アニメ『オネアミスの翼』がBS放送。庵野秀明、貞本義行ら若き才能が爆発
マグミクス / 2021年2月27日 17時10分
■宮崎駿監督が新人アニメーターたちを後押しした
未知なる宇宙へ向かってロケットが飛び立つ瞬間は、まさに若きクリエイターたちのエネルギーの爆発です。1987年に製作された劇場アニメ『王立宇宙軍 オネアミスの翼』が、BS12にて2021年2月28日(日)19:00から放映されます。2021年3月8日(月)より公開される『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の前に、ぜひ観ておきたい作品です。
本作の監督&脚本は、のちに『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ東京系)を生み出すアニメスタジオ「ガイナックス」の代表取締役も務めた山賀博之氏。助監督は話題の特撮映画『シン・ウルトラマン』の公開を初夏に控える樋口真嗣氏。さらにキャラクターデザインは貞本義行氏、作画監督は庵野秀明氏……と、そうそうたる名前がクレジットされています。
関西のアマチュア映像集団「DAICON FILM」として活動してい山賀氏や庵野氏たちがオリジナルの長編アニメの自主製作に取り組んでいたところ、それを知った宮崎駿監督が後押ししたたことで劇場公開に至った作品です。『オネアミスの翼』を製作するために、「ガイナックス」が設立されました。『オネアミスの翼』なしでは、庵野監督の監督デビュー作『トップをねらえ!』(1988年~1989年)や『エヴァンゲリオン』 は生まれていなかったかもしれません。
スタッフの平均年齢は20代前半。青春のモヤモヤ感も含めて、作品全体に若々しさがみなぎっています。
■女の子にモテたくて、一念発起するぐうたら男
物語の舞台となるのは、もうひとつの地球。主人公のシロツグ(CV:森本レオ)は、落ちこぼれの集まりである「王立宇宙軍」の一員です。戦場に行かなくて済む、お気楽な軍隊生活を仲間たちと送っていました。ぐうたらな日々を過ごしていたシロツグでしたが、街で神の教えを説く少女・リイクニ(CV:弥生みつき)と出逢ったことがきっかけで、人生の歯車が動き始めます。
「地上の争いごとから離れ、誰も行ったことのないような星の世界に行くなんてすごい!」
シロツグが宇宙軍に所属していることを知り、リイクニは興味を示します。彼女にいい格好したいがゆえに、シロツグは人類初となる有人宇宙ロケットのパイロットに志願することに。危険を伴う任務なので、シロツグ以外には志願者はいません。ハードなトレーニングに取り組み、シロツグは一人前の宇宙飛行士へと成長。やる気のなかった仲間たちも、次第に感化されていきます。
坂本龍一氏が初めてアニメ作品の音楽を担当したことは話題となりましたが、スタッフは当時みな無名だったこともあり、劇場公開はヒットには至っていません。でも、異世界ファンタジーとしての完成度はとても高く、新人アニメーターたちだけで作った作品とは思えません。いや、加減を知らない新人アニメーターの集団だったからこそ、これだけ緻密なSFアニメを作り上げることができたとも言えそうです。
■「ガイナックス」設立メンバーの想いを載せた宇宙ロケット
主人公のシロツグと、神に祈り続ける少女リイクニ。画像は「オネアミスの翼‐王立宇宙軍 コンプリーテッドファイル (B-CLUB SPECIAL)」(バンダイ)
圧巻なのは、やはりシロツグが搭乗する宇宙ロケットの発射シーンです。このクライマックスとなるロケットの打ち上げシーンの原画を手掛けたのが、庵野秀明氏です。飛び立つロケットから降り注ぐ氷片の細かな描写など、凄まじいまでの情熱の注ぎ方です。手描きアニメならではの迫力を感じさせます。
もうひとつの地球という設定も、効果的でした。現実世界を舞台に有人ロケットを発射させようとすると、ソ連のユーリイ・ガガーリンが残した逸話、もしくは米国のマーキュリー計画などを模したものになってしまいます。でも、『オネアミスの翼』のスタッフは異世界の地球の物語にすることで、自分たちだけのオリジナルのロケットを飛ばすことに成功したのです。
物語序盤はだらしなかったシロツグですが、宇宙パイロットとしての自覚が芽生え、パリッとした大人へと変わっていきます。ロケット発射の際のトラブルには、的確な判断で現場をまとめてみせます。シロツグの内面の変化は、「ガイナックス」設立メンバーとなったスタッフ一堂の心境とシンクロするものがあったのではないでしょうか。
■多くの宇宙飛行士が感じる「神の存在」
シロツグが想いを寄せる少女・リイクニは家庭に恵まれず、神に祈ることを心の支えにしています。幼い女の子・マナの世話もしている健気なリイクニですが、神への祈りだけでは食べていけないというシビアな一面も描かれています。リイクニがありがちな清純派ヒロインではない点も、従来のSFアニメとは異なるものを目指していたことがうかがえます。
実在する宇宙飛行士たちの多くは、宇宙空間を体験したことで宗教観が変わったと語っています。肉眼で見る地球の美しさ、宇宙の荘厳さに、神の存在を信じるようになるそうです。劇中のシロツグも科学の粋を集めた宇宙ロケットに乗って大気圏を離脱することで、それまでになく神を身近に感じるようになります。
地上で暮らすリイクニが信じる神と、シロツグが祈りを捧げる神は、果たして同じ神なのかはどうかは分かりません。でも、衛星軌道上から地球を見つめるシロツグは、人類の未来に福音が訪れることを祈らずにはいられません。大人になって改めて『オネアミスの翼』を見直すと、以前とは違った感慨が生まれてくるのではないでしょうか。
(長野辰次)
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