アニメ『シャーマンキング』12話、道家に訪れた転機…「タオ」とは?
マグミクス / 2021年6月18日 8時10分
![アニメ『シャーマンキング』12話、道家に訪れた転機…「タオ」とは?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_56235_0-small.jpg)
■中国・道家編の終幕! そこで語られた「タオ」とは?
2021年6月10日放送のTVアニメ『シャーマンキング』11話と、昨日6月17日放送の12話では、中国・道家編として、蓮だけでなく道家の長きに渡る歴史の転機が描かれました。
蓮は過去と決別しようと、故郷である中国・道家に向かいます。人を殺しすぎた彼がその罪を背負いながら新しい道を歩むためには、殺人マシーンへと教育した父との決別が必要だったからです。
圧倒的な父の力の前に、為す術無く捕らえられてしまうものの、「なんとかなる」を信じた蓮は葉たちに助けられ反撃に出る……というのが前回11話の流れでした。
ところで監禁中、蓮は馬孫がいなかったことに気付いていたはずで、どこに行ったかも見当がついていたと思われます。ですから「なんとかなる」という言葉には根拠があったんだろうな……というのが筆者の解釈です。
本連載で筆者は、常々「なんとかなる」は「人事を尽くして天命を待つ」と同じ意味だと述べてきたのですが、今回もそうだっただろうと思います。蓮が馬孫に命じたわけではないにしろ、馬孫は蓮の想いをくんで行動したと考えるのが自然です。つまり、蓮はあの状況で最善を尽くしたのです。
そう考えると「俺は、あいつの言葉を心から信じている」というセリフ……それは「きっと馬孫は葉のもとにたどり着き、そして葉は助けに来てくれるはずだ」という意味にも受け取れます。とても重くて格好いいセリフでしたが、このように考えるとどこか微笑ましいですね。蓮はいい奴だと思います!
さて、そこで葉と合流してからの12話ですが、今回は「道(タオ)」というものの解釈を掘り下げてみたいと思います。
そのためにまず基本的な知識を簡単に説明すると、「道(タオ)」というのは中国三大宗教のひとつ「道教(どうきょう)」に由来する言葉です。蓮の背中に刻まれた陰陽の印も道教の一要素です。
道教がどうやって生まれたかは明確にわかっていません。当初は不老不死になりたい、食糧、財産が欲しいといった、民衆の夢を叶えるための教えでしたが、インドから伝来した仏教の普及に対抗するため、さまざまな考え方を取り入れ変化していったとされています。そして偉大な人の生きざまや考え方(これらの総称が”道”です)を説くのが「道教」とされるようになりました。
説かれた人はそれをもとに自分なりの道を探求し続けます。その時間を確保するために、不老不死の仙人になることが理想とされているのです。
■道教に基づく道家の思想、そして蓮が至った境地とは
蓮の父・道円と戦う、蓮と葉たち一行。アニメ『シャーマンキング』12話より
さて、蓮の実家・道家は太古の時代、その名が示すとおり「タオ」を人びとに説く役割を持っていた一族であり、その手段としてシャーマン能力を駆使していたと考えられます。祖父・道珍の言葉のなかに「正義や悪は、歴史や立場が変われば反対の意味になる」「光と闇、美と醜のようにどちらかだけがあるものでもない」「大切なのは表裏一体を受け入れる心を持ち、バランスを保つこと」というものがありますが、これらはそのまま陰陽の考え方にある「陰陽転化(いんようてんか)」と「陰陽互根(いんようごこん)」のことを指していると言えるでしょう。
これは中立的・客観的に物事を見た時に生まれる言葉です。しかし、復讐心ばかり先走った父・道円はこの客観性を失い、恨みに染まった考えこそが自分の「道」だと決めてしまったのです。彼には同情もできますが、結局、一方的なものの見方が根底にあるうちは大局を見据えることはできないと言われてしまったのですね。
ただ、長い道家の歴史では、円の考え方の方が主流だったのでしょう。だからこそ2000年も表舞台に復帰できなかったと考えられます。珍は先進的だったために、円はその思想に従わず先人にならった……と考えれば、さまざまなつじつまが合います。
ですから、珍は円の問題に早くから気づいていたはずです。ただ自分で自覚しなければ無意味だと考えていたと同時に、蓮の反発心の正体にも気づいていたと思われ、いずれ父子の衝突が起き、蓮が父を超えるのを確信して時を待っていた……そんな気がします。
なお蓮が到達した「我不迷(われまよわず)」という言葉ですが、これも道教にある「現世利益の追求」に通じるものと考えられます。
蓮は「全て自分の意思で決め、その道を歩む」「人に裏切られようが自分で決めた道」だと断言し、その後に「我不迷」と宣言します。「現世利益の追求」とは、仏教などが「死後、もしくは来世」で幸福になると説くのに対して、「今生きているこの人生で幸福を追求する」という考えです。
蓮の生い立ちを思い出してください。彼が自分で決めた道を歩めることは、幸福以外のなにものでもないと思いませんか?
ちなみに原作では、この場面のセリフが少し多く、同じく道教の思想にある「無為自然(むいしぜん)」の意味も含まれていると思われる一節があります。道家は蓮も含め、考え方に「道」が息づいた設定になっているのです!
それでは今回はこの辺で。また次回よろしくお願いします!
(C)武井宏之・講談社/SHAMAN KING Project.・テレビ東京
(タシロハヤト)
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