり、外壁が変わっていたりしていますが、感じられる趣(おもむき)はそのままです。
(鬼が上がってくる階段と、アンナが歩いていたスナック街は、画像ギャラリー参照)
■「元陸軍大将ぐーちゃんの店」には元ネタが…
作中の「元陸軍大将ぐーちゃんの店・土産のぐまくら」と、実際の「くまくら」だった建物
●元陸軍大将ぐーちゃんの店・土産のぐまくら
作中の重要な場面のひとつ「元陸軍大将ぐーちゃんの店・土産のぐまくら」は、店主も葉をサポートする重要な役割を果たします。実際のお店は「くまくら」という名前でした。これは、先ほど紹介した横迎町からほど近い、柳町にあります。
「元陸軍大将ぐーちゃんの店」というのは随分意味ありげな言い回しですが、これには元ネタがあります。青森ローカルに「陸軍大将たーちゃんのお店」という仏具屋のテレビCMがあり、特にアニメなどを放映していた夕方の時間帯にはよく目にしていました。完全に頭に刷り込まれたお馴染みのフレーズだったので、初めて「ぐーちゃん」の言葉を目にした時はニヤニヤしてしまったのを憶えています。
さて、現在のくまくらさんですが、建物は残っているものの営業はしていません。この道を進んでいくと、当時は大畑(おおはた)線の田名部(たなぶ)駅という駅がありました。むつ市街はそれを起点に活気が広がっていた側面もあったのですが、大畑線の廃止に伴う駅の閉鎖で人の流れが変化し、閉店ということになったようです。しかしよく見ると、何故か「ゲゲゲの鬼太郎」のキャラクターが貼り出されたりしています。このお土産屋さんに一体何があったのでしょうか?
実はここ、劇中に描かれた翌年の2003年に妖怪ハウスとして生まれ変わっていたのです! というのも、故・水木しげる先生が初代会長を務めた世界妖怪協会が主催する「世界妖怪会議」というものがあり、当時は妖怪に縁のある日本各地を持ち回りで毎年開催されていました。
そして2003年には「下北妖怪夏祭り」と称してむつ市で行われたのです。その時にここを妖怪ハウスとして改装、様々な展示品を置いて解放し、随分と賑わったようです。それらを牽引したのがお店の向かいにある旅館のオーナーさんで、一部ではずいぶん有名な方のようなので、興味のある方は調べてみてください。
●「それじゃ全然わかんねえ!」の場面
土産屋から去っていくアンナに、葉が叫ぶシーン。旧・田名部駅から延びる道路が背景か?
さて一方、お店に向かって左側を向いた景色が、「ぐまくら」で再び出会ったアンナからの言葉に、葉が「それじゃ全然わかんねえ!」と叫ぶ場面の背景と思われます。
ここは田名部駅から延びる道路ですが、松木屋(まつきや)の看板が目立ちます。松木屋とは昔から青森にある百貨店で、年配の方にとっては伊勢丹や三越のような存在だったといっても良いでしょう。お中元やお歳暮、ちょっとしたお土産などは松木屋の包装紙に包まれていることがステータスでした。本店だった青森市の松木屋はもう存在しませんが、むつ市では現在も元気に営業中です。
「恐山ル・ヴォワール」の舞台を訪ねる旅はまだまだ続きます。次回は、物語が大きく盛り上がる、恐山を訪れます。お楽しみに!
【聖地レポート(中)はこちら】
※掲載写真は、注記がないものは全て筆者撮影、過去の現地写真について、次の提供元のご協力をいただいています。
・すち~るばぐらんつ
http://www001.upp.so-net.ne.jp/m-yoshi/index.htm
・光鉄企画
http://www.kotetsu.sakuratan.com/kotetsu/
・Delicious Way
http://deliciousway.sakura.ne.jp/
(タシロハヤト)
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