今週の金ローで『るろうに剣心』放送。人気マンガの実写化が成功した要因は?
マグミクス / 2021年4月29日 16時50分
■10年間に及んだ人気シリーズが完結
和月伸宏氏の人気コミック『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』は、佐藤健さん主演作『るろうに剣心』(2012年)として実写映画化され、興収30億円を超えるヒット作となりました。第1作のヒットを受け、『るろうに剣心 京都大火編』『るろうに剣心 伝説の最期編』(2014年)が連続公開され、日本だけでなくアジア各国でも人気を博しました。
2021年4月24日からはシリーズ最新作『るろうに剣心 最終章 The Final』が劇場公開され、さらに6月4日(金)にはシリーズ完結編となる『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の公開が予定されています。
記念すべきシリーズ第1作『るろうに剣心』は、4月30日(金)の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)にて6年ぶりにTV放映されます。人気コミックゆえに、実写化が発表された当初は多くの原作ファンから不安視する声も出ましたが、完成した実写版はファンの予想をいい意味で裏切ってみせました。実写版「るろうに剣心」シリーズが、大成功した要因を探ります。
■原作ファンも驚いた、斬新なアクションシーン
明治時代を舞台にした『るろうに剣心』を実写化したのは、元NHKディレクターの大友啓史監督です。大友監督はNHK在籍時に福山雅治さんが主演した大河ドラマ『龍馬伝』のチーフ演出を務め、大河ドラマ史に残る人気作にしました。動乱の幕末を描いた『龍馬伝』で、「人斬り以蔵」を演じたのが若手時代の佐藤健さんでした。人斬りとしての過去を引きずる剣心役に、佐藤さんはぴったりでした。
それまでの時代劇はスローテンポの作品が多かったのですが、大友監督が手掛けた実写映画『るろうに剣心』はテンポがよく、とりわけアクションシーンは驚くほどスピーディでした。剣心役の佐藤さんは、クランクインの4か月前からアクションシーンの特訓とリハーサルに取り組み、撮影が始まってからも3か月間のトレーニングを続けました。敵役の綾野剛さんも、2か月以上のトレーニングを積んだそうです。人気俳優たちがスタントを使わずにアクションシーンに挑むことで、スクリーンに大変な臨場感がもたらされました。
第1作で大きな話題となったのは、剣心が斜め走りで地面を駆け抜け、群がる敵をなぎ倒すシーンです。このシーンは佐藤さんがスパイク付きの地下足袋をはくことで、実現可能となったそうです。また「るろうに剣心」シリーズでは度々、剣心が壁を蹴って跳ぶシーンがありますが、これにもちょっとした秘密がありました。スクリーンでは分からないように、壁にゆるい傾斜がつけてあり、駆け上がりやすくなっていたそうです。とはいえCGは極力使わない、生身のアクションならではのスリリングさが観客にも伝わったことは間違いないでしょう。
NHK時代にハリウッド留学を経験していた大友監督は、エンタメ作品におけるアクションパートの重要性をよく理解していました。それまでの日本映画にはなかった斬新かつスピーディなアクションの数々によって、実写版『るろうに剣心』は原作ファンも取り込むことに成功したのです。『るろ剣』は日本のエンタメ界に新しい夜明けを招いた、と言っても過言ではありません。
■スクリーンからあふれる熱気は、ガチから生まれた
大友監督が「るろうに剣心」シリーズのアクション監督に起用した、谷垣健治氏の功績も大きなものがありました。谷垣氏は香港映画界でスタント修行を積み、「宇宙最強の男」と呼ばれる現役アクションスターであるドニー・イェンの右腕的存在となっています。ワイヤーアクションをはじめ、香港映画界などで培ってきたノウハウがふんだんに「るろうに剣心」シリーズには注ぎ込まれています。
日本の俳優が香港のアクション映画に出演すると、みんな戸惑うそうです。日本の映画やドラマの格闘シーンは「寸止め」が基本となっていますが、香港映画では力は加減されているものの、実際に当ててくるからです。『るろうに剣心』では、佐藤さんは「ラバー刀」と呼ばれる模擬刀を使いました。ラバー素材なので、鋭い打ち込みが可能だったのです。剣心に集団で襲いかかる敵は、プロのスタントマンたちです。経験豊富なスタントマンたちを相手にすることで、佐藤さんは躊躇することなく全力で「逆刃刀」を振るうことができたのです。
第1作のハイライトは、悪徳商人・武田観柳(香川照之)の用心棒に雇われた外印(綾野剛)と、剣心との対決シーンです。アクションシーンはスタントマンの方が慣れているわけですが、役への入れ込み方や感情表現は俳優の方が上です。外印と剣心の戦いは、わずか2日間だけの撮影だったそうですが、人気俳優同士のアクションへのこだわりがぶつかり合った熱いものに仕上がっています。
■『るろ剣』が広く愛され続ける理由
元新撰組・斎藤一役の江口洋介さん、喧嘩が大好きな相楽左之助役の青木崇高さん、活人剣を理念とする神谷道場を守る神谷薫役の武井咲さん、色っぽい女医・高荷恵役の蒼井優さんらに加え、シリーズ第2作『るろうに剣心 京都大火編』からは土屋太鳳さん、神木隆之介さんらも参加することになります。原作のイメージを壊さない、人気キャストたちの配役も成功した要因でしょう。
大ヒットした理由をもうひとつ挙げるとすれば、『るろうに剣心』が描いた時代背景も関係しているように思います。長く続いた武家社会から新しい世の中を迎えた明治時代は、社会の変化についていけずに闇落ちしてしまう人も大勢いました。戊辰戦争や西南戦争では、多くの命が失われています。
現代の日本も、高度経済成長の基盤となった終身雇用制度が崩れ、先の読めない流動的な時代となっています。幕末期には人斬りとして恐れられた抜刀斎こと剣心ですが、新しい時代になってからは決して人を殺めないことを誓い、前向きに生きようとしています。剣心の一途さに薫や左之助たちは惹かれ、剣心を支えようとします。そんな剣心と仲間たちが紡ぐハートウォーミングな物語に、令和時代を生きる私たちも魅了されているのではないでしょうか。
(長野辰次)
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