【保存版】『シャーマンキング』の神回「恐山ル・ヴォワール」の舞台・青森を訪ねる(下)
マグミクス / 2021年1月4日 17時10分
■第6章 安井旅館
『シャーマンキング』の主人公・麻倉葉が幼少期にヒロイン・恐山アンナと初めて出会う物語が描かれた「恐山ル・ヴォワール」編(講談社『シャーマンキング 完全版』19巻、20巻に収録)は、多くのファンに支持されている名エピソードです。
これまで2回にわたって、青森駅、むつ市、恐山と、劇中で描かれた場所の現在の様子と劇中の描写を比較しながら紹介してきましたが、今回は聖地レポートの完結編として、作中のさまざまな印象的場面を取り上げます。最後まで、単行本を片手にお楽しみ下さい。
* * *
●葉の祖母とアンナが住む「安井旅館」
まず、葉の祖母・麻倉木乃と恐山アンナが住む「安井旅館」を紹介します。なぜ紹介が後回しになったかというと、このモデルとなった建物はむつ市には存在しないからです。これは、青森を代表する有名な小説家・太宰治の生家として一般開放されている「斜陽館」がモデルとなっています。武井先生のチョイスが渋いですね!
斜陽館は、青森県の五所川原市(旧:金木町)にあります。青森市から北東に行けばむつ市ですが、南西方向なので真逆にあります。ここは歌手の吉幾三さんの出身地でもあり、また津軽三味線発祥の地でもあります。
●「安井旅館」館内の階段
作中の「安井旅館」の階段(左)と、斜陽館の階段(右)
安井旅館の中身は、斜陽館とはまったく異なります。しかし、ハイカラな雰囲気は踏襲されています。写真の階段は、斜陽館でも大きな特徴のひとつです。
武井先生と同じ位の年代の方なら、もしかしたら「地吹雪ツアー」という言葉を聞いたこともあるかもしれません。風の強い冬の日は、田んぼに積もった雪が風で舞い上がり、視界ゼロのホワイトアウト状態になります。これを地吹雪と言い、雪国以外の方に体験してもらおうというツアーをやって、一時期有名になったのが金木町です。
地吹雪と言えば、武井先生と筆者が通っていた青森南高等学校は、その当時田んぼの真ん中にあり、一本の専用道路が延びているだけでした。そのため冬になると、まさに地吹雪が吹き荒れ、横から風が吹けば身体の半分だけ真っ白になって顔も凍り、下手をするとメガネに氷柱ができるという、冗談みたいなホントの話がありました。
名付けて「南高ブリザード」……今では田んぼはすべて宅地になり、学校の正門ギリギリまで住宅があります。ブリザードはもう起きません。いい想い出です。
■第7章 その他作中で印象的だった場所
●葉を送り出すアンナが降りた「赤川駅」
アンナと葉の別れのシーンで描かれている駅は、JR大湊線の赤川駅。現在の姿は執筆当時とほぼ変わっていない
葉が出雲へ帰る日、彼は下北駅から大湊線に乗り青森駅に向かいました。ところがその時、アンナはすでに電車に乗って待ち構えていましたよね? 彼女は始発である大湊駅から乗車し、葉が来るのを待っていました。そのアンナが降りたのが「次の駅」赤川駅です。写真と見比べてみて下さい。そのままですね! 赤川駅にもかつては駅舎があったようですが、現在では待合室があるだけの無人駅となっています。
●扉ページの顔出し看板
「恐山ル・ヴォワール trois 3」扉ページに描かれた顔出し看板と、実際の写真 (写真提供=材 株式会社) (C)青森の魅力
今回、場所の特定に一番苦労したのが、この顔出し看板です。筆者の家族はもちろん、むつ市在住の親戚を総動員して探しました。え? 武井先生に聞け? ごもっともです! しかし残念ながら、記憶もなければ当時の写真もない……という状態で、頼りにできなかったのです……。
それはそうですよね。当時は週刊連載を抱えていて、その隙間をぬって北の果てまで取材に来たわけですから、滞在時間など限られています。劇中で描いていないだけで他にもいろいろ回って資料写真は山ほど撮ったでしょうし、憶えている方が凄いと思います……。
というわけで、探した結果、これは大湊線・有畑駅から国道279号線・通称「むつはまなすライン」を少し青森方面に行ったところにあるドライブイン「トラベルプラザ サン・シャイン」の展望台にあったものとわかりました。
この顔出し看板は既に存在しません――残念っっ!!
顔出し看板がドライブイン敷地のどこにあったかは不明ですが、顔出し看板の写真の後ろに「ほたて観音」が見えること、現在とは地形が異なることから、現在のほたて観音がある展望台付近にあったと推測しています。
ところで、この顔出し看板の人物の格好ですが、四国八十八箇所を巡るいわゆる「お遍路さん」に似ていると思いませんか? それもそのはず、実はこれは「死装束」なのです。お遍路さんの格好も死装束です(それを着るようになった由来はハッキリしないそうですが)。
この地方でも死装束の格好は同様でした。昔は(場合によっては今でも)人が亡くなるとこの死装束を着せ、三途の川を渡るための渡し賃である六文銭を入れた財布とともに棺に納めます(現代では六文銭を印刷した紙を入れます)。杖や笠は棺の上に置きました。
今回記事を書くにあたり、筆者は母に昔の話を聞いてみたのですが、曰く、むつ市では「人が亡くなったら恐山に行く」というのは当たり前の認識だったそうです。恐山に向かう道の途中に自分の家があったことから、夜になると怖くて仕方がなかったと話してくれました。その死者の姿としてイメージしていたのはまさにこれだったそうです。では、この顔出し看板は死者になることをイメージしたものだったのでしょうか?
さすがにそれはないでしょう!
実は恐山を訪れると、これと同じ服が、ところどころの木の枝に掛かっているの目にします。つまり恐山は日本三大霊場のひとつですから、そこを詣でる人達もいて、その時にはお遍路同様にこの服を着ていたと考えるのが妥当……すなわち、恐山詣でをする人の格好をして気分に浸ろう! というのがこの看板の目的です。ああ良かった……。
■まとめ
作中で描かれている海岸のシーン。実際の場所は特定できないが、作者・武井先生が生まれ育った蓬田村の風景に近いと考えられる。陸奥湾に沿って長く伸びる村は、写真のような風景がずっと続いている
さて、3回にわたってお送りしてきた聖地レポートはいかがだったでしょうか? 今回意外だったのは、かなり当時の風景が残されていたことでした。20年越しに無事、葉やアンナ、ひいては武井先生の立った場所をご紹介できたことに安堵しています。また、取材全体・昔の写真手配については多くの方にご協力いただきました。名前を掲載した方も、そうでない方にも、心より感謝申し上げます。
2021年もさまざまな苦難が待ち受けていると思われますが、「ふんばる」「なんとかなる」の精神がそれを乗り切る一助となれば幸いですし、4月開始予定のTVアニメも、皆さんに元気をお届けできることを願っています。そしてこの連載も、どうか引き続きよろしくお願いします! それではまた次回をお楽しみに!
(作中で描かれている海岸のシーンをイメージできる、蓬田村の海岸の風景。再生が始まった時から見て後ろ(橋が架かっている場所)は阿弥陀川の河口です)
※掲載写真は、注記がないものは全て筆者撮影。過去の現地写真について、次の提供元のご協力をいただいています。
・青森の魅力
https://aomori-miryoku.com/
(タシロハヤト)
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