集英社のヒットメーカー・林士平さん、新漫画賞「MILLION TAG」で「応援する作家を見つけて」
マグミクス / 2021年3月2日 17時10分
![集英社のヒットメーカー・林士平さん、新漫画賞「MILLION TAG」で「応援する作家を見つけて」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_48153_0-small.jpg)
■「日本一」のマンガアプリを目指すために
マンガアプリ「少年ジャンプ+」が、次世代のスター漫画家を発掘することを目的とした新漫画賞「MILLION TAG」を実施し、2021年6月25日から選考過程をYouTubeで配信します。漫画家と編集者がタッグを組んで課題に挑み、優勝者は賞金500万円を手にするほか、「少年ジャンプ+」での連載やコミックスの発売、アニメ制作(1話分相当をYouTube「ジャンプチャンネル」で配信)が確約されるなど、異例づくしです。
なぜ「MILLION TAG」のような企画が行われることになったのか、また参加予定の編集者たちは企画についてどう考えているのか……? 企画に参加する編集者のひとりで、『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』など多くのヒット作を手掛けた林士平(りん しへい)さんに聞きました。
* * *
──普段は、編集者としてどのような仕事をされているのでしょうか?
林士平(以下、林) 現在は『SPY×FAMILY』(作:遠藤達哉)と『HEART GEAR』(作:タカキツヨシ)という作品を担当しながら『チェンソーマン』(作:藤本タツキ)の第2部に向けた準備をしています。他にも今年開始予定の新規連載作品を数本準備しているのでひたすら電話やメール、LINEなどでネームのやり取りや細かい打ち合わせを重ね続けています。
──かなりお忙しいようですが、その上でさらに「MILLION TAG」に参加した理由は?
林 最近はさまざまなマンガアプリが立ち上がっていますが、そのなかで作家さんに僕らの「ジャンプ+」を選んでもらうために、自分たちがどのように作家に向き合っているのか、どう作家をサポートしているのかを見てもらうことに意味がある……そう考えて参加を決めました。
「ジャンプ+」は今からさらに拡大して日本で一番のマンガアプリを目指そうと思っているのですが、そのためにはより多くの作家さんと作品が必要になります。でも「来てください」と言うだけでは不十分で、作家さんに「まずはここに持っていこうか」と最初に作品を持ち込んでもらえる場所にするためには、僕らも進んで汗をかかなきゃいけないと思うんです。
──日々多くの持ち込み作品に目を通していると思いますが、どのようなポイントに着目しているのでしょうか。
林 難しいですね。編集者によって重視するポイントが「絵が上手い」「ネームが読みやすい」「この台詞はすごい」と、まちまちなんですよ。マンガって、絵が上手くなくてもその人しか作れないキャラや世界観を持っていたら、読んでしまうこともありますし、滅茶苦茶に絵が綺麗なので本を手に取ってもらえる作家さんもいらっしゃいます。
単純に、僕自身マンガが好きで色々読んでいるので、「この人は何かあるぞ」と思ったらとりあえず声をかけています。漫画家と編集者の出会いにはタイミングや運もあるので、僕自身の心に引っかからなかったとしても、どこかで良さを感じられた人には、何かしらアドバイスをすることもありますね。
■漫画家が安心して出演できるよう、編集者が前面に立つ
林さんの担当作品のひとつで、大ヒットした『チェンソーマン』第1巻(集英社)。「このマンガがすごい!2021」(宝島社)のオトコ編で1位に選ばれた大ヒット作。 (C)藤本タツキ/集英社
──「MILLION TAG」では編集者と漫画家が一緒に走りながら優勝を目指すことになりますが、漫画家にとってのメリットとはどのようなものがあるのでしょうか。
林 やはり500万円の賞金と知名度でしょう。動画を通じて人が育っていく過程を見ると、ファンになってくださる方がいると思うんです。もちろん最終的にはマンガでファンを増やして行くしかないんですけど、デビューの時点で注目される確率が上がるのは大きなメリットだと思います。
ただ、肖像権やプライバシーの問題もあると思うので、作家さんは基本的に声や肩越し、手先だけの出演になる予定です。その代わりに自分たち編集者が顔出し出演して、視聴者のご意見を受け止めます。だから作家さんたちには安心して出演して欲しいですし、作家さんたちに余計な心配や不安を抱かせないよう、細心の注意を払ってやっていきたいと思います。
「MILLION TAG」で作家さんにはデビュー作にたどり着いてもらいたいとは思うのですが、勝てなかったとしてもそこで人生が終わるわけではありません。何回でもチャレンジしてもらいたいですし、ここで負けた人が再起していくのも、素敵な物語だと思うんです。
実際、今は漫画家として活躍されている方に、「実は10年ほど前にお会いしています」と言われて驚いたこともあります(話を聞いてみると、16歳ごろに持ち込みに来ていただいたそうです)。「MILLION TAG」が作家を目指すひとつのきっかけになってくれればいいですね。
──最後に、「MILLION TAG」に興味を持つすべての方へのメッセージをお願いします。
林 マンガが生まれる過程をドキュメンタリー映像として見るのは非常に面白い体験になると思うので、気軽に見て欲しいです。若く、まだヒット作を生み出していない作家さんたちがどう振る舞い、どう苦しんでマンガを描いているか知っていただけると、マンガに対する楽しみ方の幅が広がるのではないかと思います。
そして、もしできるなら、応援したい作家さんを見つけてあげて欲しいのです。作家はお客さんがいなければぜんぜんご飯が食べられない商売です。作家という生き物は、ほんの少しでも「面白い」と反応してもらえると、凄くやる気を出せるものなのです。彼らがどう考えてマンガを作っているのか、ぜひ見てあげてください。
(ライター 早川清一朗)
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