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『聖闘士星矢』アニメ独自の「アスガルド編」成功の理由。背景に「早すぎるアニメ化」?

マグミクス / 2021年6月29日 17時10分

『聖闘士星矢』アニメ独自の「アスガルド編」成功の理由。背景に「早すぎるアニメ化」?

■オリジナルキャラも次々と登場

 マンガ原作のアニメ作品でたびたび話題にされるのが「原作にないアニメオリジナル展開」です。これにはさまざまな事情がありますが、それが名エピソードを生んだこともありました。今回は例として『聖闘士星矢』のアニメについて振り返ります。

『聖闘士星矢』が「週刊少年ジャンプ」(以下ジャンプ)で連載を開始したのは1986年1・2号のことです。この当時のジャンプは連載作品の6割ほどがアニメ化しているという群雄割拠状態。本作は徐々にそのなかに埋もれ、巻末に近い位置が定番となってしまいます。

 しかし、この事態に起死回生の一打が放たれました。それが、コミックス1巻の発売前という異例の速さでの「アニメ化」です。連載開始から半年程度しか経たない作品でしたが、ジャンプと関係の深い東映動画(現在の東映アニメーション)が、スポンサーとなるバンダイとともにアニメ企画を連載開始直後から動かしていました。

 このアニメ化決定以降、マンガの人気も急上昇します。物語はちょうど「白銀聖闘士編」に入ったところでした。この後の『聖闘士星矢』ブームの到来は説明が要らないほど大きなものです。オモチャの主力商品だった「聖闘士聖衣大系」の大ヒット、男子だけでなく熱狂的な女性ファンの増加など、まさに歴史的な出来事でした。

 ただし、この大ヒットの裏にいくつかの問題もありました。

 その最大の問題が、原作のストックがないこと。異例の早さでアニメ化されたため、区切りの付いているシリーズは暗黒聖闘士編まで、それを通常の速度でアニメ化すると1クール(13話・3か月)程度でマンガに追いついてしまいます。

 もともと、星矢がヨットハウスで暮らし、自身の育った星の子学園によく顔を出すなど、原作を補完する形でオリジナル要素が多かったこともあり、アニメでは早い段階からオリジナルストーリーを導入しました。そして何人かのアニメオリジナルキャラが登場します。

 そのなかでもっとも有名なのは、やはり教皇アーレスでしょう。敵である聖域(サンクチュアリ)を明確な悪と位置付けるために設定したキャラです。アーレス登場以降、聖域では過激なシゴキ訓練の場面が挿入されたり、「アーレス様万歳」と言って世界各地でテロ行為が行われたりと、往年の悪の組織のような描写が加わりました。

 このアーレスは、原作での双子座のサガにあたるわけですが、つじつま合わせとして本来の教皇シオンの弟という設定になっています。本物のアーレスはアテナ降臨前にサガに殺され、そこから入れ替わっていたと小説では語られていました。

 アーレスはオモチャのキャンペーン商品になるなど、人気だけでなく知名度もあったと思います。

■苦肉の策だったが名作となった「アスガルド編」

ふたたびアスガルドを舞台として描かれた『聖闘士星矢 黄金魂 -soul of gold- 1』DVD(バンダイビジュアル)

 アニメオリジナルキャラのなかでは、世界観としては異彩を放っていましたが、やはり「鋼鉄(スチール)聖闘士」の3人は忘れられません。スカイクロス翔、ランドクロス大地、マリンクロス潮の3人は白銀聖闘士編を中心に活躍していました。

 グラード財団の科学力で作られた鋼鉄聖衣を身にまとっているという設定のオモチャ先行のキャラですが、初期には星矢たちのパワーアップ聖衣という方向も考えられていました。後に製作されたアニメ版の続編『聖闘士星矢Ω』では、鋼鉄聖衣の性能が高すぎて装着者への負担と反動が大きく、やむなく戦線離脱したという設定が語られています。

 アニメオリジナルキャラでもっとも原作とのつじつま合わせが難しかったのが水晶(クリスタル)聖闘士でした。なぜならば氷河の師匠という設定だからです。後にマンガで水瓶座のカミュという氷河の師匠が登場し、アニメとは大きな矛盾が生じてしまいました。

 最終的にカミュを水晶聖闘士の師匠という形に変更、「師匠の師匠といえば師匠も同然」という理由で、カミュも水晶聖闘士も氷河の師匠ということになります。

 この事態に関して、マンガを描いていた車田正美先生は「原作をアニメオリジナルエピソードに合わせることを敢えて行わない」と言っていました。

 水晶聖闘士はアニメオリジナルキャラのなかでも人気が高く、2007年に雑誌の全員プレゼントという形で聖衣が雪の結晶に変化するというギミックを加えてオモチャが限定販売されています。

 この他にも、カシオスの兄であるドクラテス、シャイナの妹分で幽霊(ゴースト)聖闘士のリーダーのガイスト、紫龍の兄弟弟子の王虎、シャカの弟子である孔雀座(パーヴォ)のシヴァと蓮座(ロータス)のアゴラなど、原作キャラの関係者であるアニメオリジナルキャラが登場し、原作に追いつきそうな状況を引き延ばしました。

 しかし、単発の引き延ばしでは限界があります。そこで切りのいい番組改編期に合わせ、4月からアニメオリジナルの新シリーズを開始するという決定がなされました。それが「北欧アスガルド編」。これは原作の持つ世界観を壊さないようにするため、ギリシア神話以外でアニメ独自の方向性を模索した結果です。

 しかし、マンガがその時期に合わせられるかは未知数。実際にマンガで聖域十二宮編が終わったのは1988年14号でした。アニメより先に終わったので勘違いする方もいると思いますが、マンガをアニメ化するには数か月はかかります。つまり3月いっぱいでアニメ版聖域十二宮編を完結させるには、途中からアニメオリジナル展開で終結させるしかありません。

 アニメ版聖域十二宮編の最終展開がマンガと違ったのは、そういう理由があったからです。

 このアニメスタッフの努力により、アスガルド編はマンガに劣らない高評価を得ました。後に黄金聖闘士12人をメインにした配信アニメ『聖闘士星矢 黄金魂 -soul of gold-』で、ふたたびアスガルドを舞台にしたことからもわかります。

 さまざまな事情からアニメオリジナル展開が多かった『聖闘士星矢』ですが、原作マンガになかった部分がアニメ独自の魅力となっていたと思いませんか? 原作であるマンガとは違った部分も愛せるアニメだったと筆者は思います。

(加々美利治)

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