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アニメだから描けた世界…北朝鮮収容所が舞台の『トゥルーノース』と、『映画大好きポンポさん』

マグミクス / 2021年6月20日 16時50分

アニメだから描けた世界…北朝鮮収容所が舞台の『トゥルーノース』と、『映画大好きポンポさん』

■悪夢のようだが、隣国に実在する世界

 3Dアニメと聞くと、ディズニー映画のようなロマンチックなファンタジー作品を思い浮かべる人が多いかもしれません。でも、2021年6月4日より劇場公開が始まった日本とインドネシアとの合作映画『トゥルーノース』は、“ロマンチックなファンタジー”とは真逆な世界が3Dアニメーションで描かれ、大きな話題を呼んでいます。

 清水ハン栄治監督の監督デビュー作となる『トゥルーノース』の舞台は、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に今もある「強制収容所」です。およそ12万人が収容され、強制労働などに従事しており、そのなかには日本人拉致被害者らも含まれていると言われています。

 北朝鮮側は「強制収容所」の存在を否定していますが、清水監督は収容所体験を持つ脱北者や元看守らを取材し、収容所の知られざる内情を克明に再現しています。拷問や処刑が平然と行なわれる、悪夢のような世界が描かれており、観客自身が収容所内の様子を目撃してしまったかのような衝撃を覚える作品となっています。

■3Dアニメで描いたことのメリット

 物語の始まりは、1995年。9歳になる少年ヨハンは、翻訳家として働く父親ヨンジン、優しい母親ユリ、まだ幼い妹ミヒの4人で、北朝鮮の首都・ピョンヤンで幸せに暮らしていました。ところが、「在日朝鮮人帰国者」だったヨンジンは政治犯として、いきなり逮捕されてしまいます。日本と密通しているスパイだと断定されたのです。ヨハンたち家族も「連座制」によって、強制収容所送りとなってしまうのでした。

 収容所内では父親に再会できないまま、厳しい重労働が待っていました。しかも、1日に与えられる食べ物は300グラム程度のトウモロコシのみ。栄養失調で亡くなる人が続出します。脱走を試みた者は、容赦なく処刑されることに。絶望しか感じられない世界で、ヨハンは母親と妹を守ろうと懸命に立ち回ります。

「実写で描くとホラー映画になってしまう」という理由から、清水監督はアニメーション表現を使って、収容所の内情をディテールたっぷりに描いています。登場キャラクターたちには3Dアニメにありがちなポリゴンっぽさが残っていますが、むしろポリゴンっぽいことでリアルになりすぎず、観客のショックを和らげる効果をもたらしています。

■ふたつの意味を持つ『トゥルーノース』

映画『トゥルーノース』の一部シーン

「北朝鮮の強制収容所には興味がない」と思う人がいるかもしれません。でも、清水監督はそんな人も惹き付ける力強い人間ドラマへと、『トゥルーノース』を仕上げています。ヨハンは父親のことを恨みます。父親のせいで、自分たちは罪もないのに強制収容所送りになってしまったと。9年の歳月が流れ、タフな若者に成長したヨハンは、他の収容者たちを犠牲にしてまでも、自分たち家族だけは生き残ろうとします。生々しい人間のエゴを、本作はえぐり出してみせます。

 そんなヨハンのことを、他者をいたわることを決して忘れない母親のユリは、「誰が正しいとか間違っているとかではなく、何になりたいかを自分に問いなさい」と優しくさとすのでした。他の誰かのことを憎んだり、うらやんでいる限りは、その人の人生はずっとそこで止まったままです。何も始まりません。どんなに厳しい状況でも、自分の進むべき道を見失ってはいけない。母親ユリのキャラを通して、本作は観客にやんわりと語りかけてきます。

 清水監督によると、『トゥルーノース』にはふたつの意味があるそうです。ひとつは「ニュースでは報道されない北朝鮮の現実」という意味、そしてもうひとつは「絶対的な羅針盤」という意味です。強制収容所という究極の閉鎖状況、まったく自由のない世界において、ヨハンは「生きる意味」を求めて懸命にサバイバルすることになるのです。日本にあっても今の生活に不自由さを感じている人に、ぜひ観てほしいエンタメ作品になっています。

■観客を驚かせる『ポンポさん』の意外性

『映画大好きポンポさん』キービジュアル

 もう1本、『トゥルーノース』と同じ6月4日より公開が始まった『映画大好きポンポさん』も、非常に興味深い劇場アニメです。こちらは3Dアニメではありませんが、かわいらしい少女キャラクターを使って映画製作の内情をとてもディープに描いています。

 映画プロデューサーのポンポさん(年齢不詳)、そのアシスタントを務めるジーン、新人女優のナタリーらの視線を通し、映画製作の醍醐味、なかでも一見すると地味な作業である「編集」によって、映画は傑作にも凡作にもなってしまうことが熱く描かれています。単に映画愛を語るだけでなく、プロとして物づくりに関わる者たちの矜恃、映画制作を通したラブストーリーも紡がれていきます。上映時間94分のなかに、かなり濃い情報が込められています。

 北朝鮮における絶対的タブーである強制収容所を題材にした『トゥルーノース』、映画製作のマニアックな、でも大切な本質を描いた『映画大好きポンポさん』、どちらもアニメーション表現だからこそ可能だった作品だと言えるでしょう。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)が世界興収500億円を突破したように、アニメーションは国境に関係なく、幅広い人たちが気軽に親しめる魅力的な表現スタイルです。日本国内で公開中の『トゥルーノース』と『映画大好きポンポさん』は、ともにアニメーション表現の新しい可能性の扉を開いた作品として、長く記憶されることになるのではないでしょうか。

●『トゥルーノース』
監督・脚本・プロデューサー/清水ハン栄治 音楽/マシュー・ワイルダー
配給/東映ビデオ TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
(c)2020 sumimasen

●『映画大好きポンポさん』
原作/杉谷庄吾【人間プラモ】 監督・脚本/平野隆之
配給/角川ANIMATION  EJアニメシアター新宿ほか全国公開中
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

(長野辰次)

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