「ときメモファンド」覚えてる? 投資信託で開発資金調達、購入者が経験した結末とは…
マグミクス / 2021年1月30日 18時10分
■購入者はエンディングに名前が掲載
西暦2000年の筆者は、『ときめきメモリアル』に胸焦がしたメモラー(注:ときめきメモリアルシリーズの熱狂的なファン)生活に別れを告げ、とあるITベンダーで新米SEとして忙しい日々を送っていました。
そんなある日、会社で調べ物をしていた筆者の目に突然飛び込んできたのが、コナミが『ときめきメモリアル3 ~約束のあの場所で~』(以下、ときメモ3)と「新ときめきメモリアル」(後に『ときめきメモリアル Girl’s Side』として発表)の開発資金を一般人から募るというニュースでした。
「ゲームファンド ときめきメモリアル(以下、ときメモファンド)と名付けられたそれは、1口1万円で10口から購入することができ、10口買えばエンディングに名前が掲載され、20口で『ときメモ3』の限定版がもらえるという、メモラーにとってはとてつもなく魅力的な特典が付いていたのです。
当然の如く強い興味を覚えた筆者は、秋葉原の今は無き「LAOXザ・コンピュータGAME館」で開催された説明会へと足を運び、「きらめき高校」の制服に身を包んだお姉さんから詳しい話を聞きました。
ファンドを購入するためにはマネックス証券に口座を開く必要があり、償還額は『ときメモ3』と「新ときメモ」の発売180日後の出荷本数によって決まるなど、さまざまな話を聞き、帰宅してから数日考え、そして投資を決めたのです。いま改めて考えると、当時の筆者は疲れていたのかもしれません。
最終的にファンドへの申し込みは2783件、集まった金額は約7.7億円でした。近年のゲーム開発は大規模化しており100億円単位の費用がかかったタイトルも複数発売されていますが、当時としてはなかなかの額だったのではないでしょうか。
そしてファンドの購入からしばらく経過したころ、遂に『ときメモ3』の情報がゲーム雑誌に登場したのですが、筆者は見た瞬間に愕然としました。
グラフィックのクオリティが、とても低いものに見えてしまったのです。
『ときメモ3』のキャラクターは3Dで造形されており、それまでのシリーズとは異なり、非常に柔らかく、かつダイナミックにキャラクターを動かすことができるようになっていました。現代であれば動画で情報が発表され、その魅力を十分に伝えることができたと思うのですが、当時は雑誌に掲載される写真がすべてであり、「これは失敗したかもしれない」と、ファンドの購入を後悔し始めたのです。しかし途中解約はできなかったため、経過を見守るしかありませんでした。
■完成したゲームの出来栄えは…?
『ときめきメモリアル Girl's Side』(コナミ)は女性向けの恋愛シミュレーションゲームとして、「ときメモファンド」で開発され、2002年6月に発売された
そんなある日、コナミからファンドについての説明会があると聞き、とにかく今の状況が知りたかった筆者は当然の如く駆けつけました。しかし会場では一般投資家は質問が禁止されており、がっかりしたことを覚えています。
説明会の内容はよく覚えてはいませんが、会場には多くのファンド購入者が詰めかけていたことと、オープニングテーマとエンディングテーマを当時かなりの人気があった音楽ユニット「ZARD」が担当すると大々的に発表されたことが非常に強く印象に残っています。
コナミも『ときメモ3』の販売直前にはTV番組に社員が出演してアピールするなど積極的なマーケティングを行っていましたが、正直あまり効果があったとは言えず、まったく勢いを感じない状態で発売日を迎えてしまいます。
筆者の手元にもファンド限定版が届きましたがこれは開けずにとっておくことにして、一応義理のつもりで通常版を購入してプレイしてみたのですが、静止画で見た印象とは裏腹に、可愛らしいキャラがキビキビ動く良質のゲームだったことに驚かされました。
また、キャラクターがプレイヤーの登録名を呼んでくれる「Emotional Voice System(EVS)」は非常にハイレベルなものに仕上がっており、『ときメモ3』をバカにしていた友人に実際にプレイさせてみたところ、徹夜で自分の呼び名を調整していたほどハマったという出来事もありました。
ゲームのクオリティを十分に伝えることができればもう少し売れたとは思うのですが、結局『ときメモ3』は20万本ほどの売り上げにとどまってしまい、筆者も「ああ、これはお金返ってこないな」とあきらめ、そのまま記憶の彼方へと放り出してしまいました。
しかし2003年になり、ファンドのことをすっかり忘れていたころ、ほぼ購入額と同額のお金が償還されました。『ときメモ3』は期待したほどは売れなかったのですが、『ときめきメモリアル Girl’s Side』が予想以上の売り上げを叩き出してくれたため、損は避けられたのです。
あれから20年、現在ではゲームの開発費用調達のためにクラウドファウンディングが行われるなど、より個人とゲーム開発の距離は近くなっています。その先鞭をつけたのが「ときメモファンド」であると考えると、参加を決めた若いころの無茶な自分を、今の筆者はちょっとだけ誇らしく、そして羨ましく思うのです。
(ライター 早川清一朗)
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