3月26日はアニメ『めぞん一刻』の放送開始日。「本物」を感じさせた永遠のヒロイン
マグミクス / 2021年3月26日 8時20分
■「未亡人」という言葉を初めて知った
35年前の1986年3月26日、TVアニメ『めぞん一刻』が放送開始しました。筆者にとって、未亡人がアニメのヒロインとして成立することを教えてくれたのが、高橋留美子先生による『めぞん一刻』、そして音無響子さんでした。
同じ高橋留美子先生による原作で、1981年から放送されていたアニメ『うる星やつら』が終わり、次回から『めぞん一刻』という番組が放送されると告知されたとき、当時小学生だった筆者は「なんだか絵柄が似ているな」と感じたことを覚えています。今から考えれば作者が同じな上に、アニメのスタッフもかなりの人数がスライドしていたそうなので、当たり前だとは思いますが、まだアニメには原作があることをようやく理解し始めたころの筆者には、そのあたりの事情は分かりません。
5年近く見ていた『うる星』の終了に大きなショックを受けていた筆者でしたが、「何か似た作品が始まるならまあいいかな?」程度に考え、翌週を迎えました。
そして迎えた放送日にまず筆者を迎えてくれたのは、当時人気絶頂のアイドル女優、斉藤由貴さんが歌うオープニングの「悲しみよこんにちは」だったのです。明るい曲調ながらも悲しみを秘めた女性の心を歌い上げる歌詞の素晴らしさに引き込まれた筆者の目の前に現れたのが、「管理人」さんこと永遠のヒロイン、音無響子さんでした。
若くして結婚したもののすぐに夫を亡くし、アパートの管理人としてやってきた、愁いを帯びた清楚な美人。それが最初に管理人さんに抱いた最初のイメージでした。
声を担当した島本須美さんの、澄んだ声を初めて聴いた時の衝撃は忘れようがありません。脳の中に直接、美人ヒロイン成分を注ぎ込まれるような感覚は、思春期の男子にとって、とてつもなく強烈なものでした。もちろんそれまでもさまざまな作品で島本さんの声を聞いてはいたのですが、管理人さん役はあまりにもぴったりと合っていたのです。
実はこの時、筆者はまだ「未亡人」という言葉を知らず、親に意味を教えてもらった記憶があります。最近になって改めて、まだ昭和の時代に未亡人をヒロインに据えると決めた高橋留美子先生の発想のすさまじさに気づかされます。本来であれば成年向けの要素を盛り込み、ラブコメディとして成立させる力量は尋常ではありません。天才とは、常人が気づかない発想を速やかに力強く実行できる存在なのでしょう。
■嫉妬心をむき出しにするヒロイン
「一刻館」の個性的な住人たちのエピソードも、読者を楽しませた。画像は「めぞん一刻 TV シリーズ スペシャルプライス版 Blu-ray」(ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント)
さらに管理人さんは、当初こそ清楚さが前に出ていたものの、主人公の五代裕作くんの目が他の女性に向くと、嫉妬心をむき出しにします。特に『めぞん一刻』の時代はスマホはおろか携帯電話も普及しておらず、五代くんは経済的な理由から固定電話すらなかったので、連絡はすべて管理人さんか一刻館の電話に来ていたのです。女性から五代くんに電話がかかってくるシーンは、見ているこちらも冷や冷やさせられました。
管理人さんがキレる場面は印象深い場面が多く、手にしていた編み物を投げつけたり、ステーキ肉を乱暴に切ったり、パチンコで憂さを晴らしたりと、数々のシーンは今でもよく覚えています。
しかも当人は五代くんの気持ちが自分にあることを知りながら、テニススクールのコーチである三鷹さんとデートを繰り返しているあたりに生々しい女性の匂いを感じるのです。TVアニメのヒロインから本物の女性を感じたのは、筆者にとっては管理人さんが初めてだったのは間違いありません。
また、強烈な個性を持つ一刻館の住人たちも、非常に印象深い存在です。1号室の一ノ瀬さんは、普段はちゃらんぽらんな宴会好きのおばちゃんですが、いざというときは年長者の貫禄を発揮し、管理人さんに助言をするなど影で人間関係を支えています。
4号室の四谷さんは慇懃無礼な態度で五代くんの部屋に入り込み、宴会ばかりしていましたが、時折スーツ姿で出かけてもどこに行くのかは全く分からず、最初から最後まで声を担当した千葉繁さんの怪演が光る、完全な謎の人としての存在を全うしたキャラクターでした。
6号室の六本木朱美さんは、当時アニメを見ている世代がまず見る機会はない水商売の女性で、ベビードール姿で館内を徘徊する姿は非常に刺激的でした。非常にいい加減な人物かと思いきや、管理人さんと五代くんの関係がおかしくなったとみるや、すかさずサポートするなど面倒見のいいところも見せてくれました。
五代のライバルキャラだった三鷹瞬は、お金持ちで一流大学卒、高級車を乗り回して管理人さんをデートに誘うなど、恋愛とも言えない管理人さんと五代くんの関係を引き締めるためのキャラクターとしては、正直五代くんでは太刀打ちできないレベルの力を持っていました。しかし紆余曲折あって管理人さんを諦めた後は、爽やかにふたりの関係を応援するだけの度量を併せ持っていたことも、さらに魅力を深めていたように思えます。もし三鷹が犬恐怖症でなければどうなっていたことか……。
そして忘れてはならないのが、最後のオープニングとなった故・村下孝蔵氏の歌い上げる「陽だまり」です。当時、日本を代表するシンガーソングライターだった村下氏の甘く切なく、胸が締め付けられるような歌声は、本作を締めくくりに素晴らしい花を添えてくれました。
(ライター 早川清一朗)
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