TVアニメ『サイボーグ009』第2作は、時代の才能が結集した「宝石箱」だった
マグミクス / 2021年3月6日 10時20分
■「吹きすさぶ風が よく似合う」…忘れられない主題歌
筆者が子供のころは、アニメのオープニングテーマを聞くために放送開始前からTVの前に陣取っていることがよくありました。1979年に放送が開始されたTVアニメ『サイボーグ009』(第2作)は、その代表格と言える作品です。
この曲を歌い上げていたのは、コマーシャルソングを多く手掛けていた故・成田賢氏と、TVアニメ『ドカベン』のオープニングテーマを担当していたコーラスユニットのこおろぎ ’73という組み合わせでした。成田氏は翌年に放送された『電子戦隊デンジマン』のオープニング『ああデンジマン』とエンディングの『デンジマンに任せろ!』でも非常に強い印象を残しており、当時は子供だった方々の心にその歌声は刻み込まれています。残念ながら2018年に肺炎で亡くなられたのが非常に惜しまれる方でした。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
また、オープニングのアニメーションを担当しているのが、独特な演出・作画スタイルで一時代を築き上げたアニメーターの故・金田伊功氏です。このときの金田氏の演出は、冒頭の回転するカラフルな光に始まって、そこから009のアップを背景として使ってから涙を流すシーンへと移行するなど斬新さに満ちあふれ、若き日の金田氏の才気とエネルギーが生み出した時代を超えた傑作だと言えるでしょう。
さて、1979年版の『サイボーグ009』ですが、この作品は1968年に放送されたモノクロ版に続く2回目のアニメ化にあたります。このときのアニメ化に尽力したのが、後に『太陽戦隊サンバルカン』から『超力戦隊オーレンジャー』まで15作連続でスーパー戦隊のプロデュースを手掛けた東宝の名プロデューサー、鈴木武幸氏です。
鈴木氏は1970年代半ばから後半にかけて『がんばれ!!ロボコン』『アクマイザー3』『超神ビビューン』など、石ノ森章太郎氏原作(当時は石森章太郎名義)の特撮作品を手掛けており、その縁で石ノ森氏が原作を描いた『009』のアニメ化を打診、実現にこぎつけたのです。
■石ノ森氏も積極的に参加していた
1979年のアニメでは、若き日の井上和彦氏が主人公・009の声をつとめた。画像は「サイボーグ009 1979 コンパクトBlu‐ray VOL.1」(東映)
このとき石ノ森氏は、打ち合わせに積極的に参加していたそうです。マンガがアニメ化される際、近年は原作に忠実に製作されることが多くなっていますが、当時はアニメ向けのアレンジが行われることが一般的でした。1回目のアニメ化では007が子供として設定されるなど、さまざまな改変が行われており、2回目のアニメ化の際には石ノ森氏から「キャラクターを変えないで欲しい」という要望が出されていたそうです。
鈴木氏自身が「可能な限り原作に忠実なアニメ化を果たしたい」と考えていたこともあり、1979年版のアニメでは、後に『魔法のプリンセス ミンキーモモ』や『魔神英雄伝ワタル』を手掛ける故・芦田豊雄氏がキャラクターデザインを担当し、石ノ森氏も「原作に近く、自分の意図を掴んでくれている」と高い評価をしています。
ストーリー面においては、初期に原作のエッダ(北欧神話)編を元にした「宇宙樹」編が描かれましたが、当時の日本には北欧神話の資料が少なかったこともあり、実際の作品に構想を落とし込むのが難しく、9話で区切りをつけています。その後は「戦士の休暇編」、「ネオ・ブラック・ゴースト編」と続き、1年間の放送を完走しましたが、いずれもメインライターを務めた酒井あきよし氏や第1作にも参加した辻真先氏により、優れた内容に仕上がっています。
もし放送が延長した場合は「ミュートス・サイボーグ編」を制作する構想があり、脚本やラフデザインも進んでいたそうですが、実現しなかったのが残念なところです。
劇中の音楽を担当したのはすぎやまこういち氏。『ドラゴンクエスト』シリーズの音楽を生み出した音楽界の長老です。こうしてみると、40年以上前の作品のため、残念ながら亡くなられた方もいらっしゃいますが、辻氏とすぎやま氏のご両名が現役であることに驚かされます。少年時代、おふたりに多くの楽しみを与えていただいた人間のひとりとして、末永く活躍されることを切に願います。
そして忘れてはならないのが、主人公、島村ジョーこと009の声を担当したのが、いまや押しも押されぬ名声優である、井上和彦氏だということでしょう。
当時若手だった井上氏はTVアニメ『キャンディ・キャンディ』のアンソニー役で脚光を浴びていましたが、アニメでの主役級となると『超合体魔術ロボ ギンガイザー』の白銀ゴローを演じたのみで、009に抜擢されたことは井上氏にとって大きな飛躍になったようです。
こうして簡単に振り返るだけでも、『009』第2作は時代を代表する才能たちが結集して作られた作品であることを、否応なしに思い知らされます。無邪気にTVを眺めていたあの時間に、実は宝石箱を目にしていたのだと、歳を取ってから気づかされることも多いものです。
(早川清一朗)
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