復活した『キン肉マン』が熱く支持される理由。「友情パワー」は現代に即して変化…?
マグミクス / 2021年6月1日 17時10分
■新シリーズでも重要な役割を果たしている「友情パワー」
皆さんもご存じのことと思いますが、『キン肉マン』は一度完結しております。最初の連載期間は1979年から1987年。コミックスは36巻。二度もTVアニメになり、劇場版アニメも7本製作されていました。キン肉マンの消しゴム人形、通称「キンケシ」も子供たちに大人気で、キン肉マンブームが巻き起こります。その後、続編である『キン肉マンII世』が1997年に発表され、この作品もTVアニメになっていました。
※本記事には、『キン肉マン』ストーリーの核心に関わる記述が含まれますのでご注意下さい。
この『キン肉マン』の新作が発表されたのが2011年のこと。そして連載は今なお続き、コミックスは続刊として74巻となりました。すなわち、最初のキン肉マンブーム時の連載期間もコミックスの巻数も追い越してしまったということです。もはや「第二次キン肉マンブーム」と言っても過言ではないでしょう。
この人気を支えているのは、かつてのファンを中心とした層で、当時の熱気そのままで『キン肉マン』を応援しています。
しかし、なぜここまで『キン肉マン』は盛り上がっているのでしょうか? 大変失礼な言い方ですが、かつて人気のあった作品が復活するという展開は少なくありません。ところが、その多くが以前ほどの人気を得ることができず自然消滅していきました。『キン肉マン』のように、前作と同じかそれ以上の数字を出すことはあまり例がありません。
この不思議な現象の答え。それこそが、新たに連載を開始した『キン肉マン』が提示している「友情パワー」です。
前シリーズ「王位争奪戦」の後、キン肉星の大王となったキン肉マン。戦いのなかで友情をはぐくんだことで悪魔超人、完璧超人と三属性不可侵条約を締結します。しかし、これを不服とした完璧超人の本隊である「完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)」が、条約の撤回と正義超人の殲滅のために襲来してきました。こうして始まった新たな戦いのなか、悪魔超人も独自の動きを見せ、正義超人と違う価値観で完璧超人と戦います。
この戦いのなか、口では否定するものの悪魔超人たちが仲間に見せる行動は正義超人の友情そのものですし、友情パワーを駆逐しようとする完璧超人たちが見せる行動もまた、友情としか思えない行動でした。
そう、新しく始まった本シリーズは、それぞれの陣営が独自の理念に基づいた友情パワーを見せていたとしか思えない展開だったのです。
■変わらぬはずの「友情パワー」が時代に合わせて変化?
本シリーズで明かされた衝撃の事実……それは、「火事場のクソ力」と「友情パワー」は同じものだったということです。そして、キン肉マンが友情パワーを超人界に広め拡散していることを脅威に思い、キン肉マンとその影響を受けた超人を抹殺するというのが、完璧超人の真の目的でした。
この友情パワーは、作中では慈悲の心とも、使命感とも語られています。つまり、思いの強さなのではないでしょうか? ……筆者はそう感じました。
すべての戦いが終結した時、キン肉マンは次のように語ります。
「もしかしたら…この世に絶対的な正義などないのかもしれん」(中略)
「だって我々だけじゃない」「あんたら完璧超人も悪魔超人もそれぞれの言い分に理があった」
「今回の闘いに関していえば誰にも悪意は一切なかった」「誰も間違ってはいなかった」
大王となったキン肉マンだから言えたセリフであり、闘うことでお互いの心を理解するからこそ、この結論に至ったのだと思います。
筆者は、これを友情パワーの「多様性」だと思いました。相手が異なる信念を持っていても、ぶつかり合うことでお互いの譲れないものを理解して打開点をさぐる。闘いでは単純に強い者が勝つという形に見えますが、決してそうではなく「心」の強い者が勝つ。その心の源こそが「火事場のクソ力」だと。
本シリーズでは、これまでの「善と悪」という単純なカテゴリーではなく、「意見の異なる者同士の闘い」という図式で成り立っています。そこには相手に対するリスペクトの気持ち、イデオロギーの対立といった、現代人がかかえる問題を読み解くヒントが隠されているのではないでしょうか。
そして相手を思いやることのできる友情パワーの「多様性」。かつて夢中になった『キン肉マン』で現代社会に起きる諸問題を読み解くことができるのです。これこそが、今という時代に復活した『キン肉マン』の人気が、かつてのように盛り上がる要因なのかもしれません。
もちろん、これは筆者が深読みしているだけであって、やはり往年のファンが興奮する展開が見られることが一番の注目ポイントです。往年の謎だった伏線回収や、以前に登場した超人が復活して活躍するなど、『キン肉マン』ファンなら見たかった名場面がてんこ盛り。なつかしの超人募集のコーナーも毎週ありますので、かつて応募して採用されなかった人とってはチャンスです。
もしも、かつてのファンでまだ新シリーズを読んだことないの人がいたら、ぜひ読むことをおススメしたいです。新時代を生きる超人たちの行動から、きっと学べることがあるでしょう。
(加々美利治)
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