半世紀前の昭和46年は「特撮黄金時代」の始まりだった。同じ時間枠で競い合った番組も…
マグミクス / 2021年4月3日 9時30分
■「意外なヒーロー」から幕を開けた黄金時代
今年2021年から半世紀前となる昭和46年(1971年)は、後にテレビ特撮ヒーローたちが活躍することになる時代のはじまり、すなわち黎明期です。それはまさに「特撮ヒーロー黄金時代」の幕開けでした。
まずは時代背景を説明しましょう。「第一次怪獣ブーム」は一般的には『ウルトラセブン』(1967年)を最後に幕を閉じたと言われています。その後、怪獣と近い存在だった妖怪が中心の「妖怪ブーム」、それと同時に海外作品の影響もあって「スパイもの」がブームの兆しを見せ、それを経て子供たちの興味はスポーツ根性ものに移りました。いわゆる「スポ根ブーム」です。
しかし、子供たちの怪獣への興味がなくなったわけではありません。映画で定期的にゴジラシリーズが製作されていたことからもわかります。一時期ほどではないにしても、怪獣関連グッズはセールスを続けていましたし、再放送も比較的多く行われていました。
そんな時、ウルトラシリーズの再編集作品である『ウルトラファイト』(1970年)が、ふたたび怪獣ブームに火をつけます。この放送をきっかけに怪獣ソフビ人形の売れ行きが急増したことで、玩具会社ブルマァクは円谷プロとTBSに新番組制作を依頼しました。
このような背景があって時は昭和46年と移ったのですが、最初に子供たちの前に現れたヒーローは、まったく別の作品だったのです。その特撮黄金時代の輝かしい第一作は、『マグマ大使』(1966年)を制作したピー・プロダクションの作品、1月2日から放送された『宇宙猿人ゴリ』でした。それはまったくの偶然で、前番組が突然の打ち切りによる制作決定で、第1話放送まで1か月も時間がなかったといいます。
『マグマ大使』が『ウルトラマン』(1966年)より13日前に放送したことで「日本初のカラー放送された特撮番組」という栄冠を得たように、またしてもピープロとフジテレビは、円谷プロとTBSに先んじて動いたのでした。
ヒーローでなく悪役の名前をタイトルにし、当時の社会問題であった「公害」を題材にした斬新な作品でしたが、そこを嫌ったスポンサーからの抗議で路線変更を強いられてしまいます。それによりタイトルは『宇宙猿人ゴリ対スペクトルマン』に変わり、最終的には『スペクトルマン』となりました。
しかし、それまでにない独自色の強い作品は、すぐに子供たちから注目されて人気を得ます。裏番組はスポ根ものの代表作『巨人の星』(1968~1971年)。ところが、番組開始して3か月ほどの第15話で高視聴率を誇っていた『巨人の星』を視聴率で追い抜き、スポ根ブームにとって代わる勢いを見せました。
そして4月に入り、伝説的な作品でありシリーズである、ふたつの番組が始まります。
■特撮ヒーロー同士の切磋琢磨が歴史を紡いでいく
昭和46年秋に放送開始した『シルバー仮面』。画像は「放送開始45周年記念企画 甦るヒーローライブラリー 第24集 シルバー仮面 Blu-ray Vol.1」(TCエンタテインメント)
同年4月2日放送開始の『帰ってきたウルトラマン』、4月3日放送開始の『仮面ライダー』、この2作品がブームをけん引します。その過熱ぶりは当時の子供なら誰もが体験したことでしょう。ウルトラマンと仮面ライダー、現在もシリーズとして切磋琢磨する二大ヒーローがはじめて邂逅(かいこう)したのが昭和46年のことだったのです。
そして季節は秋、ふたつの特撮番組が今度は同じ時間帯で競い合うということになりました。11月28日に放送開始した『シルバー仮面』と、12月5日に放送が始まった『ミラーマン』です。
このふたつの番組が競い合うことになったのは、日曜19時からの30分枠。かつてウルトラシリーズが放送されていた時間帯でした。かたやウルトラシリーズが放送されていたTBSの『シルバー仮面』、かたや円谷プロ製作の『ミラーマン』という同門対決は、視聴率争いをするテレビ局にはよかったのでしょうが、録画機器が普及していない当時の子供には迷惑な話です。翌日の学校では、それぞれの番組を見た子供たち同士が自慢しあう光景がよく見られたと聞きました。
そして、ヒーローではありませんが、もうひとつ意欲的な作品が生まれています。10月3日から放送された『好き! すき!! 魔女先生』です。東映不思議コメディシリーズの始祖とも呼べる存在で、後半から登場するアンドロ仮面はバトルヒロインものの元祖といっても過言ではないでしょう。少なくとも当時の子供たちにとっては、前述したヒーローたちと同様の感覚で見ていた作品でした。
このブームを受け、年末には歴史的な書籍も発売されます。ひとつは講談社の「テレビマガジン」。『仮面ライダー』をメインに、写真やイラスト中心で構成された誌面は子供たちから絶大的な評価を得ました。その代わり、これまで特撮番組のグラビア特集などを組んでいた「少年マガジン」は、この雑誌ごとの年齢層の明確化によってマンガ中心の雑誌へと変わっていきます。
もうひとつは勁文社(ケイブンシャ)の「原色怪獣怪人大百科」。ポスター状の紙面を八つ折りにして、怪獣怪人をカラーでひとつずつ紹介する形式の書籍です。すべての怪獣怪人が全部見ることができる構成が子供には好評でした。毎年、新しく登場した怪獣怪人が加えられ、やがて豆本サイズの「全怪獣怪人大百科」へとリニューアルされます。この本が昭和の子供たちがよく読んでいた「大百科シリーズ」の元祖でした。
このように半世紀前の昭和46年に生まれた作品たちが、その後の特撮ヒーローの歴史に大きな影響を与えたことは明白です。この当時に作られた作品には言葉だけでは言い尽くせない、熱い魂のようなものが込められていたと筆者は感じています。
(加々美利治)
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