影が薄い、ヘタレ…不憫な『ドラクエ』魔王3選 強さは印象に比例しないのか
マグミクス / 2021年4月17日 7時10分
■“前座”だった魔王と”前座”に喰われた魔王
「世界の半分をやる」と主人公を甘い言葉で誘惑するりゅうおうに、絶対的なカリスマ性を持った大魔王ゾーマ。「ドラゴンクエスト」(以下、ドラクエ)シリーズにおいて「魔王」は、主人公と対峙する運命にある悪の花形です。物語の核を担う彼らは、劇中で世界を脅かす存在である一方、どのシリーズにおいてもプレイヤーをワクワクさせる魅力を持っています。
新しいタイトルが発売されるたび、「今作の魔王はどんな容姿をしているのか」「物語の結末にどんな決戦を迎えるのか」、血を滾(たぎ)らせコントローラーを握っていたプレイヤーも多いことでしょう。……とはいえ、歴代シリーズの魔王を並べると、他タイトルに比べると影が薄い魔王や、少し”ヘタレ”な印象を残してしまった魔王も存在します。
まず、ファミコン用ソフト『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』(以下、ドラクエII)に登場するハーゴン。いえ、悪の親玉として描かれていることから、本記事では「魔王」とまとめてしまっていますが、魔王を名乗るラスボスはファミコン用ソフト『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』のバラモスが最初です。正確には『ドラクエII』のラスボス、ハーゴンは「邪教の大神官」の設定。そしてこの設定こそハーゴンの影を薄くしている要因です。
『ドラクエII』の冒険の目的は、厄災の元凶であるハーゴン討伐にあるのですが、彼の本懐は、自らを生贄にしてまでも”真のラスボス”、邪神シドーを復活させることにあります。つまり、ハーゴンはストーリーの核であるものの、プレイヤーに”前座”としてのイメージを強く植え付ける存在になってしまっているのです。
見た目のインパクトも、人型のハーゴンと比較すると、6本の腕に翼を生やすシドーの方に邪悪さが際立ちます。また、会話の選択肢次第では、丁寧に自己紹介をしてから戦闘に入る振る舞いなども、ハーゴンの威厳を損ねている理由のひとつでしょう。
それとは逆に、”前座”に食われてしまっている魔王も存在します。スーパーファミコン用ソフト『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』(以下、ドラクエV)のミルドラースです。ミルドラース自体は至って“正統派な魔王”として君臨しているのですが……存在感が薄くなってしまった原因は、彼の部下、ゲマの残忍さにあります。
『ドラクエV』は、大河ドラマを思わせるような、親子3代にわたる壮大なストーリーが高い評価を集める作品です。その物語の序盤、幼い主人公を人質にとって、主人公の父、パパスをいたぶって殺す敵こそがゲマ。目を覆いたくなるほどの痛ましいシーンが描かれます。シリーズでも指折りの”トラウマ”イベントをキッカケとして、プレイヤーは宿敵に自ずとゲマを意識してしまいます。物語終盤で魔王が登場したところで、どうしたって霞んで見えてしまうのです。
ミルドラースは正統派な魔王であったがゆえに、自身を上回る残虐性を見せた部下に存在感を薄くされてしまった、とも言えるでしょう。
■相手が悪かった…強いのに”ヘタレ”なイメージを残した魔王
ダークドレアム、デスタムーア戦はファン必見のイベント 画像はニンテンドーDS版『ドラゴンクエストVI 幻の大地』(スクウェア・エニックス)
最後にご紹介するのはスーパーファミコン用ソフト『ドラゴンクエストVI 幻の大地』(以下、ドラクエVI)に登場する大魔王デスタムーアです。創造した「はざまの世界」から魔王ムドーをはじめとする部下に命を下し、現実と夢の世界に所在する重要拠点を潰していく……念入りな世界征服を遂行するデスタムーアは魔王としての素質に申し分がありません。
狡猾な上、自身の強さも十分であるにもかかわらず、彼がプレイヤーに”ヘタレ”な印象を強く残した理由は、ある「イベント」にあります。それは『ドラクエVI』の隠しボス、”破壊と殺戮の神”ダークドレアムとデスタムーアの戦闘イベントです。
ダークドレアムを一定のターン数以内に倒すと、主人公の望み「デスタムーア撃破」を引き受けるイベントが発生します。ダークドレアムの驚異的な強さは、デスタムーアを圧倒。大魔王の面目を丸潰れにする完全試合が描かれてしまうのです。
猛攻を仕掛けるデスタムーアを物ともせず、戦闘中”すずしげ”に”笑う”余裕すら見せるダークドレアムは、一通りの攻撃をいなした後、「遊びは終わり」と言い放ち、一方的に戦いを終わらせてしまいます。
戦闘中、2回も形態変化をする強靭なデスタムーアがアッサリと破られる驚愕と、ダークドレアムの痛快な魔法攻撃のラッシュが味わえる戦闘シーンはファン必見のイベントとしても有名です。
世界征服の野望を達成する能力を持っていたにもかかわらず、イベント中、悪あがきを繰り返すデスタムーアは、その最後の汚点ばかりが強調される、少し”不憫”にすら思える魔王でもあります。
(ふみくん)
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