TVアニメ化『チェンソーマン』 「MAPPA」のクレジットが意味するものとは?
マグミクス / 2021年6月30日 15時40分
![TVアニメ化『チェンソーマン』 「MAPPA」のクレジットが意味するものとは?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_57057_0-small.jpg)
■アニメ『チェンソーマン』ティザーPVとメインスタッフが発表される
「週刊少年ジャンプ」に連載され、単行本累計1100万部を売り上げた怪作『チェンソーマン』(著:藤本タツキ)のTVアニメ化が発表されました。
制作を手掛けるのは『呪術廻戦』『進撃の巨人 The Final Season』『ユーリ!!! on ICE』など多くのヒット作を担当し、いま勢いに乗っているアニメスタジオ「MAPPA」。公式サイトでは2021年6月27日にティザーPVも公開されており、その力の入った映像美はがぜん注目の的となっています。
放送時期は未定ですが、スタッフは実力派が顔をそろえており、良いアニメになることはほぼ間違いないと思われます。デンジが、早川アキが、マキマがその声を聞かせてくれる日が今から楽しみで仕方がありません。
ただ、本作のアニメ化については、非常に気になる点がひとつ存在しています。それは権利元が「(C)藤本タツキ/集英社・MAPPA」とクレジットされている点です。これは制作会社であるMAPPAが出資側であることを意味しているのです。
近年のアニメは、企業の単独出資ではなく、複数の企業に出資してもらう製作委員会方式を取ることが多くなっています。この方式には多くの企業に参加してもらうことにより金銭的な負荷を分散することができる利点が存在しています。
また、製作委員会方式にはアニメがヒットしなかった場合のリスクも小さくなるという利点もあります。かつて、アニメへの出資が少数の会社によって行われていた時代には、おもちゃが売れなければそのまま倒産につながったり、メインスポンサーの撤退により番組が終了に追い込まれたりするケースも見受けられました。
有名な事例では『機動戦士ガンダム』の初期のメインスポンサーだった「クローバー」はガンダムの後にも『無敵ロボ トライダーG7』などで売り上げを伸ばしていますが、『聖戦士ダンバイン』や『亜空大作戦スラングル』といった作品ではおもちゃの売れ行きが伸びず、結果としてダンバインの放送中に倒産の憂き目を見ています。
また1985年のTVアニメ『蒼き流星SPTレイズナー』ではメインスポンサーの三洋電機がファンヒーターの一酸化炭素中毒事故により撤退、打ち切りとなり後に空白部分を補完するためのOVAが制作されています。
■制作現場の改善なくしては日本アニメの存続は難しい
TVアニメ『チェンソーマン』ティザーPVよりデンジとポチタ (C)藤本タツキ/集英社・MAPPA
このように、アニメのスポンサーは1990年代前半までは博打的な要素が強かったのです。この問題を解決したのが、1995年に放送されたTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』で用いられた製作委員会方式でした。
元々は演劇などで使われていた方式だったのですが、『エヴァ』の成功により得られた利益が莫大だったこともあり、アニメ製作における革新的な方式としてもてはやされ、多くの作品で同様の形式が用いられることになりました。
しかし製作委員会方式にはアニメが生みだした利益は出資企業のものであり、実際にアニメの制作を行う会社及びスタッフには還元されないという問題点がありました。
アニメの世界において、「製作」とは出資及びアニメに関連する商業活動を行う企業のことを指します。「制作」とはアニメを作る会社及びスタッフの意味があります。「製」と「制」、このよく似た2文字を隔てる壁は大きく、現場の疲弊を招いています。むろん、スタッフがヒットに至らなかった際の損失を被らなくてもいいというメリットはあるのですが、近年は改善されつつあるとはいえ現場に回るお金はまだまだ少なく、才能あるスタッフが貧困に苦しみ離職者が絶えないという現状は無視できません。
このような状況に待ったをかける一手として近年見られるようになったのが、制作会社による出資です。大ヒットを飛ばした『鬼滅の刃』ではやはり制作会社である「ufotable」が出資側としてクレジットされており、おそらくある程度の利益配分を受けられたのではないかと推測されます。
とはいえ出資できるほどの資金プールを持つ制作会社はそれほど多くはなく、まだこの流れは主流となっているわけではありません。『チェンソーマン』と同様に「MAPPA」が制作を手掛けた『呪術廻戦』では製作委員会方式が取られています。同じ集英社の「週刊少年ジャンプ」作品でも手法が混在している状況なのです。
付け加えておきますが、製作委員会方式は悪いやり方ではありません。しかし、現場にお金が流れず疲弊を招く要因となっていることもまた事実です。現状、アニメ制作において存在感を増している中国相手に競争をするには、現場の状況改善は不可欠です。日本が世界最高のアニメを作り続けていくためには、今、やらなければいけないのです。『チェンソーマン』の上げる利益が制作スタッフに還元されることを、切に願います。
(ライター 早川清一朗)
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