『快傑ズバット』放送から44年。高い人気を支えた「ワンパターンの美学」とは?
マグミクス / 2021年2月2日 7時20分
![『快傑ズバット』放送から44年。高い人気を支えた「ワンパターンの美学」とは?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_46095_0-small.jpg)
■宮内洋氏の熱演に、子供も大人も釘付けに…
「2月2日、飛鳥五郎という男を殺したのは貴様か!」…というセリフで、本作をおぼえている人も多いことでしょう。そう、本日2月2日は『快傑ズバット』の放送開始日です。
1977年に放送開始した本作は、当時から高い人気がありました。ゴッコ遊びのようなものから卒業した子供たちも夢中になって見て、主人公の早川健の代表的な台詞はみな覚えていたほどです。
前述のセリフのほかにも…
「日本じゃぁ二番目だ」
「このもの〇〇〇(犯罪名)犯人…」
(オープニングの途中で)「飛鳥ぁ!」
……というセリフをモノマネするのは、当時流行っていた遊びのひとつです。
その人気は子供だけにとどまらず、もっと高い年齢層、大学生などにも好評でした。『ゴジラ』の映画や第一期ウルトラシリーズで子供だった世代です。いわば特撮ヒーローの第一世代。それは放送当時、まだ本格的なアニメ誌でなく、一般的なサブカルチャー誌だったころの「月刊OUT」で取り上げられていたことでもわかります。
しかし、本作がこれほどまでに広い年齢層、特にヒーロー番組を卒業していたような年齢層に高い人気があったのはなぜでしょう?
それは主演である宮内洋さんの魅力と言っても過言ではありません。本作は極端なことを言えば、宮内さんの活躍を見る作品だからでした。
ヒーロー番組といえば、変身したヒーローが敵と戦うことがメインです。しかし、本作はヒーローであるズバットの活躍よりも、変身前の姿、すなわち宮内さんが演じる私立探偵・早川健の活躍がメインとなっていました。
かつて『仮面ライダーV3』で主役を演じていた時、宮内さんはシナリオではV3に変身しているシーンでも、スタッフに自分の出番にするよう説得していたという逸話があります。アクションシーンなら並みの役者に負けないという自負があったと聞きました。その言葉通り、宮内さんは危険なスタントも次々にこなしたといいます。
それが結実したのが本作でした。ギリギリまでズバットの出番はなく、ひたすら宮内さんの芝居を見ることができる。この変身ヒーロー番組を否定するかのような展開が、本作最大の魅力ではないでしょうか。
この“変身後のヒーローの出番が少ない”という点が、逆に高い年齢層の琴線に触れたのかもしれません。「変身ヒーロー=子供向け」という見方はどうしてもしてしまいますから。
ヒーローの活躍が少ないということがマイナス要素に思える点は、素顔のヒーローである早川健の活躍が補って余りあったのです。
■「変身前」でも活躍できる環境があった
『快傑ズバット』オリジナル・サウンドトラック(日本コロムビア)。ジャケットにはズバッカーに乗ったズバットが描かれる
変身前のヒーローが活躍できる環境、それは本作が特撮番組に必ずいる怪人がいないことが大きく影響していました(怪しい人、という意味の怪人はいますが)。
これはスタッフから以前お聞きした話ですが、ヒーロー番組はいつも着ぐるみを倒しているだけのワンパターン番組と批判され、「それならば着ぐるみ以外の敵を倒す番組にする」という思惑があったそうです。
そのため本作では着ぐるみではない悪の組織のボスとその用心棒という悪役が用意され、結果的に変身前の早川健の出番が多くなりました。
本作はよく小林旭の「渡り鳥シリーズ」の影響が強いと言われています。製作スタッフも参考にしていたのでそれは間違いないのですが、筆者は時代劇のパターンに似ている点も、作品の高評価につながっていると考えていました。
なぜなら本作は時代劇のお約束である、一定のパターンで物語が進んでいたからです。
・まず序盤、用心棒と接触した早川健が、用心棒の得意技で勝負して勝つ。
・そして悪事が進むなか、早川健が危機におちいり姿を消す。
・終盤、ズバッカーに乗ったズバットが名乗りとともに現れる。
・悪党を倒したズバットが、ボスに「飛鳥を殺したか」と問い詰める。
・騒動を知った警官隊が駆けつけると、犯罪名を書かれたカードがボスの上に置かれて一件落着。
毎回、このような感じで物語は進みました。前後編の前編でない限り、この安定の展開で始まって終わります。例えば『水戸黄門』で印籠が出される、『大岡越前』で越前が裁きを始める……というように、終盤は安心して見られる王道パターン。ズバットは毎回ピンチになることなく、それまで悪事をさんざんやってきた悪党どもをなぎ倒すという、カタルシスあふれる最後でした。
時代劇を「ワンパターンの美学」と評する人がいます。それを考えれば本作の面白さもそこにあるといえます。「宮内さんという役者の活躍を毎週見られる」ということが、作品の評価に直結していました。この点も、本作が高い年齢層に好評だった理由かもしれません。
しかし、作品的には成功して視聴率も高かった本作でしたが、オモチャの売れ行きが悪かったため、放送は打ち切りとなってしまいます。
本作は再放送が多く、宮内さんの演技も他作品以上にインパクトがあるので、代表作と感じる人も少なくありません。しかも、この後に放送された『スパイダーマン』や『宇宙刑事ギャバン』で宮内さんがゲスト出演した際、早川健と同じ黒のウェスタンルックだったことから、さらにそのイメージは強いことと思います。
記録ではなく記憶に残る作品。『快傑ズバット』はまさにそんな作品でした。
(加々美利治)
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