アニメ『シャーマンキング』9話、道蓮の心境の変化は、予め予定されていた…?
マグミクス / 2021年5月28日 7時10分
■道家の使命を飲み込んだ、蓮の壮大な野望とは
TVアニメ『シャーマンキング』第9話は、シャーマンファイトの予選最終戦、葉と道蓮の戦いでした。ヨミの穴での修行を終えた葉は、大きな変化を遂げたオーバーソウルで蓮に挑み接戦を繰り広げ、その結果、両者引き分けで勝ち抜けとなりました。引き分けと言っても、蓮は自分で敗北を認めていたので実質的には葉の勝利と言えるでしょう!
しかし今回重要だったのは、勝負の行方よりも、蓮の生い立ちと心境の変化が描かれた点だったと思います。前回の最後で、尊大な振る舞いで破壊を繰り返す蓮の目的や、実家である道家に反抗心を持っていることがわかりましたが、その意味が明らかにされました。
道家は太古の時代、”巫(ふ)”と”道(タオ)”を用いて民を導き、大陸を治めていました。ところがその力を恐れた者たちによって追いやられ、以来”悪”として闇の世界で生きることを強いられてきた不遇の一族です。このことは原作マンガや、スピンオフ作品『SHAMAN KING レッドクリムゾン』(講談社)などでも詳しく描かれています。
その道家の次期頭首として期待されている蓮に課せられた使命は、道家を追いやった民衆への復讐と家の再興です。しかし、蓮が考えていることはスケールが違いました。一族が掲げる復讐という悲願を、「醜い」と一蹴しています。復讐を果たして再興しても、復讐された者たちから新たな恨みを買い、負の感情が連鎖するだけだと考えています。
そのため彼は、そのような連鎖がない世界を創るためにシャーマンキングになろうとしていたのです。荒唐無稽に聞こえる野望でも、シャーマンキングになれば叶うと信じているのですね。
さて、この蓮の考えには大きな説得力があります。しかし一方で矛盾を感じないでしょうか? 蓮が言っていることを素直に解釈すると「やったらやり返される、だからやるな」ということですよね。にもかかわらず蓮の言動は、相手を力でねじ伏せて自分の正しさを上から押しつけています。負の連鎖が生まれる一番マズいやり方ではないですか……。
実はそこには理由があり、それが明かされているのが今回の9話でした。端的に言うと、蓮はそういう方法しか知らなかったのです。これについて掘り下げていきましょう。
■蓮の背中に描かれた「調和」への示唆
葉は蓮の猛攻に何度も追い詰められるが、少しずつ蓮の内面に影響を与えていく。アニメ『シャーマンキング』第9話より
蓮が受けた教育は、全てを壊し奪い、最後に自分が立っている……という考え方です。成長し、それをおかしいと感じても、代わりのやり方は知りません。ですから結局は、道家がやろうとしているのと同じ「相手がやり返す気を無くするまで壊す、奪う」という方法をとってしまうのです。この時点での道家と蓮との違いは、最後に立っているのが道家なのか、それとも道家すらも破壊した蓮なのか、ということだけです。
ところが、麻倉葉と出会ったことで心境に変化が生まれました。風か水のように全てを受け流してしまう葉を相手にして、これまでのやり方が通用しないと実感したんですね。しかしどうしようもなかった彼は、徹底的に力をつけることで弱点をカバーしようと考えました。
が、今回の試合でそれが葉に通じないことを認めざるを得なくなり、信念に揺らぎが生じてしまいました。加えて、自分にはないものを持ち、蓮を受け止めると言った葉に対して、無意識に心を許したということもあるでしょう。これらの要因によって、データ的には完全に上回っていたはずの蓮が、事実上の敗北を喫したと言えるのです。
さて、この展開は、格別の強さを持つ孤高の戦士が、これまでと異なる価値観を得たことで(一時的に)弱くなるという、他作品にも見られる展開のひとつと言えますが、蓮の場合、これは始めから予定されていたものだったと考えることもできます。
彼の背中には、太極図と言って陰陽道などで目にする文様が描かれています。この図には「宇宙はふたつの相反する性質が両方存在し、調和することによって成り立っている」という意味があります。
そうなると、生い立ちのせいとはいえ、力を求めるあまりそれ以外を切り捨てトンガってしまっていた蓮が、この文様を背負っているのは作品の構造的に変ですよね?
つまり深読みすると、蓮はどこかでバランスの偏りによる問題に直面し、やがて調和した人間性を持つだろう……とか、蓮と葉は陰陽を構成する要素として調和するだろう……といったことが、予め示唆されていたと言えると思うのです。
さて、果たして蓮はそのようなキャラになり得るのか? 敗北を潔く認めるほど心境が変化した蓮がこれから先どうするのか? ここから先の蓮の成長にも注目して、楽しんでいきたいですね!
それでは今回はこの辺で。また次回よろしくお願いします!
(C)武井宏之・講談社/SHAMAN KING Project.・テレビ東京
(タシロハヤト)
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