『ちびまる子ちゃん』勇退のキートン山田さん、ナレーション職人への契機「改名」だった
マグミクス / 2021年3月28日 7時10分
■クールな二枚目から凶悪な敵キャラまで…広がる演技の幅
2021年3月28日(日)放送の『ちびまる子ちゃん』で、同番組を卒業することが決まっているキートン山田さんは、国民的アニメである『ちびまる子ちゃん』で長年にわたってナレーションを担当していました。山田さんがこれまでに演じてきたキャラは、みな思い出深いものばかりでした。
もともとはサラリーマンとして就職するため、故郷の北海道から上京してきた山田さん。しかし、演劇の道を目指して劇団に入り、最初はサラリーマンとの「二足のわらじ」だったそうです。この時の芸名は本名と同じ「山田俊司」でした。
後に退職して演劇の道に専念し、その時に先輩俳優である柴田秀勝さんに誘われて、日本初の声優専門プロダクションである青二プロダクションに入ります。
最初は名前のないような端役から始まり、『アパッチ野球軍』(1971年)のオケラ、『デビルマン』(1972年)の東大寺入郎など、子供から老人までさまざまな役を演じていました。当時の作品を見てみると、こんな役まで演じているのか……というキャラの豊富さに驚きです。
そんな山田さんの最初の代表作となったのが、『ゲッターロボ』(1974年)の神隼人でしょう。そのクールな二枚目キャラの演技は、男の子よりも女の子から人気が高かった印象があります。後に演じた『大空魔竜ガイキング』(1976年)のサコン・ゲン、『惑星ロボ ダンガードA』(1977年)のトニー・ハーケンも女性人気が高く、知的でクールなキャラは山田さんのはまり役でした。
しかし、山田さんのスゴいところは、前述のようにさまざまな役を演じられるところ。この3人のキャラと同時に、『ゲッターロボ』ではガレリィ長官、『大空魔竜ガイキング』ではキラー将軍、『惑星ロボ ダンガードA』ではプラグ技術長官という、コテコテの悪役も同時に演じていました。これだけひとつの作品で別のキャラを演じられる人はそうはいません。
ちなみに、『ゲッターロボ』では、自身はじめてのナレーションも兼任しています。
ほかにも、おとぼけ系のキャラである『一休さん』(1975年~1982年)の足利義満こと将軍さま、得意分野となったクールな役どころでは『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976年)の浪花十三や、『サイボーグ009』(1979年)の004ことアルベルト・ハインリヒなど、アニメブーム黎明期を語るうえで忘れられない声優でした。
ところが人生というものは常に順風満帆というわけにはいきません。必ずピンチとチャンスは交互に襲ってくるものです。
このあとの怒涛の展開は……「後半へつづく」。
■改名がきっかけで始まった、ナレーションでの活躍
キートン山田さんの名フレーズ「後半へつづく」のプレートが付属する「ねんどろいど」(グッドスマイルカンパニー) (C)さくらプロダクション/日本アニメーション
実は、山田さんは一時期から急速に声優としての仕事が減り、日雇いの内職をしながら引退も考えていた時期があったそうです。この時、心機一転するために芸名を現在の「キートン山田」へと改名しました。由来は喜劇役者のバスター・キートン、そして「聞いとんのか山田!」という言葉からもじったそうです。
ところが、周囲からは改名が仕事に与える影響を懸念されました。筆者も最初に改名を見たときは違和感をおぼえたくらいです。しかし、この改名がうまくいったのか、その後はふたたび安定した人気を誇るようになりました。本人によると、改名は主にナレーションの仕事をしようと思ったからだそうです。
その思いが引き寄せたのか、1990年に始まった『ちびまる子ちゃん』でナレーションに抜擢されました。その活躍は今さら語る必要がないほど、みなさんもご存じのことでしょう。作品中に「キートン山田」という、そのまんまのキャラが出て演じているほど、全国区の知名度となったのでした。思い切った改名がうまくいったということです。
このナレーション、最初は代役として声を当てたそうですが、その声を聞いた原作者のさくらももこ先生が「この声だ!」と気に入って、正式にナレーション役になったそうです。
ちなみに有名となった「後半へつづく」は、間が開いたことを気になった山田さんが何気なく入れたアドリブでした。本来なら声優のアドリブを一切許さなかったほど厳しいさくら先生でしたが、このセリフは気に入ってOKが出たそうです。
実はこの頃、筆者は山田さんとお会いしたことがありました。あまりのうれしさで舞い上がって、演じたキャラの名前を次々挙げていく筆者に山田さんは……「よくそれだけ知っているね」「キミのようなファンが自分を支えてくれたんだろう」と、おっしゃってくれたことがあります。
心のなかでは、まる子のナレーションのようなツッコミを入れてほしいと思った筆者でしたが(笑)、たいへん優しくて紳士的な方でした。
長年同じ役を演じている役者にはいろんな方がいます。最後までやり遂げることもひとつの道だと思いますが、山田さんのようにまだ余力のあるうちに後進に道を譲ることも立派なこと。今回の報道で「引退」と言われる方がほとんどですが、筆者は「勇退」だと思っています。
力をなくしての引退でなく、まだ力を残しての勇退。ファンとして寂しいですが、山田さんのこれからの人生を応援し、今まで演じてくれた声の数々をこれからも聞いていこうと思います。
※TVアニメ『ちびまる子ちゃん』キートン山田さん最後の出演回「ある春の一日」の巻は、2021年3月28日(日)18:00~18:30 、フジテレビ系列で放送予定です。
(加々美利治)
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