令和に残った「小学一年生」と「8年生」。カオスな誌面も招いた「不変のテーマ」とは
マグミクス / 2021年3月29日 7時10分
![令和に残った「小学一年生」と「8年生」。カオスな誌面も招いた「不変のテーマ」とは](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_50206_0-small.jpg)
■大正時代に創刊! 他の児童向けマンガ雑誌との明確な違いも
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)、『あさりちゃん』(室山まゆみ)あるいは『とっとこハム太郎』(河井リツ子)……誰もが知る国民的マンガが連載されていた雑誌が現在、ほぼ休刊状態であることをご存知でしょうか。
その雑誌とは小学館の“学年別学習雑誌”に他なりません。学年ごとに刊行されていた「小学△年生」シリーズです。100年近く続いてきたこの看板雑誌はぜあいついで休刊となってしまいましたが、その理由のひとつには、同誌ならではのテーマ・特徴がありました。
まず学年誌の歴史を概観していきましょう。1922年に小学館が創設されると同年に、『小学五年生』と『小学六年生』が創刊されます。つまり小学館の歴史はこの学習雑誌とともに始まりました。以降、「一年生」から「六年生」まで全学年誌が刊行されそれぞれ人気を博しますが、大戦中は低学年向けを「良い子の友」、高学年向けを「少國民の友」と統合される憂き目にあいます。
戦後にそれらの学年誌シリーズが復活すると、1973年には全学年合計500万部の発行部数を記録。大正、昭和、平成と、激動の時代を子供たちと一緒に生き抜いてきました。
マンガの連載作品も名作ぞろいです。(「週刊少年サンデー」「コロコロコミック」などと同時掲載されていた作品も多いですが)冒頭に挙げた作品はもとより、『いなかっぺ大将』(川崎のぼる)、『はじめ人間ギャートルズ』(園山俊二)など、今なおマンガ史に燦然と輝く作品たちが学年をまたいで掲載されていたのです。
この「小学△年生」シリーズには、ふたつの大きな特徴がありました。ひとつは「学習雑誌」の要素で、低学年用には計算ドリル、漢字ドリルなどが付属していたこと。また学年が上がるにつれその内容も変化していった点も、他の児童向けマンガ雑誌とは一線を画していました。全体的に漂う“お行儀の良さ”は、買い与える保護者からしても頼もしいものでした。
ふたつ目は「男女共通の総合雑誌」であること。現在においても児童向けマンガ雑誌の多くは男児向け、女児向けとターゲットを区切っていますが、この「小学生シリーズ」はあくまでも区切りは学年ごと。そのため男児向けのバトル要素が強い作品と女児向けのラブコメ作品などが同じ雑誌で連載されていました。
この「男女共通の総合雑誌」という方針が、なんとも不思議な連載布陣を生むというのも魅力のひとつ。例えば、『ないしょのつぼみ』などの作品で知られるやぶうち優先生の作品と、『みこすり半劇場』でおなじみ岩谷テンホー先生の作品が同時期に連載されたり、さらに二次性徴に関する企画記事が同じ号に掲載されたこともありました。
一見、混沌としているようですが、思春期に差しかかった少年少女にとって必要な知識も包括する「学習雑誌」としての機能をしっかり果たしていたとも言えます。ある意味では、雑誌自体が小学校のクラスと相似をなしていたのです。
■「男女共通の総合雑誌」という役割を終える
全学年を対象とした「小学8年生」2021年 4・5 月合併号(小学館)
さて「男女共通の総合雑誌」という役割を果たしてきた学年誌ですが、年々と発行部数が減少していきます。2010年には「小学五年生」と「小学六年生」、2012年には「小学三年生」と「小学四年生」、2016年には「小学二年生」が休刊。現在は「小学一年生」と全学年対応の「小学8年生」のみの刊行となっています。
休刊理由はさまざまですが、やはり少子化の影響は大きいと考えられます。弟(妹)が兄(姉)の学年誌を読み、少しだけ大人になった気分に浸るといった貴重な経験もできたのが学年別システムの画期的なところでしたが、少子化が進めばそれも叶いません。さらに、Webの時代に至ってニーズが“急激に”細分化した昨今、「男女共通の総合雑誌」という企画自体を維持していくことが難しくなっていったというのが現状のようです。
とはいえ、暗いニュースばかりではありません。生き残った「小学一年生」はコロナ禍において売り上げを伸ばし、「ピッカピカの1年生」のCMソングも復活し絶好調です。また新規参入の「小学8年生」も、毎号の付録や攻めた企画で注目を集めています。
なお、同シリーズのもうひとつの特徴なのですが、本稿を読めばお分かりの通り、学習雑誌、学年誌、小学生シリーズと、呼称がなかなか安定しない点も、また奥ゆかしい限りです。もうすぐ小学館も100周年。「ピカピカの1年生」だった元・少年少女たちとともに、記念すべき日を迎えたいものです。
(片野)
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