毒親から逃げて「自分のために生きる」までを描いたマンガ。中学生に「酒を飲め」と…
マグミクス / 2021年5月21日 17時10分
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■離脱のきっかけは、自分が「虐待されている」と気づくこと
もしも、夜眠れない時に中学生が両親から「眠れないなら酒を飲みなさい」と強要されたら……? 幼少期から、両親に心理的虐待を受けていた尾添椿(おぞえ・つばき)さんが自らの体験を描くコミックエッセイ『生きるために毒親から逃げました。』(イースト・プレス)が話題を呼んでいます。
作者の椿さんは幼少期から、いわゆる「毒親」である両親のもとで育ってきました。自分が虐待を受けていることにすら気づかず、傷ついた心と体を癒す方法もわからずに悩みながら生きていく様子、そして、ひとつひとつ手続をふんで「毒親」と縁を切るまでの出来事が赤裸々に描かれています。
主人公の椿さんは幼少期から受けていた心理的虐待により、食事中に話せなくなるという「場面緘黙(かんもく)」になったり、感情を押し殺している反動で他人を傷つけたり、ハゲができるほど髪の毛をぬいてしまったり(抜毛症)と、さまざまな症状があらわれます。
また、両親が欲しいものを買うためのお金はくれるのに、肝心なところで守ってくれないなど、さまざまな出来事からストレスの限界を感じ、心療内科で薬をもらうことに。ところが、両親に薬を捨てられ「眠れないなら酒を飲みなさい」と強要されます。子供の気持ちを分かろうとしない両親のもとで、椿さんの精神が崩壊していく過程がリアルに描かれていきます。
椿さんは、時には子供の命までをも脅かし、家に縛り付けようとする親から逃げることを決意し、実行に移します。虐待から離脱するきっかけになったのは、まず自分が「虐待されている」と気づくこと。次に、「虐待から逃げる」と決心する勇気、そして具体的な「手続き」を知ることです。
同書では、現在の日本で可能な限り「毒親」と縁を切り、連れ戻されないための手続き(分籍、住民票の閲覧制限など)が、すぐ行動に移せるよう具体的に紹介されています。「毒親」の被害に遭っている人だけでなく、親族や近しい人からの被害で悩んでいる人にとっても、非常に参考になる内容です。
同書を読んでいて救われるのは、椿さん自身に素敵な人びととの出会いがあり、椿さんの心に寄り添い味方になってくれることです。いま自分が悩んでいる「苦しい世界」が全てではなく、理解しあえる素敵な人と出会い、新しい人生を歩むことができる可能性もあるんだ……と知ることは、現在苦しい状況にいる人にとって、一歩踏み出す勇気につながるでしょう。
椿さんが出会った、臨床心理士さんの「親の期待のために生まれたんじゃない。あなたは一人の人間なの」という言葉により、初めて自分が欲しかった言葉が他人から与えられ、離脱を決心するシーンがとても印象的です。椿さんは同書の出版にあたって、「毒親育ちの人や、家族のことで悩んでいる人の力になれたら嬉しいです」と語っています。
厚生労働省によると、児童虐待は「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」の4種に分類されていますが、厚労省の調査では近年、「身体的虐待」「性的虐待」などをはるかにこえて「心理的虐待」のケースが最も多く、被害に遭った子供の大部分が小学校入学前であるとの結果が出ています。
親の虐待に抵抗するのが難しい幼少期の子供が自身の被害に気づいて離脱するためには、周りの人の理解や手助けが重要です。同書は作者の壮絶な体験を通じて、いま起こっている児童虐待の実態と、私たちが傷ついている子供にできることについて知るきっかけとなるでしょう。
(川崎晴代)
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