3月8日はエルピー・プルの誕生日。『ガンダムZZ』の路線変更とともに歴史を変えた…?
マグミクス / 2021年3月8日 16時20分
![3月8日はエルピー・プルの誕生日。『ガンダムZZ』の路線変更とともに歴史を変えた…?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_48517_0-small.jpg)
■「オジサンが見て、かわいいという感じでやってくれ」
宇宙世紀0078年3月8日は、『機動戦士ガンダムZZ』に登場したエルピー・プルの誕生日です。ニュータイプのクローン体として量産された「プルシリーズ」の第1号もしくは素体とされており、同作には妹のプルツーが、『機動戦士ガンダムUC』には「プルトゥエルブ」がマリーダ・クルスという名前で登場しています。
『ZZ』の第17話「奪回!コア・トップ」で突如として姿を現したプルは、キュベレイMK- IIを駆りZZガンダム、Zガンダム、ガンダムMK-IIの3機と互角に戦うという鮮烈なデビューを飾ります。
次の第18話「ハマーンの黒い影」からは本格的にストーリーに絡み始めますが、ここで初めてプルの代名詞ともいえるお風呂シーンが登場します。湯船に漬かりながら足をバタバタさせている光景を見る限りでは、無邪気な少女にしか見えません。しかしそんな状態でも「胸がキュンキュンする」と、ジュドーが近づいていることを察知するのはさすがニュータイプといったところでしょうか。
街に飛び出したプルは簡単にジュドーを見つけると、飛びつきしがみつき駄々をこね、リィナの所在を知っていると示唆することでデートに持ち込み、つかの間の楽しい時間を過ごしたのです。
しかし、プルはすぐに意識の調整を施されてしまい、ネオ・ジオンのダカール降下作戦の際にジュドーを敵として認識して交戦することになります。戦闘中に洗脳が溶けたプルはジュドーとともに地球上へと降下し、捕虜として捕らえられてしまいますが、プルは持ち前の天真爛漫な性格と無邪気さを発揮してガンダム・チームの一員として溶け込み、行動をともにするようになりました。
その後のプルは、メガライダーやガンダムMK-IIを駆り戦闘にも参加、もちろん年相応に可愛いところやわがままな姿を縦横無尽に披露し続けます。この一見単純に見えて極めて難しいキャラクターを演じた声優が、2013年に亡くなられた故・本多知恵子さんです。
本多さんは監督の富野由悠季氏から「オジサンが見て、かわいいという感じでやってくれ」と直接言われたことを明かしています。筆者もこの記事を書くために久々にプルの登場回を見直してみましたが、昔感じていたのが妹的な可愛さだとしたら、今はまるで娘を見るような可愛さに変化しており、本多さんは富野氏の要望に完ぺきに応えていたのだと改めて感じさせられました。
■時代の変化の狭間で生まれた『ZZ』
エルピー・プルは作中で主人公・ジュドーへの思いを貫いていた。画像は『機動戦士ガンダムZZ』キービジュアル (C)創通・サンライズ
そんなプルが登場した『ZZ』は、1986年3月1日に放送開始しました。なぜこの作品にプルというキャラクターが必要とされたのか。それを考えていくうちに、『ZZ』を取り巻く時代背景が見えてきたのです。
1986年は日本経済がバブル時代に突入した初期にあたりますが、ガンダムを含むロボットアニメは厳しい状況に置かれていました。1972年に放送が開始された『マジンガーZ』によって巨大化したロボットアニメ産業は、1983年に発売され爆発的な人気を獲得した「ファミリーコンピュータ」に、わずか数年でおもちゃ屋の主役を奪われてしまったのです。
『ZZ』放送前年の1985年には『機動戦士Zガンダム』『蒼き流星SPTレイズナー』『超獣機神ダンクーガ』『忍者戦士飛影』の4作品が放送されていますが、『Zガンダム』以外の3作品はすべて打ち切られました。確認したところ、『レイズナー』はプラモデルの売れ行き不振、『飛影』は後年、『幽遊白書』に登場したキャラクター・飛影の関連グッズとして在庫を処分しようとしたトラブルも報告されており、切迫した状況が伺えます。
このような状況下で『ZZ』にかけられた期待は当然大きかったのですが、『Z』が子供には難しいとされたため、子供向けに路線変更が行われます。しかし『Z』での強敵ヤザン・ゲーブルがギャグキャラと化すなど、あまり評判がよいものではなく、徐々に軌道修正が図られてしまうのです。
プルが登場したのはまさに、ギャグからシリアスへと移行する過渡期のタイミングで、明るく天真爛漫なためギャグでも使え、幼いニュータイプのパイロットとしてシリアスな展開でも十分に存在感を発揮します。後半部分でのプルツーとの戦いなどは、プルのシリアス面を使い切った名シーンと言えるでしょう。
いま振り返れば、プルというキャラクターは毛色の違う『ZZ』の前半と後半をつなぐために必要な存在だったのかもしれません。もしギャグテイストのままストーリーが進行していれば、ガンダムの世界はどうなっていたのか。『ZZ』のシリアスへの回帰があったからこそ、ガンダムは現在まで続いていると考えれば、プルはガンダムの命を現代につなげた、極めて貴重なキャラクターといえるのではないでしょうか。
(ライター 早川清一朗)
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