【追悼】アニメ職人に徹した大塚康生氏 『ルパン三世』に活かされた、異例の経歴
マグミクス / 2021年3月25日 11時50分
■『パンダコパンダ』ほか代表作を追悼放映
アニメーターとして、国産アニメの黎明期から数多くの作品に携わってきた大塚康生さんが、2021年3月15日に亡くなられました。89歳の生涯でした。温厚な人柄で多くの人に慕われ、また大塚さんが手がけたキャラクターたちはユーモラスさがあり、元気いっぱいに動き回る姿で幅広い層のファンを楽しませてきました。
大塚さんが東映動画(現在の東映アニメーション)時代の同僚・小田部羊一氏と共同で作画監督を務めた劇場アニメ『パンダコパンダ』(1972年)、続編『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』(1973年)が、2021年3月25日(木)の20:30からBS12で放送されます。
トムス・エンタテインメントの公式YouTubeチャンネル「TMSアニメ公式チャンネル」では、大塚さんがキャラクターデザイン&作画監督を務めた『ルパン三世』第1シリーズの第1話「ルパンは燃えているか…?!」、『侍ジャイアンツ』の第1話「ほえろ!バンババン」などが配信中です。
大塚さんが初めて作画監督に就いた劇場アニメ『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)は、3月26日(金)20:30から「東映チャンネル」で配信されることが決まっています。
■作家ではなく、職人の道を極めることに
大塚さんは1931年に島根県で生まれ、子供の頃は機関車や軍用車などのスケッチに熱中したそうです。戦後間もない東京に上京するために、厚生省の採用試験を受け、これに合格。麻薬取締官事務所に勤務しますが、公務員としての安定した収入を捨て、東映動画の第1期アニメーターになります。麻薬Gメンからアニメーターに転職した、異色の経歴の持ち主でした。
東映動画時代には、劇場アニメ『少年猿飛佐助』(1959年)や『わんぱく王子の大蛇退治』(1963年)などでダイナミックなアクションシーンやキャラクターのコミカルな動きを披露し、腕利きアニメーターとして評価されるようになっていきます。
東映動画の若手スタッフが集まった『太陽の王子』で、大塚さんは作画監督に抜擢されます。作画監督は、個性の強いアニメーターたちを束ねる重要なポジシションです。後輩である高畑勲氏を演出(監督)に推薦したのは、大塚さんでした。『太陽の王子』はヒットこそしませんでしたが、今では大人も楽しめる冒険ファンタジーの名作として知られています。スタジオジブリのルーツ的作品だと言えるでしょう。
でも、大塚さんは興収的に失敗したことだけでなく、苦い体験を『太陽の王子』で味わいます。初めて演出に挑む高畑氏を創作面で支えることができなかったと、自伝『作画汗まみれ』(文春ジブリ文庫)で振り返っています。このとき、高畑氏を創作面で支えたのが、新人時代に大塚さんが指導した宮崎駿氏でした。宮崎氏の仕事に対するあふれんばかりの情熱と才能を大塚さんは評価する一方、大塚さん自身は「自分は作家ではなく職人」と考えるようになったようです。
■大塚さんの好みが投影された『ルパン三世』第1シリーズ
アニメ『ルパン三世』第1シリーズ。TMS公式YouTubeチャンネルで公開されている。原作:モンキー・パンチ(C)TMS・NTV
東映動画を辞めた大塚さんは、1968年にAプロダクション(現在のシンエイ動画)に入り、モンキー・パンチ氏の人気コミック『ルパン三世』のアニメ化に関わります。長編映画化を狙った『ルパン三世』パイロット版に大塚さんは原画で参加しますが、この企画は頓挫。しかし、人形劇団出身の大隅正秋氏が演出するTVアニメ『ルパン三世』第1シリーズの放映が、1971年からスタート。大塚さんはキャラクターデザインと作画監督を担当することになります。
記念すべき第1話「ルパンは燃えているか…?!」は、カーレース場を舞台にしたテンポのよいアクションものです。車好きな大塚さんの力量が、フル発揮できる題材でした。また、シリーズ当初は年代物の高級車であるベンツSSKに乗っていたルパン三世ですが、シリーズ中盤から参加した宮崎駿氏のアイデアで、イタリアの大衆車フィアット500に変わります。フィアット500は、大塚さんが普段から乗っている愛車でした。
大塚さんの麻薬Gメン時代の体験も活かされます。麻薬取締官事務所に勤めていた頃、携帯する銃の分解整備も行なっていたそうです。その際、大塚さんが扱っていたのがブローニングM1910。女盗賊か女スパイか、謎の女・峰不二子に、この銃を大塚さんは持たせることになります。
こうして見ると、大塚さんならではのユーモラスさのある人物造形やどこか人間味を感じさせるメカ描写などが、『ルパン三世』第1シリーズの大きな魅力となっていたことが分かります。
■商業作品の監督作は、生涯に1本だけ
東映動画を辞めた宮崎氏と高畑氏が『ルパン三世』第1シリーズの中盤から参加し、アニメ史に残る伝説のTVシリーズとなります。さらに『パンダコパンダ』二部作でも、東映動画OBたちはルパンとその仲間たちと同様に抜群のチームワークを発揮します。それぞれがプロフェッショナルな技量を持ち、その上で遊び心を忘れずに生み出した素晴らしい作品です。
その後、大塚さんは、NHK初のオリジナルアニメ『未来少年コナン』の作画監督を務めます。『未来少年コナン』は宮崎氏の監督デビュー作。ここでもふたりは見事なチームワークぶりを見せました。さらに大塚さんはテレコム・アニメーションへと移籍し、宮崎氏の劇場監督デビュー作『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)でも、キャラクターデザイン&作画監督を担当します。もはや円熟の境地です。
ルパンと次元が乗るフィアット500がスクリーンでも大活躍したのは、皆さんもご存知のとおり。『未来少年コナン』のダイス船長と野生児ジムシーとのコミカルなやりとりは、大塚さんにお任せだったそうです。最後の作画監督作となったのは、高畑監督の劇場版『じゃりン子チエ』(1981年)でした。これも人情味あるコメディです。大塚さんが手がけた三枚目的キャラクターたちは、その後のスタジオジブリ作品に大きな影響を与えたのではないでしょうか。
これだけ豊富なキャリアを持ちながらも、大塚さんは商業作品で監督を務めたのは一度きりでした。フジテレビ系「花王名人劇場」の枠で、1981年に放映されたアニメ版『東海道・四谷怪談』だけです。このときは「演出:鈴木一」というペンネームでクレジットされています。
作家としての名声や会社内での出世は望まず、でも現場のアニメーターとして、また後進の指導者として、大塚さんはとても豊かな生涯を送られたように思います。大塚さんのアニメーター魂は、数々の作品の中にきっとこれからも生き続けることでしょう。
(長野辰次)
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