『ドラクエ』だけじゃない、すぎやまこういち氏の仕事 “ゲーム音楽”を創った歴史
マグミクス / 2021年4月22日 15時40分
![『ドラクエ』だけじゃない、すぎやまこういち氏の仕事 “ゲーム音楽”を創った歴史](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_52200_0-small.jpg)
■すぎやまこういちが携わったゲームタイトルだけで、マルチな才能を確認できる
2021年4月11日に90歳を迎えた作曲家、すぎやまこういち氏に『ドラゴンクエスト』(以下、ドラクエ)のイメージを持つ方は多いはず。特にシリーズに共通するオープニングテーマでもある『序曲』は、実際に『ドラクエ』をプレイしたことがなくても、誰しもが一度は耳にしたことがあるほど有名な楽曲です。
しかしながら、すぎやまこういち氏の仕事は『ドラクエ』だけではありません。この記事では、すぎやまこういち氏の携わった作品と手掛けた楽曲の一部から、その類稀なる才能を振り返っていきます。
まず、すぎやまこういち氏が携わったゲーム作品でご紹介したいのは、スーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』と、その続編『不思議のダンジョン2 風来のシレン』です。
特筆すべきは、両者ともターン制の戦闘が敷かれたローグライクゲーム、「不思議ダンジョン」シリーズであるものの、その世界観はまるで別物であることです。前者は、ファミコン用ソフト『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』に登場した武器商人トルネコの後日談ということもあり、『ドラクエ』に通じる西洋風な世界観を持っていますが、後者の世界観は和風。根幹のゲームシステムこそ共通していますが、世界観を演出する楽曲の作風にも変更が加えられたことより、両者はプレイヤーに異なった印象を与えることになりました。
次にご紹介したいのは、1992年に発売されたスーパーファミコン用ソフト『半熟英雄~あぁ、世界よ半熟なれ…!』です。ギャグ色の強いゲームタイトルの楽曲を担当していること自体、提供する作品の毛色を問わない、多面的な才能を確認することができますが……本作が「ファイナルファンタジー」(以下、FF)シリーズを手掛けてきた、スクウェア(当時)から発売されていることも注目したい点です。
今でこそスクウェア・エニックスとなった両社ですが、1992年のスクウェアとエニックスはライバル関係にありました。つまり、”「ドラクエ」の作曲家”は“「FF」の会社”の作品にも音楽を提供していたことになります。
とは言え、ゲームタイトルごとに作風を変え、ゲーム会社の垣根を飛び越えることは、すぎやまこういち氏の前では大きな問題ではないのかもしれません。歴史を紐解いていくと、ゲーム作品への楽曲提供に至るまでの間、すぎやまこういち氏は日本の音楽シーンを支え続けてきた存在であることが分かるからです。
■「ドラクエ」の作曲家…ではなく、「ゲーム音楽」というジャンル自体の先駆者
『風来のシレン』はゲームシステム上、同じBGMを繰り返し聴く機会も多い(画像:スパイク・チュンソフト)
そもそも、すぎやまこういち氏のキャリアの出発点は作曲家ではなく、ラジオ局の放送ディレクター。番組製作に携わる傍ら、自身の演出するテレビ番組『ザ・ヒットパレード』のテーマソングやCMソングを手がけ、本格的に作曲活動に専念するようになるのは1960年代後半。これは、ファミコン用ソフトの初代『ドラクエ』が発売される1986年より20年近くも前のことです。
1960年代の日本では、英国のバンド「ザ・ビートルズ」に影響された若者たちが、次々とロックグループを結成しており、そのブームは「グループ・サウンズ(GS)」と呼ばれていました。
人気グループのひとつに沢田研二氏がボーカルを務める「ザ・タイガース」があり、このバンドの名付け親、楽曲提供を行っていた人物こそ、すぎやまこういち氏です。「ヴィレッジ・シンガーズ」に提供した『亜麻色の髪の乙女』が、島谷ひとみ氏のカバーでリバイバルヒットしたことをご存知の方も多いのではないでしょうか。
ロックグループのみならず、1960年当時に絶大な人気を誇っていた姉妹ユニット、「ザ・ピーナッツ」へ楽曲提供を行っていたことからも、日本の1960年代の音楽シーンを支えていた立役者のひとりであることが分かります。
1970年代に入ると、活動の幅は更に広がります。『帰ってきたウルトラマン』の主題歌や『科学忍者隊ガッチャマンII』『サイボーグ009』『伝説巨神イデオン』など、今も愛され続けるヒーローアニメや特撮作品への楽曲提供も行うようになるからです。
そして、数々の偉業の後に担当した作品こそが『ドラクエ』です。
すぎやまこういち氏は『ドラクエ』の楽曲を担当した時点で、既に媒体を問わず、マルチな天才ぶりを発揮する有名作曲家としてのキャリアを確立させていました。
「ゲーム音楽が社会に認められ、とてもうれしい」とは、2020年10月28日、すぎやまこういち氏が文化功労者に選ばれた際のコメント。文中で「ゲーム会社の垣根を飛び越えることは大きな問題ではない」と表現した理由は、すぎやまこういち氏が創ったのは『ドラクエ』の音楽にとどまらず、「ゲーム音楽」ジャンルそのものでもあるからです。
(ふみくん)
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