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押井守監督『攻殻機動隊2.0』がBSで放送、フェイクニュースの時代を予見?

マグミクス / 2021年2月20日 17時10分

押井守監督『攻殻機動隊2.0』がBSで放送、フェイクニュースの時代を予見?

■米国でビデオチャート1位に輝いた、SFアニメの金字塔

 大ヒット公開中の実写映画『花束みたいな恋をした』に、俳優として出演しているアニメ界の巨匠・押井守監督。主人公たち(菅田将暉、有村架純)の恋のキューピッド役を務めています。同作では主人公たちから「神」と崇められる押井監督ですが、そんな押井監督を誰もが巨匠監督と認めた作品が、1995年に日本、米国、英国で同時公開された劇場アニメ『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』でした。

 士郎正宗原作の『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』が大きな注目を集めたのは、実はビデオ化された1996年になってから。米国の業界誌「ビルボード」で、週間ビデオチャートの1位を獲得。この快挙を伝えるニュースによって、日本でも逆輸入的に押井監督のネームバリューは高まることになったのです。

 ジャパニメーションの代名詞ともなった『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』は、さらに最新のデジタル技術によって音響、色彩、一部の映像をリニューアルした『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』(2008年)として生まれ変わりました。2021年2月21日(日)の夜7時からは、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』がBS12で無料放送されます。押井監督の名前を世界中に知らしめた『攻殻機動隊』の魅力に迫ります。

■リアルとフィクションの境界があいまいな未来社会

 舞台となるのは、超高度にネットワーク化された未来社会。人びとは脳神経とインターネットを直接つなぐことができるようになっていました。そこに現われたのが、「人形使い」と呼ばれるサイバーテロリストです。人形使いは電脳化された人間の意識や記憶も自在に操ることができる凄腕ハッカーだったのです。

 公安9課、通称「攻殻機動隊」の草薙素子少佐(CV:田中敦子)、バトー(CV:大塚明夫)ら、体のほとんどがサイボーグ化されている捜査官たちは、人形使いの行方を追うことになります。光学迷彩服に身を包んだ草薙少佐が見せる華麗なアクション、多脚型戦車とのド派手な銃撃戦など、SFアクション映画ならではの見どころが用意されています。

 しかし、『攻殻機動隊』のいちばんの面白さは、その世界観です。高度にネットワーク化された社会には情報があふれ、リアルとフィクションとの境界が実にあいまいです。草薙少佐たちが追う人形使いは国際指名手配犯ですが、その正体は二重三重もの謎に覆われています。外務省や公安の上層部である内務省の思惑も絡み、真相にはなかなか手が届きません。

 また、草薙少佐はサイボーグ捜査官として非常に優秀ですが、その一方では義体化された自分の体は借り物に過ぎないという不安も感じています。情報が多すぎるがゆえに、フェイクニュースに惑わされてしまいがちな現代人の危うさを、押井監督は予見するかのように描いていたのです。

■「唯脳論」に基づいた世界観とは?

スカーレット・ヨハンソン主演により実写化された『ゴースト・イン・ザ・シェル』ポスタービジュアル

 サイボーグ化された捜査官たちが凶悪犯罪に立ち向かうという設定だけでも十分に楽しめる『攻殻機動隊』ですが、そこに押井監督ならではの思想・哲学が織り込まれ、幽玄美を感じさせる独特な世界観のSFアニメとなっています。押井監督の著書『ひとまず、信じない 情報氾濫時代の生き方』(中公新書ラクレ)を読むと、押井監督は「唯脳論」の立場から世界を見つめていることが分かります。

 この「唯脳論」とは何でしょうか? この言葉は解剖学者・養老孟司氏が提唱したもので、都市生活は伝統や文化、社会制度、言葉も含め、すべて脳の産物である、という考え方です。

 押井監督は「唯脳論」の立場から「この世界のすべては、ただ自分の脳が認識した世界に過ぎない」と考え、劇場アニメ版『攻殻機動隊』を生み出したのです。膨大な情報の海を泳ぐ私たちも、脳のなかで生きているようなもの、ということになります。

 脳のなかで生きていると、自分にとって都合のよいニュースしか知覚しなくなっていきます。明らかなフェイクニュースでさえも、その人にとってはリアルなニュースとなってしまうのです。脳のなかでの生活は心地よいかもしれませんが、真実とは何かを忘れてしまいます。

 リアルとフェイクとのボーダーのあやふやさを描いた『攻殻機動隊』は、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)や『機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993年)などを手掛けてきた押井監督のテーマ性がはっきりと打ち出せた作品だったのです。

■国籍に関係なく、更新され続ける『攻殻機動隊』

 虚実皮膜とも言える危うい世界観を『攻殻機動隊』で描き出した押井監督は、多くのクリエイターたちに刺激を与えました。ウォシャウスキー姉妹によるメガヒット作『マトリックス』(1999年)も、「唯脳論」にインスパイアされた作品だと言えるでしょう。押井監督を激賞したジェームズ・キャメロン監督は、その後SF大作『アバター』(2009年)の制作に着手します。

 ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017年)では、草薙少佐役を人気女優スカーレット・ヨハンソンが演じています。ハリウッド実写版は、神山健治監督のブレイク作となったTVアニメシリーズ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」の要素も取り入れていました。さまざまなクリエイターたちの手によって、『攻殻機動隊』はその後もヴァージョンアップを続けています。

 今回の『攻殻機動隊2.0』では、草薙少佐が仕事の合間に海でダイビングするシーンが3DCG化され、とても印象的に描かれています。草薙少佐は海へ潜る心境を「恐れ、不安、孤独、闇、そしてもしかしたら希望……。海面へ浮かび上がるとき、今までと違う自分になるんじゃないか そんな気がするときがある」と相棒であるバトーに打ち明けます。情報の海を毎日のように泳ぐ私たちも、たまにはデジタルツールから離れ、自然のなかに身を置いてみるのもよいかもしれませんね。

(長野辰次)

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