『ジョジョ』初めての人に1部1話から見るのを勧めない理由 ファン、愛のジレンマ

■『ジョジョ』なのに“ジョジョ感”が足りない？　ファンを悩ます1部のジレンマ

　面白い作品は人に教えたくなるものですが、こと『ジョジョの奇妙な冒険』（以下、ジョジョ／著：荒木飛呂彦）ほど人にオススメしたくなる作品も珍しいのではないでしょうか。

　連載30年以上、コミックスの累計発行部数は１億部を突破。今もなお第8部が「ウルトラジャンプ」で連載中の『ジョジョ』は言わずもがな日本を代表する人間賛歌ドラマの傑作です。その一方、荒木飛呂彦氏の絵柄が放たれる圧倒的な異彩ぶりに「食わず嫌い」状態の人が未だに見受けられるのもまた事実。そして、この「食わず嫌い」の人たちの存在が、ファンのオススメぶりの熱量をあげる要因のひとつです。

　そんな『ジョジョ』ファンを悩ますのが「では何部から勧めるべきか」という問題です。以降『ジョジョ』アニメ版を軸に説明しますが、通常のアニメ作品であれば“最初から”見ることがセオリーでしょう。しかし『ジョジョ』ファンのなかには初心者に1部1話からオススメすることに若干の抵抗を感じてしまう人が少なからずいるようです。その理由はいたってシンプルです。初心者が『ジョジョ』を1部1話から観ると「思っていたのと違う」となりかねず、結果として「食わず嫌い」のままになってしまうかもしれない……そんな危惧を感じるからです。

　先に強調しておきます。第1部は『ジョジョ』という日本マンガ史に大きな影響を与えた傑作の序章であり、続く「ジョジョ」シリーズの軸となるジョースター家とディオの因縁の端緒が描かれていますし、スピードワゴンやツェペリさんをはじめとする数多くの名キャラクター、そして名シーン、名セリフが詰まっています。『ジョジョ』ファンだって1部1話から観て欲しいというのが本音でしょう。しかしながらアニメ『ジョジョ』1部1話から視聴すると、世間の『ジョジョ』のイメージと若干のズレが生じてしまうことになりかねません。奇妙な言い方になりますがジョジョの1部（特に最初の数話）は“ジョジョ感”が不足していると言えるでしょう。

『ジョジョ』の代名詞といえば精神エネルギーを具現化した能力「幽波紋（スタンド）」。そして荒木飛呂彦氏が生み出す個性爆発系キャラクターたちによる巧みな頭脳戦の妙も、『ジョジョ』人気を支える大きな要素です。その観点で言えば「幽波紋（スタンド）」が登場するのは第3部からであり、相手を出し抜く頭脳戦が前面化するのは第2部からです。アニメの第1部1話から数話にかけては、イギリスの田舎町を舞台にしたどこか牧歌的なシーンと、クラシカルなホラーシーンとで構成された物語となっており、スタンドどころか波紋エネルギーもまだ登場しません。

　ディレクターを務めた津田尚克氏も第1部の昼間のシーンは「『世界作劇場』のような雰囲気」を取り入れたと語っており、また都合上「1部はスピード感を出して駆け足し」にせざるを得なく、最初から2部を見すえた上での製作であったとのことです。
　
　もちろん『ジョジョ』ファンからすればこの最初の数話は“嵐の前の静けさ”として非常に重要なパートであるのですが、その“静けさ”が本編だと思われてしまうきらいも捨てきれず、手放しで1部1話からの視聴をオススメし難いのではないでしょうか。
　
　ここまで『ジョジョ』ファンが初心者に第1部1話から見るのを勧めない理由について述べてきましたが「では何部からならば良いのか」という問題もまた議論が分かれるところです。「やっぱり承太郎が主人公の3部から」と考える人もいれば「実写化されたし、身近な事件が多い4部から」「何も言わず5部を読んで、ブチャラティ沼にハマるべき」など実にさまざまな意見が飛び交っています。

　結論はさておき、「果たして何部からオススメしたら相手は『ジョジョ』を好きになってもらえるだろうか」この問いかけは、おのずと自分の『ジョジョ』愛に真正面から向き合うことになりますし、また相手の好みを推し量る戦略性もはらんでいます。人間愛と知的戦略の冒険譚『ジョジョ』を人にオススメする行為は、それ自体が不思議と作品のテーマを読者が体現する構図になっているのです。なんだか知らぬ間にスタンド行為を受けている……そんな気はしないでしょうか。

　アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』は「Netflix」、「U-NEXT」、「dTV」などの配信サービスで視聴することができますし、何部から見ても『ジョジョ』は楽しめます。

※配信状況は記事掲載時点のものです。

（片野）