『閃光のハサウェイ』原作小説からの改変 アムロからハサウェイへの言葉
マグミクス / 2021年6月14日 18時10分
■元々はアムロのセリフではなかった「身構えている時には…」
2021年6月11日から公開中の劇場版『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(以下、閃光のハサウェイ)。2021年3月に配信された「予告2」を見て、アムロ・レイが登場し「身構えている時には、死神は来ないものだ。ハサウェイ」と主人公であるハサウェイに語りかけたことに驚いたガンダムファンは多かったでしょう。もちろん、筆者もそのなかのひとりです。富野由悠季氏が執筆した原作小説にはアムロの出番は存在せず、ハサウェイがアムロとシャアの意志と理想を継ごうとして苦悩する姿が描かれています。そのためアムロの登場は予想されておらず、旧来からのファンにとってはうれしいサプライズとなりました。
ただし、このときアムロが語ったセリフの元となる文章は原作小説に登場しています。平成元年に出版された旧版『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(上)では274ページに書かれている「身構えている時には、死神は来ない。それも戦場の摂理なのだ。」という地の文がそれにあたります。文脈を読み取ると、死に直面したハサウェイが自らを鼓舞する心理描写だと思えますが、深読みすれば富野氏の心情を描いているようにも見える、非常に印象深い文章です。ハサウェイの心なのか、それとも富野氏の言葉なのか。その判断を飛び越えて、おそらくは既に生死を超越した存在となったアムロに語らせたところに脚本としての凄みを感じます。
またこのセリフ、実は劇場化前にもゲーム作品で既に使用されています。対戦ゲームである「機動戦士ガンダム vs.」シリーズでは、ハサウェイことマフティ・ナビーユ・エリンの僚機が『新機動戦記ガンダムW』のガンダムデスサイズヘルだった場合、戦闘開始時に「身構えている時に、死神は来ないものさ」というセリフが流れます。それだけ『閃光のハサウェイ』を代表する、印象深いセリフとして長い間認知され続けていたということでしょう。なお、敵機がデスサイズヘルだった場合は「まだ死神に用はないよ」というセリフが流れます。おごり高ぶった上流階級を粛正し、地球に住まうすべての人を宇宙へと送り出すまでは、まだ死ねないという覚悟を示しているのかもしれません。
■劇場版『閃光のハサウェイ』本編でのハサウェイ
さて、劇場版『閃光のハサウェイ』は筆者も鑑賞しましたが、作中で幾度も見られたのがマフティとしての理想とハサウェイとしての感情が矛盾するという光景でした。作中でのハサウェイは25歳で大人としての立ち居振る舞いを心がけようとしている青年です。しかし感情が出てくるシーンでは劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』でクェス・パラヤを目の前で失い、チェーン・アギを殺してしまった14歳の頃のハサウェイに引き戻されてしまったかのように、身動きができなくなるシーンがたびたび見受けられたのです。
しばしば、人は14歳で見聞きしたものに魂を囚われると言われます。そのような多感な時期にモビルスーツで出撃し、恋した少女を眼前で失ったのです。ハサウェイがその後、おとなしく生きることなど不可能なのは当然なのでしょう。
今回の劇場版が制作される以前から、ゲーム「スーパーロボット大戦」シリーズや「SDガンダム GGENERATION」シリーズなどにはハサウェイ(マフティ)が登場しています。それぞれのシリーズで『逆襲のシャア』と原作小説を元にしたハサウェイ&マフティ像が構築されており、主に戦闘時のわずかなセリフに、ゲーム開発者たちが解釈したキャラクター性が載せられ続けてきました。そのなかでしばしば見られるのが、シャアの行動は否定しながらも、理想には共感する。しかしクェスを雑に扱ったことへは怒りを見せるというものでした。
ガンダム作品は、「最新の映像で公開されたものが公式設定である」という不文律が存在していると言われています。劇場版『閃光のハサウェイ』は全3部作であることが発表されており、あと2部が残されています。果たしてかつてゲームで解釈されたようなシャアへの気持ちを表明するときが来るのか。そのとき表に出るのはハサウェイなのか、マフティなのか。非常に興味をそそられる部分です。
(ライター 早川清一朗)
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