『シン・ウルトラマン』でも注目、家族写真にまで影響与える「実相寺アングル」とは?
マグミクス / 2021年6月15日 18時10分
![『シン・ウルトラマン』でも注目、家族写真にまで影響与える「実相寺アングル」とは?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_56074_0-small.jpg)
■干されたTBS社員が、円谷プロと出会う
庵野秀明氏の作品が話題になるたびに、SNSでは“実相寺アングル”という言葉が飛び交います。実相寺昭雄という監督が用いた演出技法を指す言葉ですが、実相寺監督は分かりやすいところでいうと『ウルトラマン』『ウルトラセブン』などの円谷作品の監督を務め、その悪夢的とも言われる技法から1960年代の少年少女に(良くも悪くも)多大なる影響を与えた巨匠です。
実相寺アングルという語に厳密な定義があるわけではありませんが、特徴としてよく挙げられるのが、極端な「なめ」、つまり遮へい物越しに人物を撮ることや、画面を傾けた極端な構図などです。
幸いにも先人たちの仔細な研究、考証、インタビューにより、多くの先行資料が存在しています。今回はこうした資料をもとに“実相寺アングル”ひいては実相寺昭雄監督の演出方法に迫ります。作品を手に取るきっかけづくりができれば幸いです。
●外務省からTBSに……才能を持て余していた若手時代
実相寺昭雄氏は1937年東京都生まれ、旧「満州」で育ち、早稲田大学在学中に国家公務員試験に合格し外務省に勤務します。その後ラジオ東京、現在のTBSに入社します。あれだけの「悪夢」を世に放ち続けた芸術的天才が、官僚の道を進まんとしていたのは、森鴎外など明治の文豪たちにも通じるところがあります(とはいえ、外務省時代に役人を笑い飛ばすコメディ台本を書いていたとか)。
さて、TBSでのテレビ関連の初仕事は御成婚パレードの「人除け」だったという実相寺監督ですが、時代劇などのADを経て25歳で大島渚氏を脚本に迎えたドラマ『おかあさん』の演出を担当します。また大晦日の歌謡ショーでは美空ひばりを超ミニマムサイズで撮ったり、画面いっぱいのドアップで撮ったりと、斬新すぎる演出を披露。先鋭的ではありましたが世間の評価は散々でした。
そこへ、TBS演出部の先輩であり円谷英二氏の長男・円谷一監督に声をかけられ、実相寺氏は社外出向監督として円谷プロに出入りするようになります。実相寺氏はフジテレビの入社試験には落ちており、もしフジテレビに入社していたら円谷プロと関わることはなかったかもしれません。
●実相寺アングルを堪能できる初期ウルトラ作品
局内で持て余していた実相寺監督の才能は、出向先の円谷プロでいかんなく発揮されます。具体的な“実相寺アングル”の例をみていきましょう。『ウルトラマン』第35話「怪獣墓場」。科特隊の通信機器に囲まれた作戦室で仏式による怪獣供養が行われるというキテレツなシーンでも“実相寺アングル”が大活躍します。怪獣たちにお経をあげるお坊さんたちを、祭壇の裏から撮影するのです。奇妙なシーンに奇妙な撮影方法を用いることで夢現の境界が曖昧となります。
また、実相寺監督が手がけた円谷作品のなかでもとりわけ有名なのが、『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」でしょう。メトロン星人とモロボシ・ダンがちゃぶ台を挟んで対話するシーンは媒体を問わず何度も取り上げられています。
もともとの台本はマンションの一室だったのに、監督の意向で「畳にちゃぶ台」という演出になったそうです。もちろん、メトロン星人越しのモロボシ・ダンなど、実相寺アングルも堪能できます。演出した本人も笑いが止まらなかったらしく、「スタート!」の掛け声は助監督にお願いしたそうです。
●2021年 インスタグラムで「実相寺アングル」を検索すると?
『ウルトラマンマックス』で、実相寺氏が監督をつとめた第22話「胡蝶の夢」が収録された「ウルトラマンマックス(6)」DVD(バンダイビジュアル)
円谷作品以外にも『帝都物語』などの大作映画を手がけ、また当時14歳の薬師丸ひろ子を起用した資生堂のCMではカンヌ国際広告祭で金賞を受賞、オペラ『魔笛』の演出を手掛けるなど、実相寺監督は2006年にこの世を去るまで八面六臂の活躍を続けました。
そして現在、試しにインスタグラムで「実相寺アングル」で検索してみると、子供たちを実相寺アングルで撮った家族写真の投稿が見られます。多くのクリエイターに影響を与えただけでなく、一般家庭にまで浸透している実相寺アングル……ただただ畏敬です。
なお、実相寺監督自身は『ウルトラマンマックス』の担当回で携帯電話に夢中になる現代人を痛烈に批判しています。没後15年が経過しても、実相寺監督のシニカルな目線が私たちに向けられているような気もします。
(片野)
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