『エヴァ』二次創作のガイドラインが出された理由は? 読み解いて見えてきた目的
マグミクス / 2021年1月12日 16時40分
![『エヴァ』二次創作のガイドラインが出された理由は? 読み解いて見えてきた目的](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_44109_0-small.jpg)
■『エヴァ』ガイドラインは、ファンの安心のため
2020年12月28日、『エヴァンゲリオン』(以下、エヴァ)の二次創作を愛する方々の間に激震が走りました。現在『エヴァ』の原作権を保有する株式会社カラーから、二次創作に関するガイドラインが発表されたのです。
表題は「『エヴァンゲリオン』シリーズのファン創作物の公開に関するガイドライン」。目的としては「ファンの方々に安心してファンアートなどを制作していただくためのルール」とあります。『エヴァ』の二次創作、特に同人誌は1990年代半ばから後半にかけてコミックマーケットを埋め尽くし、その後も安定して作品が供給される固定ジャンルとして愛されてきました。当然莫大なお金が権利者と無関係のところで動いており、むしろ今までガイドラインがなかったのがおかしかったとも言えるでしょう。
今回公開された内容は以下のようになっています。
・全年齢向けのSNS一般
・イラスト投稿サービス
・小説投稿サービス
・動画投稿・配信サービス一般
意外なことに、今回対象となったのはWebに直接アップされる無償のファンアートが中心で、同人誌についてのルールは、現在検討中とアナウンスされています。ガイドラインには「商用利用を目的とするものは、個別に作品の使用許諾が必要です」とも書かれているため今後は同人誌にも適用される可能性がないとは言えません。しかし許諾を行うための人手や時間を考えると、それほど現実的な話とは思えないのが正直なところです。
果たして、なぜ今カラーはこのガイドラインを発表したのでしょうか。間もなく公開される『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が関連している可能性はむろん大きいと思われますが、内容を精査していくと、自由な二次創作の阻害や権利を振りかざして金銭化する目的ではなく、むしろ健全な二次創作を守り、広めていきたいという視点が浮かび上がってくるのです。カラーは『エヴァ』が二次創作と共に発展してきたことを正確に認識しており、これからも共に歩みたいという意志の表明が、ガイドラインと言う形になったのではないかと思えるのです。
■「禁止します」ではなく「控えてください」
今回、公開を控えて欲しい創作物の内容として、以下の7項目が提示されました。
(1)本作品、または他者の気持ちや名誉、考え方などを傷つける目的のもの
(2)特定の政治・宗教・信条を過度に推す、または貶めるもの
(3)過度に暴力的・グロテスクなもの
(4)ポルノ表現そのものを目的としたもの
(5)その他反社会的な表現のもの
(6)他者の権利を侵害しているもの
(7)公式作品と誤認される可能性のある様態のもの
改めて見てみれば、どれもごく、当たり前の内容となっています。創作物及び二次創作は「楽しむためのもの」であり、人を傷つけたり自身の政治信条を訴えるために使うものではありません。権利は当然すべてカラーが保有するものであり、二次創作はあくまでも見逃してもらって作り上げるのですから、権利者に迷惑がかからないようにするのはエチケットの類と言えるでしょう。ただ、ポルノ表現そのものを目的としたもの、この表現については解釈の余地が分かれるかと思います。
一見すると18禁の同人誌を禁止しているようにも見えますが、前述の通り同人誌は対象外です。おそらくこの条項は、パロディAVを禁じるためのものである可能性が高いのではないでしょうか。
そして重視すべきは「禁止します」というはっきりとした言葉ではなく「控えてください」と柔らかめの表現になっている点でしょう。カラーが二次創作を可能な限り許容したいという意志を持っていることが読み取れます。もちろん、身勝手な拡大解釈を行い、好意を無碍にすれば、また別の対応が待っている可能性は高いでしょう。
また、重要なポイントしては動画配信や有料ファン会員サービスについては、収益化プログラムが動作していてもかまわないと明記されていることです。もちろん「エヴァンゲリオンのファン創作物がアカウントのメインコンテンツではないこと」「あくまで趣味の創作活動の範囲にとどめ、その創作物を使った過度な営利活動を行わないこと」と注意事項は付随してはいますが、例えばライブドローイングでアスカの絵を描く程度なら認められていると解釈できます。
結局のところ、ガイドラインが出ても、収益を考えない創作活動については今までとあまり変わりはなく進めていけると考えて良いと思われます。間もなく公開される『シン・エヴァンゲリオン』が傑作であれば、多くのファンアートがSNSを彩ることでしょう。25年前には存在しなかった光景がさらなるエヴァの世界を広げてくれることを、ひとりのファンとして期待せずにはいられません。
(ライター 早川清一朗)
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