空回りばかりだった「カツ・コバヤシ」の戦死…宇宙世紀の歴史に影響を与えていた
マグミクス / 2021年2月15日 7時10分
■カツの成長に大きな影響を与えたのは…
本日2月15日は、35年前の1986年に『機動戦士Zガンダム』第49話「生命散って」が放送された日です。ジェリド・メサ、レコア・ロンド、ヘンケン・ベッケナー、ダンケル・クーパー、ラムサス・ハサなど、戦死者が多いガンダムシリーズから見ても、これだけ名前のあるキャラが1話で死亡することは珍しいことでした。
なかでも『機動戦士ガンダム』からレギュラーとして登場していたカツ・コバヤシ(旧姓ハウィン)の戦死は、一年戦争時代の子供だったころの彼を知る者には衝撃的だったと思います。
しかし、子供時代はおとなしく内向的だったカツが、どうしてあのように死に急いだのでしょうか。そこで、あらためてグリプス戦役時のカツについて考えてみたいと思います。
カツは一年戦争終結後、ホワイトベースでいつも面倒を見ていたフラウ・ボゥが、ハヤト・コバヤシと結婚したことを機会に、一緒に行動していたレツ・コ・ファン、キッカ・キタモトとともにふたりの養子となりました。この時、コバヤシ姓になります。
ここからは想像ですが、三人組で一番おとなしかったカツでしたが、年功序列で長男として扱われるようになったことでレツやキッカを守らなければ……という責任感ができたのかもしれません。アムロと行動をともにする直前、ふたりを言い聞かせる場面を見るとそう感じられます。
その「長男」として芽生えた責任感が、「自分がやらなくてはいけない」という気負いすぎる要因になったのでしょう。
もうひとつ、父親となったハヤトに問題があった可能性があります。ハヤトは一年戦争時代から、たびたび衝動的な行動に出ようとする場面がありました。
脱走したアムロへの対応に不満を抱いてホワイトベースから出ようとしたり、サイド6でザンジバルを見て何かしようとしたりと、意外と短気な面を見せます。そして、アムロへの一方的なライバル心をたびたび見せていました。
これらの行動を見ていると、アーガマでカツが起こしたトラブルと共通する要素があります。もしかしたらハヤトのこうした性格が、意識しないうちに悪い影響をカツに与えたのかもしれません。
そして成長したカツにとってもっとも悲劇的だったことは、「一年戦争で生き延びた」経験だったかもしれないということです。
あのホワイトベースにいて、何度も危険な目にあいながらも無事だったという自信が慢心につながったのかもしれません。そう考えると、常に危険なことを平気でしていたという危機感の欠如が、兵士としては致命的だと考えられます。
■カツが影響を与えた、ふたりのニュータイプ
『Zガンダム』の物語を動かしたカミーユとクワトロ、アムロの3人。画像は『機動戦士Zガンダム -星を継ぐ者-』DVD(バンダイビジュアル)
実は、このカツの行動が宇宙世紀を変えた。そう思っても過言ではないほど、大きな影響を与えた人物がふたりいます。
ひとりは、カミーユ・ビダンです。カミーユもカツに負けないくらいエキセントリックな性格の持ち主でした。しかし、中盤以降は自分を制御できないような突拍子もない行動は少なくなっています。それは、カツの身勝手な行動を目の当りにするようになったからかもしれません。
時期的にウォンからの修正、ニューホンコンでのフォウとの出会いと別れがきっかけだったかもしれませんが、カツへのいら立ちを隠していないところを見ると、反面教師としてとらえていた可能性は大です。
もしもカミーユの成長に大きな影響を与えたのなら、結果的にカツの行動がグリプス戦役の戦局を左右したことになるでしょう。
もうひとりは、クワトロ・バジーナことシャア・アズナブルです。
作中では接点が少ないように思えますが、カツと一緒に宇宙に出る時に以下のようなセリフを父親のハヤトに言っていました。
「父親代わりの経験もいいと思っている 胸がときめく」
ハヤトに対して心配をかけないよう言っている可能性もありますが、シャアがお世辞として心にもない嘘をつくとも考えられません。そう考えると、シャアはこの時点で「父親」というものに対して、それなりに興味があったと考えられます。
この「父親」というキーワード、後年『逆襲のシャア』では以下のようなセリフになっていました。
「そうかクェスは父親を求めていたのか…それで、それを私は迷惑に感じて、クェスをマシーンにしたんだな」
単純に比較できませんが、この時のシャアは父親であることを嫌がっていました。ひょっとしたらグリプス戦役でカツを戦死させたことが、シャアの心にトラウマをもたらしたのかもしれない。そう考えられなくはありませんか……?
だとすると、カツが生き延びていれば父親役に絶望することなく、シャアはクェスにやさしくできたかもしれません。そうすると、連鎖的にハサウェイの行動にも変化が生じて、今年2021年に劇場版が公開予定の『閃光のハサウェイ』に至らなかったかもしれません。
あくまでも筆者の目から見た考証ですが、ガンダムシリーズにかかわる「IF」を考えたとき、ひとりの死が大きく歴史を変えた可能性があるという意味では、カツはもう少し評価されてもいいのではないかと思うのです。
(加々美利治)
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