終戦から10年経たずに『ゴジラ』を作ることができたワケ。魚屋でゴジラの足を調達?
マグミクス / 2021年2月1日 19時10分
![終戦から10年経たずに『ゴジラ』を作ることができたワケ。魚屋でゴジラの足を調達?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_45387_0-small.jpg)
■戦時中から培われていた“特撮技術”
日本が終戦を迎えたのが1945年。映画『ゴジラ』が公開されたのが1954年。その間はわずか9年しか経過していません。“戦争を知らない世代”からすれば、終戦直後の東京といえばGHQ占領下にあり、まだ戦禍の傷跡生々しく、各地で闇市が開かれ、人びとはなんとか糊口をしのいでいた……そんな漠たるイメージが定着しているのではないでしょうか。そのような状況で「大怪獣が東京を火の海にする映画」が撮られました。どうしてそんなことが可能だったのでしょうか?
この疑問を解くにはまず、終戦前後の日本の映画産業が置かれていた環境について知っておく必要があるでしょう。
戦局が劣勢に傾いてきた太平洋戦争末期、日本の民間映画産業は事実上、壊滅状態に陥ります。終戦を迎えるとGHQの検閲のもと、徐々にではありますが国産映画が息を吹きかえし、1950年代には朝鮮戦争の特需もあり、国産映画の製作数は激増します。経済と同じく、映画産業も急速に復興の土壌が整えられていったのです。
時同じくして1954年3月、ビキニ環礁で水爆実験が行われ、第五福竜丸事件が発生。世界的に反核兵器の機運が高まるなか「水爆大怪獣映画」のコピーで封切りされたのが『ゴジラ』でした。つまり『ゴジラ』は、ある意味では時代の申し子だったのです。
また、私たちが知っているいわゆる特殊技術(特撮)というものは、『ゴジラ』でいきなり生まれたものではありません。『ゴジラ』で特殊技術を担当した“特撮の神様”こと円谷英二氏は太平洋戦争の真っただなかに軍部指導のもと製作された“ニュース映画”で戦艦や戦闘機などのミニチュア造形・撮影に携わっていました。『ゴジラ』は反戦映画でありながら、その特撮技術は奇しくも戦時下に培われていたのです
こうして技術面・社会的背景ともに土壌が整った『ゴジラ』ですが、実際にどのようにして製作されていたのでしょうか。円谷氏は当初、自身も大ファンであった『キング・コング』のように人形を動かして撮影するコマ撮り方式を採用しようとしていました。ところが、時間と予算の関係で断念せざるを得なくなり、苦心の末、採用されたのが後に日本特撮映画の代名詞となる“着ぐるみ”という方法だったのです。
逆にいえば当時、東宝に潤沢な資金があれば、着ぐるみのゴジラは誕生しなかったかもしれません。
■ゴムの長靴すら、簡単に手に入らなかった時代
2016年に公開された『シン・ゴジラ』はCG技術をふんだんに使用しているが、初代『ゴジラ』へのオマージュなども多く盛り込まれている (C)2016 TOHO CO. LTD.
さて、着ぐるみを採用するとなったものの、現場スタッフにはノウハウというものがほとんどありません。そこで参考にしたのは、江戸時代から続く菊人形の技術です。金網で型を作り、その上から紙を貼れば、骨組みの完成。菊の代わりに、その上から綿とゴムで皮膚を作っていけば、私たちが想像するゴジラの出来上がりとなるのですが……ここでさらなる問題が発生します。
せっかく調達してきたゴムで造ったゴジラの着ぐるみ第1号は、人が入って動かすにはあまりにも重すぎたのです。結果、ゴジラの着ぐるみはなんと上下半分に切られ、部分的に撮影される方法が採られます。ポスターにあるような鉄塔を破壊するゴジラは、実は撮影の合間に作られた着ぐるみ2号なのです。
さらに、当時の物資不足のなかで、ゴジラの足の造形にも苦労します。ゴジラの足の内部には当初、下駄が仕込まれていましたが、ゴムの重さで鼻緒が切れてしまいました。そこで出たのが、代わりにゴム長靴を使用するという案。ところがいくら探し回ってもゴム長靴を売っている靴屋がありませんでした。そこでスタッフはわざわざ築地市場に出向き、魚屋さんに頭を下げてゴム長靴を調達したのです。物資の上では、どこまでも “戦後”でした。
こうして何もかもが手探り状態で製作された『ゴジラ』ですが、公開されるや観客動員数961万人という空前の大ヒットを記録。以降、国内だけで30本以上の映画が製作される大人気シリーズと成長し、現在に至るまで世界中のクリエイターに影響を与え続けています。
2021年に公開5周年を迎える『シン・ゴジラ』は、モーションキャプチャーによるフルCG合成となり、ゴジラの着ぐるみは登場しませんでした。しかしその重厚な動きは紛れもなく第1作目『ゴジラ』の遺伝子を受け継いだものです。製作技術が向上すればするだけ、その時点の限界に挑み続けたゴジラシリーズの製作スタッフの息遣いはなお生き続けることでしょう。
(片野)
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