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【地上波初放送】新海誠監督『天気の子』に込められた、アニメ界の歴史を覆す決断とは

マグミクス / 2021年1月2日 17時40分

【地上波初放送】新海誠監督『天気の子』に込められた、アニメ界の歴史を覆す決断とは

■評価が分かれた、物語のクライマックス

 新海誠監督の長編アニメ『天気の子』が、2021年1月3日(日)の21:00~23:12に、テレビ朝日系でノーカット放映されます。2019年に公開された『天気の子』は、興収141.9億円を記録した大ヒット作です。今回のオンエアは、新海監督が監修した約1分間の「特別エンディング」にも注目が集まります。

 RADWIMPSが映画のために書き下ろした楽曲「愛にできることはまだあるかい」をはじめとする音楽も、大変な話題となりました。新海監督ならではの美しい景観も見どころですが、その一方では主人公の決断によって世界が大きく変わっていくというクライマックスは、観る人によって評価が分かれることになりました。

 地上波初オンエアとなる『天気の子』の、賛否両論となったポイントを探ってみます。

※記事後半で、物語の核心に触れる記述がありますのでご注意下さい。

■雨空を晴天に変える不思議な力を持つ少女

 自主制作アニメ『ほしのこえ』(2002年)で商業デビューを果たした新海誠監督は、しばらくは知る人ぞ知る存在でしたが、東宝系で全国公開された『君の名は。』(2016年)は興収250億円のメガヒットを記録。一躍、「ポスト宮崎駿」と騒がれる注目の新世代クリエイターとなりました。

 それまでは若者たちの内向的な世界をナイーヴに描いてきた新海監督ですが、海外でも人気を呼んだ『君の名は。』から作風が変わります。美しい景観や作品の世界観にマッチしたミュージシャンの起用は変わりませんが、主人公たちは社会に向き合い、大きくコミットしていくようになります。

 東京を舞台にした『天気の子』は、家出少年の帆高(CV:醍醐虎汰朗)、弟とふたりっきりで暮らす少女・陽菜(CV:森七菜)を主人公にしたボーイ・ミーツ・ガールの物語です。常識的に考えれば家出はよくないし、保護者となる親がいないのなら児童相談所などに助けを求めるべきでしょう。でも、帆高も陽菜も常識には従わず、自分自身で判断して行動します。

 世間の常識に従っていれば、大きな間違いは犯さずに済むかもしれません。でも、帆高にも陽菜にも、常識に逆らってでも大切にしたいものがあったのです。

 東京の片隅で出会った帆高と陽菜は、陽菜の弟・凪(CV:吉柳咲良)も含め、3人で擬似家族のような生活を始めます。雨空を晴れに変えることができる陽菜の不思議な力を使って、生活費を稼ぐようになります。お金を得ること以上に、陽菜は自分の能力が誰かの役に立つことがうれしくて仕方ありません。陽菜の笑顔が、帆高と凪も幸せにします。3人の少年少女たちの自立した生活は、とても楽しそうです。

■世界の形を変えてしまう、帆高の決断

『天気の子』は、見慣れた風景が美しく感じられる背景美術も大きな特徴。画像は映画公開の2019年に開催された「天気の子」展で展示された背景美術

 陽菜が雲に覆われた空に向かって祈りを捧げると、厚い雲の切れ間から太陽の光が差し込んみ、美しい東京の景観が広がります。東京はこんなにも美しい街だったんだ、という驚きがあります。風景の美しさと主人公たちの心情がシンクロするように描かれています。

 ところが、物語は後半から悲劇的な色合いを強めていきます。天候を変える力を持つ陽菜は、その力を使うことで少しずつ身体に変化が起きていました。哀しい別れの予感が漂います。誰よりも大切な存在となっていた陽菜を、帆高は失いたくありません。天候は荒れる一方です。自分ひとりが犠牲を払うことで世界を救おうとする陽菜を、帆高は懸命に守り抜こうとします。

 帆高の決断は、世界の形を大きく変えてしまうことになるのです。すべてが多数決で決まる世界なら、帆高の行動は許されないものでした。

■アニメ界の「負の歴史」に逆らった新海監督

 日本のアニメ作品や特撮ドラマでは、たびたび「自己犠牲」が物語のフィナーレを飾ってきました。日本初のTVアニメシリーズ『鉄腕アトム』(フジテレビ系)の最終回は、人工知能を持つ高性能ロボットのアトムが太陽に向かって消えていくという悲劇的なエンディングでした。一大アニメブームを巻き起こした劇場アニメ『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978年)は、主人公・古代進が敵の巨大戦艦に特攻を仕掛けます。地球を守るための古代の決断は、観客の涙を誘いました。

 宮崎駿監督の劇場アニメ『風の谷のナウシカ』(1984年)でも、主人公のナウシカが王蟲の群れの前に身を投げ出すシーンがクライマックスとなっています。自己犠牲の精神は、とても尊いものです。しかし、アニメ作品のなかには、悲劇性を伴う自己犠牲を視聴者や観客を感動させるためのツールとして使った作品が少なくありません。主人公が自己犠牲を払うことで、物語を美しく終わらせることができたのです。

 新海監督は『天気の子』で、そんなアニメ界の負の歴史に逆らってみせました。そのために物語は、とてもいびつな形で終わりを迎えます。物語を美しく終わらせるのではなく、いびつな未来を新海監督は主人公たちに選択させています。

 主人公たちの判断は、世間の常識に逆らったものかもしれません。でも、常識は時代の変化とともに変わるものです。これまでの常識が通用しない新しい時代を、私たちが生きている現実の世界も迎えつつあります。『天気の子』は、そんな新年にふさわしい作品だと言えるのではないでしょうか。

(C)2019「天気の子」製作委員会

(長野辰次)

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