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『鬼滅の刃』人気投票1位・我妻善逸 愛される理由は“名前”にもあった?

マグミクス / 2021年1月22日 7時10分

『鬼滅の刃』人気投票1位・我妻善逸 愛される理由は“名前”にもあった?

■善逸は作中誰よりも臆病で、人間味にあふれる「隠れた英雄」

 原作は完結したものの、マンガ、アニメ、映画とその人気がとどまるところを知らない吾峠呼世晴先生の『鬼滅の刃』。そんな鬼滅のキャラクターのなかで、ひときわやかましい人物が我妻善逸(あがつま・ぜんいつ/CV:下野紘)です。

「週刊少年ジャンプ」連載時に行われた人気投票で首位に輝いたこともある彼。作中に登場した当初は決して魅力的に見えなかった善逸は、なぜここまで人々に愛されるのでしょうか?

『鬼滅の刃』は、どのシーンにも「人間を食う鬼」の影がつきまとう、絶望的な雰囲気を漂わせる作品です。主人公の竈門炭治郎も、家族を惨殺し妹・禰豆子を鬼にした宿敵・鬼舞辻無惨を倒すため、刀さえ握った経験のないところから、血のにじむような努力を重ねます。

 そんな過酷な世界にあって、善逸の初登場はあまりにコミカル……というか、非常にシュールなものでした。炭治郎が善逸に初対面したとき、彼は道中で出会った見知らぬ女性に泣きついて、泣きわめきながら結婚を迫るような有様。彼らの生きる時代が大正ではなかったら、即通報されるような事案です(当時の倫理観でも、そうとう危ない存在に映っていたかもしれませんね)。

 炭治郎と同行するようになってからも、善逸は泣き叫びながら、鬼が怖い、任務に行きたくないと叫ぶばかり。長男気質全開で作中屈指の面倒見のよさを誇る炭治郎でさえ、冷たい目で彼を見つめるほどのヘタレっぷりを見せつけます。その後も、保護すべき少年に「助けてくれ」と泣き叫ぶ情けなさに、呆れた読者も多いのではないでしょうか。

 そんな彼が一躍人気を博すようになったのは、ヘタレっぷりからの「ギャップ」だったのでしょう。鬼を前にして、あまりの恐怖で気を失ってしまう善逸。しかし彼は、気絶すると自分が身につけた「雷の呼吸」の剣技で、一瞬にして鬼の首を両断します。その後も、強敵との闘いで常に泣き言を吐きながらも、大事な局面で活躍する善逸の姿は、「かっこいい」のひと言に尽きるでしょう。起きているときの彼に伝えられないのが、もったいないほどです。

 彼自身の剣士としての特性も、人々を惹きつけた要因でしょう。通常、炭治郎たちが所属する鬼殺隊が扱う特殊な「呼吸」から繰り出す剣技は、流派によって複数の型があります。雷の呼吸にも6つの型がありますが、善逸が扱えるのは「壱ノ型 霹靂一閃(へきれきいっせん)」ひとつだけ。自分は出来損ないだと嘆く善逸に、師匠のじいちゃんこと桑島慈悟郎はそのひとつの型を極めろと伝えます。

 その教えを愚直に守り抜き、仲間を救い、最終決戦ではさらなる成長を見せた善逸。おそらく主人公・炭治郎にも負けないくらい、作中でもっとも成長した人物のひとりです。そのひたむきな努力の姿に、胸を打たれた人も多いはず。

 しかし、我妻善逸という人物像のもっとも魅力的な点は、ヘタレな性格からにじみ出る「優しさ」でしょう。彼は異常ともいえるほど優れた聴覚を持ち、呼吸音、心音、血のめぐる音で、相手の考えが見抜けてしまいます。

 実際に、善逸は炭治郎と初めて会った時から、その聴覚で炭治郎が鬼(禰豆子)を連れて歩いていると、すぐに理解しました。しかし同時に、炭治郎自身の底抜けな優しさも知ります。彼は「信じたい人を信じる」という信念を貫き、素性さえ知らない禰豆子のことを、彼女を襲おうとする嘴平伊之助から守ろうと身を挺するのです。

 主人公である炭治郎の、いつどんな時でもまっすぐな姿は、ある意味で「完成された倫理観のある人間」に写ります。そんな彼の横で、ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも、いざという時には弱き人を助けようと奔走する。不器用さ、情けなさと同居する善逸の優しさと強さが、人の心を打つのかもしれません。

 善逸の「逸」の字は、逃げる・わがまま・みだらと、あまりよくない意味を持ちます。一方で、「逸」には脚が早い・抜きん出ている・世に知られないといった、前向きな意味も持ち合わせているのです。

 矛盾する二面性のあるこの漢字こそ、善逸を表すのにぴったりな言葉だったのですね。

(サトートモロー)

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